素材 Abundant Shine 様
「どうしたの?」 「なにが?」 「元気がないよ」 「そんな事ないって…私は元気ですよ〜」 わざと明るく答えても、ずっと私の友達をやっている遥には通じる訳がなかった 「仁王の事好きになっちゃった?」 「そんなことないよ」 「そう?」 「そうだよ」 私…仁王君を見てた…? この教室からよく見えるテニスコート 知らず知らずのうちに私は仁王君を追っていたのだろうか… 初 恋 5 『仁王の事好きになっちゃった?』なんて聞かれて『うん』って答えられたらどんなにいいだろう やっと自分の気持ちに気づいて、その後どうしていいか判らないなんて… 今まで好きになった男の子たちとは違う気持ち… 人を好きになるのってこんなに苦しかったっけ? 仁王君に私の気持ちを伝えればこの想いは楽になれるの? 私ってば何を考えているの? 仁王君は『俺に惚れるな』って言ってたじゃない 自分にもこんな気持ちがあったのだということと、 どうして気づいちゃったのだろうという気持ちがぐるぐる回って複雑な気分だ 「、久しぶりにカラオケでも行かない?」 「え?」 「何か悩んでいるみたいだし、こういう時はパーッと騒いで忘れるに限るよ」 「そうだね」 そうだった… 私は男の子といるより女の子と遊ぶ方が好きだったはずだ それがいつの間にか仁王君といることが多くなって… は少しでもその思いから逃れる為に友達とカラオケに行くことにした 「鞄を取ってくるから待ってて」 「OK!それじゃ下駄箱のところで待ってるから」 「うん」 が急いで教室に戻ると、中から話し声が聞こえてきた あれ?まだ残っている人がいたんだ 「最近、さんと親しくしているようですね」 え?…今のって柳生君の声だよね…?私のこと言ってたみたいだけど… 「さぁな…普通じゃろ?」 仁王君も…いる? はドアを開けかけたその手を止め、中の様子を窺った なんか立ち聞きをしているみたいでイヤだな…でも、入りづらいよ 「珍しいですね、仁王君のタイプはさんとは逆のタイプだと思っていましたが」 「柳生の言うことを聞いとると俺がの事を好きみたいじゃのう」 「違うんですか?」 「アイツは面白いからのぅ…かまっているだけじゃ」 「ほぅ…面白いからですか?」 え?なに?…私が面白い? 私のどこが面白いのかイマイチ納得できないけど、仁王君には私が面白いやつに見えるんだ ただそれだけで私はかまわれていただけ 今まで自分の周りにいなかったタイプだから珍しかっただけ… バカみたい… そりゃあ期待はしてなかったけどさ… うぅん、いつの間にかしていたのかもしれない だけど、私をかまう理由がそんなだったなんて、笑っちゃうよ このまま鞄なんて放っておいて帰ってしまいたいけどそうもいかない 悩んでいても仕方ないよね? は意を決してドアを大きく開いて中に入っていった 自分の席が柳生君に近いことを少し恨めしく思いながらも、二人を無視するように鞄を取りにいく 「おやさん、まだ残っていたのですか?」 「うん、友達と話してたの」 「あぁそうですか」 は鞄を手にすると、「柳生君さようなら」と声をかけ背中を向けた その間、ずっと仁王君の視線を感じていたけれど気づかないフリをしていた どうしても仁王君の顔を見ることができなかったから… 柳生君にだけ挨拶をしたのはほんの抵抗だったのかもしれない 鞄を手にしたときに小さく揺れた仁王君のくれたマスコットが切なかった 「もう帰るんか?」 帰ろうとする私の背中に仁王君の声が聞こえてくる 私が何も答えないでいると、「帰るなら送っちゃるよ」と言葉を繋げるように言ってきた 「残念、これから友達とカラオケに行くんだ」 は一度も振り返ることなく、それだけを言うと教室を出て行った 「なんで柳生にだけ挨拶をするんじゃ」 「同じクラスだからじゃないですか?」 「な〜んか面白くないのぅ」 その後、仁王と柳生がそんな事を話していたなどは知ることもなく 誘われたカラオケで無理に楽しんでいたのだった 「どうしたのよ、元気ないよ」 「そんなことないよ」 友達の遥は疑いの目を向けながら「やっぱり仁王のこと好きになっちゃったんだ」と笑った 「わからないよ」 「分からないってことは好きだってことだよ」 「……」 「仁王はレベルが高いからやめときなって言ったのに…」 「レベルが高い?」 「うん…はさ、仁王の好みのタイプって知ってる?」 好みのタイプ? そう言えば私とは逆のタイプって柳生君が教室で言ってたけれど…その事なんだろうか 「うぅん、知らない」 「アイツの好きなタイプって駆け引き上手な女の子だっていう話だよ」 「駆け引き上手…?」 はその言葉に思わず笑っていた それは決して可笑しいからではなく、自分とは明らかに違うと悟ってしまったからだ 笑っていないと涙が出てしまいそうだったから… 「駆け引き上手なんて私には無理だ〜」 「だよね、はストレートに顔に出ちゃうタイプだからね」 「悪かったわね直ぐ顔に出て」 「まぁまぁ、それがのいいところなんだからさ」 そうだよね それが自分のいいところなんだって思わなくちゃ、この気持ちは捨てられないもんね よかったよ…早めに気がついて やっぱり私には恋愛はむかない こうやって友達と楽しくやっている方が似合っているんだよ 「よーし、それじゃ歌っちゃうよ〜〜」 「いっけぇ〜〜!」 楽しんでいるつもりでも、すぐに想いが消えるわけでもなく 涙が出そうになるたびに笑いで誤魔化していた もう考えない 忘れる これは恋じゃない は何度も何度も自分に言い聞かせていた BACK TOP NEXT |