素材:アトリエ夏夢色様
「なぁガムもってねぇ?」 「俺が持っている訳ないだろ」 「ちぇっ、使えねぇやつ」 「なんだと」 ジャッカルとこんなやりとりをしながら俺の目はを追いかけている 3年になってクラスも離れて凹んでいる時に俺の耳に朗報が届いた ジャッカルとが同じクラスとは… 勿論、俺はしょっちゅうジャッカルに会いにいく 他の連中は俺とジャッカルがテニス部で、ダブルスを組んでいるから怪しまれる事もねぇし、 ハッキリ言ってしまえばジャッカルは今の俺にとってダシでしかない それはキスから始まった 2 相変わらずとは口を聞いていない でもアイツは友達とバカを言い合って、やっぱり悩みのなさそうな顔して笑って… 少しくらいその笑顔を俺に見せてくれてもいいんじゃねぇ? 話しかけようにも話題もきっかけもなくて、ただ毎日ジャッカルに用があるフリをしていた きっかけがあればいいんだよな?その時俺は妙案を思いついた 「おぃジャッカル…今日ちょっと付き合ってくんねぇ?」 「……いやだ」 「なんだよ、まだ何にも言ってねぇだろぃ」 「お前に付き合うと碌な事はねぇ」 「お、そう言えば…駅前に美味いコーヒー屋ができたって噂だぜ」 「そうなのか?」 「おぅ!奢ってやるから…なぁいいだろ?」 「…そこまで言うなら」 よしっ、やっぱりコイツはバカだ 俺たちは中学生なんだぜぃ、学校の帰りにコーヒー屋なんか入れるわけねぇっつーの ま、それは後で誤魔化すとして…放課後付き合ってもらうか ははっ、俺って頭いいじゃん。やっぱ天才的? 「うぐっ…ブ、ブン太……ここって…?」 「そ、ファンシーショップっていうやつよ」 「ファ、ファ、ファイヤー!?」 「ファイヤーじゃなくてファンシーだって言ってるだろーが」 俺がいかにも女が好きそうなこの店に来たのは訳がある それは、勿論と話すきっかけを作るためだ 俺はあの時図書室でからハンカチを借りた アイツは捨てていいって言ったけど、俺はあの時のハンカチを今でも持っている 洗濯はしたけど、汚しちまったハンカチの代わりに新しいハンカチでも買って返せば アイツと話すチャンスができるってもんだぜ 「なぁブン太…こんな所に何の用があるんだ?」 「あぁ、女物のハンカチを買おうと思ってんだけど…男一人で入るのはちっと照れるだろぃ?」 「いや、俺は男二人で入るほうが恥ずかしいと思うぞ」 「ま、細かい事は気にすんな」 渋るジャッカルを無理やり引っ張って俺たちは店に入った 男二人で入ったもんだから、案の定女たちから冷めた視線を受けた 俺は別に慣れてるからいいけど、ジャッカルのヤツは真っ赤になって デカイ身体を縮めるように俯いて、それが茹でダコみたいで妙に可笑しかった その後、俺は自販機で缶コーヒーを買ってジャッカルに放り投げた ジャッカルは「また騙された」と不平を言っていたが、「騙されたお前が悪い」と俺は一笑した それから俺は近くの公園のベンチに座り込んで好物のグリーンアップル味のガムを口に放り込んだ やっとの思いで買ったハンカチを俺が見ていると、「お前、なんで女物のハンカチなんか買ったんだ?」 と、ジャッカルは俺の隣にどかっと座り込んで訊いてきた 「へへっ、実はさにな…」 「えっ!?って…あのだよな?」 「はひとりしかいねぇだろ」 「へぇ〜、ふぅん、ほぉ〜」 「なんだよ…別にこれはアイツから借りたハンカチを汚したからで…」 「ほぅほぅ…」 ジャッカルはニヤニヤ笑いながら「そうか、が好きだったのかぁ」と、 なにやら嬉しそうに俺の背中をバンバンと叩いた 「いてっ…好きなんて言ってないだろぃ、そりゃあちっとは気になるけどよ」 「それが好きってことだろ?」 「え…?」 俺がのことを好き? それじゃ2年の時、黒板に書かれたアイツの名前の隣に自分の名前を並べたいって思ったのも なんとなくドキドキするのも、ずっと気になっていたのも… それは全部俺がのことを好きだってことだったのか…? ブン太がガムをプーッと膨らませ腕組みをして「う〜ん」と考えている姿を見ながら、 コイツって結構女慣れしてると思ってたけど、本当は違うんじゃないかとジャッカルは思ったのだった 「ははは、お前って頭いいじゃん、ダテに禿げてないぜ」 「誰が禿だ誰がっ!」 「まぁまぁ」と、今度はブン太がジャッカルの頭をペシペシと叩いたのだった まさかジャッカルに俺の気持ちを気づかせてもらうなんて思わなかったけど、 なんか今はめちゃくちゃ清々しい気分だぜ 後は、にこのハンカチを渡して…と それで上手くいくはず……の予定だったんだけど… 現実はそう甘くないぜ 翌日、いつもの調子でジャッカルをダシにに会いに行ったら ふたりが楽しそうに話してるのを見た なんだ? ジャッカルは俺の気持ちを知ってたよな? だって俺とは話してくれねぇのに、なんでジャッカルと楽しそうに話してんだよ もしかして、あの時のことを気にしているのは俺だけで、アイツは全然気にしてないっていうのか? っていうか、忘れてるのかよ… なんかそれって…俺、バカみたいじゃねぇ? ブン太は抑えきれない苛立ちを抱えながら、そのまま自分の教室へ戻っていった それでも、せっかく買ったハンカチをどうやって渡そうかとブン太はずっと考えていて、 長いホームルームを終えた放課後、ブン太の足はの教室へと向いていた 「ったく、うちのHRは長いっつーの…もうみんないないじゃん」 俺が教室を覗くと、やっぱりもう誰もいなくて… 居た… 窓側の前から3番目… がそこで頬杖をつきながら、そこから見える校庭をぼんやり眺めていた 「あっ」と、小さく洩らしたブン太の声にはゆっくりと振り向いた 「…丸井君…?」 久しぶりに聞いた…俺の名前を呼ぶの声にドキドキした 何してるんだよブン太…今がチャンスなんじゃねぇ? あの時の事を謝って、ハンカチを渡して……だけど、身体が動かねぇ なんだよコレ…試合の時より緊張するじゃん 「どうしたの?桑原君ならもう部活に行ったよ」 「あ…お、おぅ……あ、あのさ…お前…」 俺が意を決して言おうとした時、アイツはまるでそれを否定するかのように 「早く練習に行かないと真田君に怒られるよ」って言って笑ったんだ なんだよ、俺には何も言わせてくれねぇのかよと思った瞬間、 は机の上の物を俺に放り投げてよこした 「丸井君…それ好きでしょ?」 は、それだけ言うとまたブン太に背を向けるように窓の外に視線を移した その時、ブン太の手にはグリーンアップル味のガムが握られていた 「サ、サンキュ……じゃあな」 は何も答えず背中を向けたままだったが、ブン太は嬉しくてたまらなかった 部活へ行く途中の廊下でも、階段、そして、部室やコートでも… 飛び上がりたいほどの嬉しさを体中で表現していた この日、部活で一番張り切っていたのはブン太だったのかもしれない 俺は単純だって自分でも思うぜ だけど、単純だっていい…俺はやっぱりが好きだ からもらったグリーアップル味のガム ブン太はそれを宝物のように大事そうにポケットにしまった BACK TOP NEXT なんかブン太らしくないですね まぁ彼も中学生なのでこれくらいということで… |