素材 Abundant Shine 様
恋なんて天災のように予期せず突然やってくるもの それは或る日突然、恋をした事のないに舞い降りてきた 「俺に惚れたらいかんぜよ」 それが、自分の気持ちに気づいたに返された言葉だった 初 恋 2 自転車のカゴにデイバッグを突っ込み、帰ろうとしたの耳に テニスコートから打ち合うボールの音が飛び込んできた 立海のテニスコートは駐輪場からよく見える所にある 今までは気にもならなかったが、友人たちからの情報による「仁王君のプレイは華麗」とか 「コート上の詐欺師」とかいうのを確かめたくなったのかもしれない は自転車を戻すと、テニスコートに近づいていった すると、コートを囲んでいるフェンスにたくさんの女の子たちが群がり、 個々にお気に入りの名前を呼びながら黄色い声を上げていた 「ふぅん…すごい人気」 はフェンス越しに暫くテニスコートを眺めていると、 やっと打ち合っているのが柳生×仁王ペアと丸井×ジャッカルペアだということが判った 「へぇ…本当に柳生君とダブルス組んでいるのね」 すると、コート内から「妙技、鉄柱当て」とか「レーザービーム」だとか ナントカ戦隊のヒーローみたいな技名がポンポン飛び出してきて はふざけているようにしか見えなかった だが、見ているうちに、それはふざけているのではなく本当に技なんだと理解できた 「すご〜い、なになに今の? 早っ、ボールがぜんぜん見えないよ」 気がつくとはボールの見える範囲で左右に首を動かしながら懸命に目で追っていた 「へぇ…仁王君でもあんな顔してプレイするんだ…ふふっ、なかなかやるじゃない」 「当たり前っしょ、遊びじゃねぇんだから」 「へ?」 懸命に見ていたは気づかなかったが、 いつの間にかフェンスの向こうにクルクルヘアで鋭い目つきの男の子が立っていた 「誰?」 「ムッ…アンタ、俺の事知らないの?」 「知らない」 「ちぇっ、聞いて驚くなよ…俺は時期部長候補の切原赤也ッス」 「ふぅん」 別に同学年でさえ知らない人がいっぱいいるのに、ましてや下級生なんて知るわけがない その切原赤也という男の子が時期部長候補と言われてもピンとこないし、 そんな事どうでもいいことで、驚きもしなかった ただ、現在2年生ながら部長を務めている幸村君や副部長の真田君に比べると 随分と見劣りのする子だと思ったくらいで… そんな事を思っていた私の心を見抜いたのか、彼は少しムッとした表情で私を睨みつけた 「アンタさぁ、もしかして仁王先輩が目当て?」 「は?」 目当て…? そんな風に見られちゃうんだ そりゃあそうよね、これだけの女の子が誰かを目当てで応援してるんだもんね でも…この子、どうして私が仁王君を見てるって判ったんだろう… あのコートには柳生君だって丸井君だって桑原君だっていたじゃない? 私の視線はそんなにも熱く仁王君を追ってたのかしら? 「おぃ赤也、何さぼってるん?また真田に怒られるぜよ」 その時コツンと切原君の頭にラケットが降って来て、そこに仁王君が立っていた 「いてて…何するんすかぁ」 「いいのか?真田が睨んでるぜよ」 「げげっ、ヤバイっす」 まるで驚かせるような仁王君の言葉に切原君は顔色を変えてコートの方に走って行った 切原君が行ってしまうと、仁王君は私を見るなりニヤッと笑った 「で?お前さんはここで何しちょるん?」 「え!?…あ、真偽を確かめに…」 「真偽?なんじゃそれ」 「いいの、気にしないで」 そう、別にいいのよ気にしなくても… 友人たち推奨のあなたのプレイを見に来ただけだから それも、たまたま駐輪場から見えたからだしね でも、確かに友人たちが推奨するだけの事はあるわよね テニスをしている時の仁王君は、今朝の意地悪そうな顔はしていなかったもの 「お前さん、もしかして俺に惚れたんか?」 「はい?何でそうなるの?」 「違うんか?じゃが、熱い目で俺の事見とったしのぅ」 「へぇプレイ中に私が見てるの気づいてたんだ?」 「やれやれ、俺も罪な男じゃの」 「人の話聞けよ」 人の話を聞いているのかどうかは定かではないが、 彼は「フッ」とキザっちく笑うと、持っているラケットで切原君にしたように私の頭をコツンと叩いた 「ちょっと、暴力反対!」 「暴力ねぇ…まぁいいけど」 「な、なによ」 「のぅ」 「なによ」 「お前さん…俺に惚れたらいかんぜよ」 なに?意味が判らないんですけど… 『惚れたらいかんぜよ』って……それって、私が惚れる事前提? なんて自意識過剰男なんだろう… 「安心して下さい、惚れませんから」 「ふぅん」 意味を含んだ様な彼の返事の仕方が気にはなったけど、 「どうもお邪魔しました」と私は彼に背を向け、片手をひらひらと振った 「あぁ…気ィつけて帰りんしゃい」 仁王君がどんな顔でそんな事を言ったのか背中を向けていた私には判らない どうせ、またにやりと笑っているに違いないだろう… 駐輪場に行くとカゴの中に入れたままのデイバッグにぶら下がっているマスコットが小さく揺れ は指で軽くそれをつつくと「自信過剰男」と呟いたのだった ペダルを思いっきり踏んで風を切りながら自転車を漕いでいたら、 「俺に惚れたらいかんぜよ」と言った仁王君の言葉が甦ってきた どういう意味なんだろ?……まぁいいか… 翌日の放課後、いつものように駐輪場へ行くと 停めてある私の自転車の荷台に仁王君が腰を下ろしていて、 私に気づくと「よぅ」と手を上げ声を掛けてきた 「ちょっと、人の自転車に何座ってるのよ」 「なぁ…疲れたきに送ってくれんかのぅ」 「はぁ!?」 仁王君は、疲れて歩く気にもならないから自転車で送ってくれと 到底思いもつかない程の戯言をぬかしたのだった 「もう帰るんじゃろ?ついでついで」 「ついでって……?」 いや…普通さ、男の子が女の子を送るっていうのは判るのよ でもさ…私も生まれた時から一応女の子だし… とりあえず女に生まれた以上男に守られてなんぼのもんだと思う訳よ そりゃあね、私は男に守られるようなタイプでもないし守られたいとも思わないけどさぁ アンタも男ならさ「俺が送ってやる」くらいは言ってもいいと思うんだよね そんなこと思いながら仁王君の顔を見たら飄々とした顔してるんだもん あーぁ…現実なんてこんなもんよね は大きく溜息をつくと、「しっしっ」と仁王を追い払うように手で払うと 駐輪場から自転車を出し、さっさと帰ってしまおうと思い自転車に跨った 「ぐっ…おもっ」 自転車に跨った瞬間に荷台に重みを感じたと思ったら なんと、仁王が荷台に座ったのだった 「何してんのよ」 「送ってくれるんだろ」 「誰がそんなこと言ったのよ」 「俺」 はい?はい? コイツってばやっぱりよく判んない 誰かコイツをなんとかしてよ 「早う行きんしゃい」 こ、こいつ…マジで張り倒してやろうかと思った瞬間、は腰に違和感を感じた 「えっ!?……ぎ、ぎゃぁあああーーーっ!」 「何驚いてるん?落ちると危ないから掴まっただけじゃろ」 「ばかーーっ!さ、触るな…へ、へ、変態っ!」 「随分な言われようだな」 が慌てて自転車を降りてしまったので、仁王はそれを押さえ、 そして、自分がサドルに跨るとに向かって指で荷台を指し示した 「へ?」 「俺が送っちゃる、乗りんしゃい」 「え…えーと……け、けっこうです」 「乗らんなら無理は言わんけど…この自転車俺が乗って行くきに」 「なっ…なんでそうなるのよ」 「だったら大人しく乗りんしゃい」 「……」 えぇ、乗りましたよ 乗りましたとも… だって乗らなかったら仁王君は本当に私の自転車に乗って行きそうだったし… っていうか、彼なら絶対そうすると思ったから… 自分の自転車なのに遠慮がちに荷台に座ると、 仁王はいきなりの両手を掴み、自分の腰に腕を回させた 「ぎゃぁああああーーーっ!」 思いがけず身体が密着したは、再び叫び声を上げると荷台から急いで飛び降りた 「いちいちうるさいヤツじゃな」 「だ…だって」 躊躇うに「まぁ…落ちんようにつかまっときんしゃい」と、 仁王はそう言うと、少しだけ笑っての頭をゲンコツで軽く叩いた 「…う、うん」 女の子たちの視線を感じながらも荷台に座ると、極力彼に触れないように制服だけを掴んだ 女の子なら一度は憧れるこんな光景を初めて体験したは どこか感じた事のない複雑な思いでいたのだった BACK TOP NEXT |