素材:Abundant Shine様
早いもので何も言えずに別れてから2年の月日が流れていた 高校が違うとはいえ同じ県内なのに一度も会うこともないなんて 人生なんてこんなものかもしれない そうそう簡単には映画やドラマのような展開なんて起こるわけない Crescendo 3 日曜日友人たちと映画を観て、ショッピングをして臨海公園まで足を延ばした 「ね、、アイスクリームでも食べない?」 「賛成〜」 ベンチに腰掛けてアイスクリームを食べながら女の子3人で他愛もない話を繰り返す 女の子の話はいつでも同じ。 アニメやドラマの話、音楽の話、ファッションの話、 そして、最後には好きな男の子の話に花が咲き乱れていく 誰が好きとか、誰が誰を好きなどと女の子の噂話は尽きないものである 盛り上がったそれぞれの話が一段落すると、互いに顔を見合せながら 女同士でこの場にいる事に小さな溜息を洩らす 目の前に広がる海の波間に午後の陽射しが反射してキラキラ光る。 緩やかに打ち寄せる波の音が、いつか聴いた土浦の奏でていたピアノの音と重なる 土浦は今もピアノを弾いているだろうか? それとも、夢中でボールを追いかけている? 「、どうしたの?ぼんやりしちゃって」 「なんでもないよ」 2年も経つのに、私…土浦のことを忘れていない? というより、忘れられないでいる バイバイなんて決心したくせにどこかに残る小さな執着心みたいのがあって 我ながら未練がましいなぁと思わず口許が緩んで苦笑してしまう 「なに笑ってんの?」 「べ、別に笑ってないよ」 「なーに?思い出し笑い?」 「、知ってる?思い出し笑いをする人ってねぇ…」 「はいはい、スケベだって言いたいんでしょ?」 冗談とはいえスケベ扱いされ、ちょっと拗ねたフリをしていると 風に乗って心が弾むような音楽が流れてきた 「見て、あそこに人だかりができてるよ」 「何かやってるのかなぁ」 「ストリートライブかも」 「楽しそう! ね、行ってみない?」 私たちは流れてくる軽快な音楽に誘われるように人だかりの中に入って行った そこで待ち受けるものに気付かないまま。 「え?ヴァイオリン?」 遠目でよくは分からないが、大学生くらいの人が演奏しているようだ ヴァイオリン=クラシック=眠くなる的なイメージが先行していてあまり馴染みがないが 流れてくる軽快なメロディがそんな壁を一瞬にして取っ払ってくれる タイトルは知らないけれど、どれもどこかで耳にしたことがある曲ばかり。 いつの間には曲に合わせて手拍子を取っていた 弦楽器だけでこんなにも軽快なメロディを奏でられる演奏者の顔を見てみたくて 人混みを避けて前へ出て行った すると、演奏者の後ろの方にキーボードが見えた クラッシックなのに?ピアノじゃないんだ? そう言えばピアノの音はしていないよね? そっか、キーボードの音がヴァイオリンの音を軽快にしているんだ すごいなぁ、どんな人が弾いているんだろう 「ちょっと、どこに行くのよ」 どこか優しくて懐かしい音色 耳に響く音色には友人たちの止める声さえ聞こえていなかった ただ無意識にキーボードの音を追って行った なぜだろう、もっと近くで聴きたい 人混みをかき分けて前に進み出ていく もっと聴かせて 一番前まで進み出た時、『とくん』と胸が鳴った 「土…浦……?」 瞬間、金縛りにあったように呼吸が止まる とくん とくん と、胸の鼓動が段々大きく鳴り響いてきて 歓声やヴァイオリンの音が聴こえなくなった 今、の耳に聴こえてくるのはあの時のピアノの音だった 忘れようとした土浦への思いが蘇っていく 気がつくとヴァイオリンを弾いていた人が「今日はどうもありがとう」と挨拶していた いつの間に終わってしまった演奏の余韻に浸っていたら不意に肩を叩かれた 「どうしたの?」 急に動き出した時間に戸惑っていると「終わったよ、そろそろ帰ろうか?」と 声を掛けられ夢から現実に引き戻された どうしよう 土浦に声を掛ける? どうやって? 『久しぶり、元気だった?』 、アンタにそんな事できるの? できない… もう終わらせなくちゃいけないのにバカみたいだ でも、嬉しかったよ また土浦の奏でる音が聴けたから… 「帰ろう」と友人に声を掛けたが、それは自分に言ったセリフ。 あの時と同じように心の中で「バイバイ」と呟いて背中を向けて歩き出したその時、 懐かしい声が耳に届いて一気に心拍数が上昇した 「!」 その声に振り向くと土浦がこちらに走ってくるのが見えた 逃げ出したいと思った だけど、サッカーで鍛えた足は伊達じゃないね 土浦はあっという間に目の前に立っていた 「久しぶりだな 元気…そうだ」 「うん、元気だよ 土浦も元気みたいだね」 「まあな」 喉が渇く 緊張が最高に達しているのがわかる 友達の視線が私と土浦を交互に見つめている ぎこちなく「汗…すごいね」なんて無理に言葉を引っ張り出した すると土浦は「少し張り切りすぎたみたいだ」と、そう言って笑った 「使っていいよ」 「いいのか?」 が差し出したハンカチを少し躊躇いがちに受け取りながら 土浦は「サンキュ」と額を拭った ハンカチを渡す時に触れた指先を見ながら やっぱり土浦の指ってきれいだと思った自分に苦笑する 「、コレ 洗って返すな」 「ううん、最高の演奏を聴かせてくれた土浦にプレゼントするよ」 そんな困った顔をしないで… 「じゃあね、バイバイ」 バイバイ…… 胸が痛んだ BACK TOP NEXT |