毎日重たい野菜を担いで行商している私は、 他の女の子に比べたら腕も足も太いし多分に筋肉質かもしれない それでも中身は普通の女の子なんだよ…多分 もらってやるよ 3 「テ…テメェ…き、きったねぇだろーが!」 一瞬の放心状態から抜け出すと、原田の顔にはが噴き出した小豆の粒が… 普段の私なら例え自分がやってしまった事でもこの状況に大笑いをするところだが、 今の私には笑う事もできず、多分怪しいくらいに引き攣った顔をしている事だろう 「原田さんが変な事を言うから…」 「見たもんはしょうがねぇだろ」 「見たって言ったってそれは夢でしょう!?」 「うーん…だけどなぁ…妙に生々しくてよぉ」 「夢ですっ!!」 「は?」 「原田さんが見たのは夢なんですっ!誰が何と言おうと夢ですっっ!!」 「何を力説してやがるんだ?変なヤツ」 は心臓が破裂してしまうのではないかと思うほどドキドキしていた その反面、左之助がアノ事を夢と勘違いしている事に少し胸を撫で下ろす 微かに残る左之助の記憶を誤魔化すしかないとは思った 「夢か…?」 「そうですっ!!」 「だったらよぉ…ちょいと失敗しちまったかもな」 「な、何がよ!?」 「だってよ…夢なら触りまくっておけばよかったなぁ…と」 バッチーン!!! 店内に渇いた音が鳴り響く それは、言われるまでもなくが左之助の頬を思いっきり叩いた音である 「いってぇ!!何しやがるんだテメェ」 「うるさいっ!アンタなんか団子をつまらせて死ねばいいのよっ!!」 「なんだとっ!!……ぐぐっ…」 は皿に乗っていた団子を一串掴むと左之助の口に突っ込み、 「ばかやろー!」と言葉を残し逃げるように店を飛び出して行った その状況に解せないのは左之助で、何が何だか分からず 「俺…何か悪いことでも言ったか?」と、ただ呆然と見送るしかできなかった 当然酔っていた左之助は途中までのとのやりとりは覚えていたが、 正直最後の方は記憶が曖昧だったのだ しかし、さっきのの態度はあまりにもらしくなかったので これは原因を探らねばと急いで屯所に戻る事にした 屯所に戻って思い当たりそうな事を聞いていると 次第に昨夜の事が明るみになっていく 「やっだ〜、左之ちゃんてば憶えてないの〜?」 「…憶えてねぇ」 「いやぁのヤツいい体をしてたよなぁ」 「…憶えてねぇ」 「ズルイですよねぇ、原田さんだけ目の前でさんの裸を見て」 「憶えてねぇ…ぞ」 っつーか、お前らみんなの裸を見たっていうのか? 俺は憶えてねぇっつうのによぉ くそ、何か面白くねぇ 「おい、桜庭」 「どうしたんです原田さん?血相を変えて」 左之助は鈴花を捕まえると昨夜の出来事を話すようにと迫った 困惑したのは鈴花だ 今朝もから同じように迫られ話したばかりだったからだ 「原田さんもですか…」と溜息交じりに言うと、 左之助は「他に誰かに話したのか?」と鈴花を問い質した 「さんですよ」 その言葉で、流石に鈍感な左之助でもの様子がおかしかった事に気付いた 左之助は「悪かったな、これで団子でも食え」と鈴花に少しばかりの金を渡した あれは夢じゃなかったのか… くっそ〜 左之助は屯所を飛び出しての所へ向かった が店先で溜息を吐きながら野菜を並べていると 物凄い勢いで左之助が飛び込んで来た 「ど、どうしたんですか原田さん、そんなに慌てて」 「いいからちょっと来い、お前に話がある」 左之助は渋るの手を掴むといきなり走り出した その手はまるでには拒否権がないかのように強く掴まれていた 「は、原田さん、放して下さい」 「ダメだ」 そして河原まで来ると、左之助はようやくの手を放した 「話って何ですか?」 は強い口調で訊ねた 左之助の話はなんとなく予測がついたし、出来れば聞きたくないと思ったから。 しかし、案の定左之助の話は昨夜の事だった 左之助はの両肩に手を置くと「あれは夢じゃなかったんだな」と 念を押すようにその手に力を込めて揺すった 「夢…です」 「いや、夢じゃねぇ」 「お、思い出したんですか?」 「…みんなから聞いた」 「それなら…夢…ってことに…しておいて下さい」 どれだけの思いでがそう言ったのか、左之助には知る由もなく 己の欲望だけでとんでもない事を口走ってしまったのである 「夢って事にはできねぇ、だって俺だけ憶えてないなんて不公平だろう?」 「ふ、不公平!?」 「そうだ、だからもう一度俺に見せろよ」 「ほ、本気で言ってるんですか?」 お酒の上の事とは言え、醜態を晒して死ぬほど恥ずかしいと思っているのに 笑顔で頷く左之助がには信じられなかった 怒りと哀しさで握り締めた拳が震えていた 「…じゃえ……」 「ん?なんだ?」 流れてくる悔し涙を隠すように着物の袖で拭うと、 「お前なんか死んじゃえ!!」と左之助に罵声を浴びせは走り去った 「な、なんだ?アイツ何で泣いて…」 左之助は去って行くの背中を茫然と見送っていた 翌日からが屯所に来る事はなかった 「おじさん、さんは具合でも悪いの?」 屯所に顔を出さなくなったを心配して鈴花が訊ねると 「いえね、屯所には行きたくねぇって急に我儘を言いましてねぇ」との父親は苦笑いをした それを聞いた鈴花が血相を変えて今度は原田を問い質した 「原田さん、さんに何を言ったんですか?」 「おっかねぇな…何も言ってねぇよ」 「本当ですか?」 鬼気迫る鈴花に、「もう一度裸を見せろって…」と蚊の泣くような声で打ち明けた 「言ったんですか?」 「……言った」 鈴花は大きな溜息を吐くと「最低」と言い放った 女から『最低』と言われる男ほど最低なものはない だが、左之助は悪い事だとは思っていなかった そもそも惚れてる女の裸を見たいと思って何が悪い そう思っていたが、あの日以来姿を見せないに少しだけ胸が痛んだ その日から機嫌を窺って団子でも奢ってやるかと毎日店まで出掛けて行ったが いつも店先にの姿はなく結局すごすごと逃げるように戻るという日々が続いた そんなある日、土方に呼ばれ左之助は彼の目の前で正座させられていた BACK TOP NEXT |