素材 Abundant Shine 様
面白くなかった あの日は目の前に俺がいたのに柳生にだけ挨拶をした あれはアイツの駆け引きだったのか? そうは思えなかったが、何故か俺はアイツに一言ってやりたくて追いかけたんだ カラオケ屋なんて大体行く所は察しがつくというもんだ 案の定店の前にアイツの自転車があって、俺はホッとした 初 恋 7 =仁王side= まったく俺は何をしているんだ? 店の前まで来たものの中に入ることもできず、ただここで待っているなんて… 一言言ってやるなんて、何を言うつもりなんだ? 何故俺を無視して柳生にだけ声を掛けたんだ?と聞くつもりなのか… なんのために? 俺らしくないぜよ 思わず顔に苦笑が浮かぶ 気がつくと俺はいつ出て来るかも分からないアイツを… アイツの自転車に跨って待っている どれくらい待ったかは俺にもよう分からん それが短かったのか長かったのかも… でも、店から出て来て俺を見つけた時の驚いたお前の顔が何故か嬉しかった もう俺の頭の中には何かを言ってやろうなんて気持ちはなかった 妙に気恥ずかしくて、思いつく言葉も見つからなくて 不意に出た言葉が「送っちゃるよ」だった 我ながら情けないと思う は俺に送られることを渋っていたが、友達の後押しで承知してくれたようだった を後ろに乗せて走るのは初めてのことじゃない けど、今日のはどこか違って見えた いつもなら遠慮がちに俺の制服をそっと掴んで乗っているのに 今日はしっかりと俺の腰に腕を回している どういうつもりでそんな事をしたのかは分からんけど、 のその行動は俺を戸惑わせるには充分な行動だった 柄にもなくドキリとした 少しだけ鼓動も早くなっているような気もする 俺はそれが回されているアイツの手から伝わらないことを祈るだけだった 「今日は大胆じゃのぅ」 咄嗟にそんな言葉を言ったが、少し掠れていたかもしれない でも、はそんな些細な俺の動揺に気づくこともなく 逆に「こういうのは嫌い?」と切り替えしてきた そんな事言われて嫌いなんて言う男はいないだろう? それともそれがお前だったからなのか、「結構好きぜよ」なんて答えてる俺は… 話題を変えるべく「カラオケは楽しかったか?」と訊ねれば楽しかったと答える 俺が驚いたのはその後じゃった どう転んでもアイツから俺を誘うなんてことはありえない それなのに「今度一緒に行く?」なんて… 何度考えても不思議だった 妙にテンションが高いし…はしゃぎ過ぎって感じもする どこか違和感を覚えながらも俺は何も言えなくて ただに調子を合わせるだけだった いつもより短く感じたアイツの家までの距離を 回された手に意識しながら俺は自転車を漕いでいた 「送ってくれてありがとう」 「かまわんよ」 交わす言葉はそれだけ 腰の辺りに少し寂しさを覚えながらアイツに背を向ける この時の俺はまだの決心に、情けない事じゃが気づいていなかった BACK TOP NEXT |