素材:clef様
何を言えばいい? 何て言えばいいんだ? 河原までをわざわざ連れ出し覚悟を決めた筈なのに、 左之助はなかなか切り出せずにいた もらってやるよ 5 「きょ、今日はいい天気だなぁ」 「は?」 しまった〜 何を言ってるんだ俺は…天気の話をする時間帯じゃねぇだろ 横目でを見ると、案の定鋭い目つきで左之助を睨んでいた は呆れたようにフッと溜息を吐くと小石を拾い上げ その目を水辺に移すと川に投げ入れた うわぁ、焦ったぜ あの石をぶつけられるかと思った マジで早く切り出さねぇと 本気で石をぶつけてくるかもしれねぇな このままじゃいかんとばかりに大きく息を吸い込み声を掛けようとした時 「原田さん」と不意にが振り返ったので慌てた左之助は2〜3歩後退りした 「な、な、な、何だ?」 「何を焦ってるんです?私に話があるんじゃないんですか?」 「話!?…ははは…そうね、話…ね」 「ないなら帰りますけど…」 これ以上モタモタしてたらのヤツ、本気で帰っちまいそうだ しかし、いきなり『惚れてる』って訴えるのもどうかと思うし、 悩んだ挙句、左之助はに「飲みに行こう」と自分でも予期せぬ方向に言葉を発すると の表情が硬くなっていった 「お酒…ですか?」 「団子もいいけどよ、たまにはいいんじゃねぇか?」 「お断りします」 恐らくまた酔ってとんでもない醜態を晒す事になってしまったらとは思っているのだろう 左之助はそう思うと自分なりにフォローしたつもりだったが逆にの気持ちを逆なでしてしまった 「大丈夫だって、今度は裸になっても俺しか見てねぇし」 「原田さんっ!!」 「な、何だ?」 「何だじゃありません!何でそんなに裸に拘るんですか?」 「あ、いや…別に拘っちゃいねぇが…拘っちゃいねぇが…面白くねぇ」 「お、面白くないって…」 「だってよぉ…他の連中はお前の裸を見てんのに、俺は憶えてないなんてよぉ」 「憶えてなくていいです!」 「ダメだ」 「何でよ!」 「お前の裸を見ていいのは俺だけだからだ」 あれ? 俺、今とんでもない事を口走らなかったか? ちらりと横目でを見ると、僅かに俯いていて少し頬が桜色に染まっているように見えた 重たい沈黙が続き、互いに次に繋がる言葉が見つからず川の流れる音だけが響いていた どれだけの時間が流れたのか、短かったのか長かったかも分からないまま その空気を断ち切るようにが静かにフッと息を吐いた 「…原田さん」 はゆっくりと口を開き始めた 「私は…これでも嫁入り前の娘なんです。もし…またお酒を飲んでこの前の事のようになったら… もうお嫁に行く事ができません…だからもう二度とお酒は飲まないって決めたんです」 そう言うに左之助は「別に嫁になんて行けなくてもいいじゃねぇか」と素っ気なく返した 予想外の答えには「…ひどい」と呟くように囁いた 「ひどくねぇ」 「……」 「…ってやるよ」 「え!?」 「お前が嫁に行けなくなっても俺がもらってやっから心配すんなって」 の頭に一気に血が上った感じがした 血液が逆流して心臓の周りで沸騰し始めたように鼓動が激しくなった この人は何を言っているんだろう? 自分で何を言っているのか気付いているんだろうか? 血迷っているとしか思えない 「原田さん、頭 平気ですか?」 「あ?…何だよその言い方は…」 「だって…頭がおかしくなったとしか思えないから」 「ったく…だけどよぉ、夫婦になっちまえば裸を見せたって醜態になんねぇだろ?」 おそらく、それは左之助流のフォローなんだろうが、今一つ嬉しくないと思うだった 「それじゃ、私の裸を見る為に夫婦になろうって言ってるみたいじゃないですか? そんなにまでして裸を見たいんですか?」 「…見たい」 「見てどうするんですか?…原田さん……私と…したいんですか?」 「お、お前…女のくせになんつー事を……って…やりてぇけどな」 開いた口が塞がらないというか、は暫し茫然としていたが 多分左之助の言っている事は本心なのだろうと思った 気が付くと左之助はいつもの近くに居た 初めて屯所に行商に行った時からそうだった 気がつかない気の使い方をすることはも知っていた 左之助はいつから自分をそんな風に見ていたのだろうか 出会った日からの事を走馬灯のように思い起こしていると、今に至る光景が無性に可笑しくなり は思わず「ぷっ」と吹き出すように笑っていた 「お前…何で笑ってんだよ」 「だって…、原田さんがあまりにも適当な事言うから…」 「適当ってなんだよ…俺は真面目に言ってるぞ」 「真面目…ですか?それなら原田さんは新選組を辞めて私と一緒に八百屋をやってくれるんですか?」 「へ?…そ、それは…」 は笑う 私達は思い合う事があっても決して一緒にはなれないということ は一人娘だ 母親を失くし父親と二人で八百屋を営んできた いずれは婿を取って店を継いでいく それは父親の望みでもあり、も承知していた 「原田さんが新選組を大切に思うように私も店や仕事が大事なんです」 ただ惚れた女と一緒になりたい、そう安易に考えていた左之助に現実が突き付けられた 「原田さん…?」 「な、何だ?」 「また一緒にお団子食べましょうね」 「…あ、あぁ」 そう言って笑うに左之助は何も言えなかった 俺は新選組を抜けてと一緒になれるのか? BACK TOP NEXT |