素材:Abundant Shine






世は大海賊時代



海賊王ゴールド・ロジャーが残してきた財宝を誰もが目指す


だが、その先にあるものは何なのだろうか?



そこには楽しい宴もある



過酷で醜い争いもある




そして、最後に手に入れるものは何なのだろうか…










04:みんな、またね!










あれから3ヶ月が経っていた



あの日と同じように夜の帳がおり、空には欠けた月と満天の星
今夜アタシは船を降りる



まだ鴉の血をひく者としての誇りは持ててはいないけれど
いつしかそんな日が来る事を少しだけ夢に見ながら船を降りる事にした



名も知らぬ小さな島



これからの自分を見つめるには似合っていると思った






「お別れだな」

「うん」

「寂しくなるぜェ、

「寝る前にはちゃんと便所に行くんだぞ、でねぇと寝小便すんぞ」

「するかっ!レディに向かってなんつーこと言うのよ」




アタシと同じくらいの歳の息子がいるというヤソップはそう言って送り出してくれた
そして、食料の入った大きな袋を差し出して「銃の腕も上げておけよ」とラッキー・ルウが笑う


アタシも「銃は諦めた」と答えながら笑顔を返す



すると、今度はベックマンがいきなりの肩を抱き
「もっと女を磨いたら今度はお頭じゃなくて俺が口説いてやるよ」と耳打ちしてきた




「別にシャンクスに口説かれた覚えはないし、それにアタシが女を磨いてイイ女になったとしても
 その時ベックマンはすっごいオッサンだと思うけど?アタシには釣り合わないよ」

「お前…いっぺんシバクぞ」




こんな風に遠慮なしに言いたい事言い合う時間が何より大好きだった




―― 自由に生きたい




ただそれだけで生まれた地を飛び出した
彼らと接しているうちに本当の“自由”というものの大変さを思い知らされた


きっと人間は多少の“束縛”があった方が楽に生きられるのかもしれない



それでもアタシは“自由”を選んだ




だからシャンクス達とはここで別れる
いつか“自由”を選んで良かったと思えるように…







「ん?」

「お前はこれから仲間を作れ」

「仲間?」

「そうだ、楽しい事も辛い事も分かち合えるそんな仲間だ」

「うーん、そんな仲間がアタシに出来るんだろうか…」




シャンクスは自分の仲間たちを見ながら、「気がつきゃ隣にいるもんさ」と大きな声で笑った


そんな簡単に言うけど、人が集まるって事はその人に人望があるってことじゃない?
アタシにはそんなもんないし、気が付けば一人だったなんて可能性の方が高い気がする



なんか落ち込みそう…とフッと溜息を吐くと、どうやらそれは隠し切れていなかったようで
ベックマンが「シバクぞ」とからかうようにの頭をこつんと叩いた


すると、シャンクスが「お前の力は大きな武器になる」とに語った
それは、これから生きていくへの励ましの言葉だったかもしれない



だが、その意味を知るのはもっとずっと先の事だった






「さ、別れの盃だ」とシャンクスが放り投げた酒瓶をそれぞれが受け取ると、
あちこちで「乾杯!」と瓶を鳴らし合う音が響いた




これで本当に最後だ



もしかしたらもう二度と会う事がないかもしれない




それでもアタシは自由に生きていく










酒を一気に飲み干し、口元を袖口で拭くとシャンクスがいきなり大声を出した




、後ろを向け」




言われるがままにが後ろを向くと、肩にシャンクスの手が添えられ
力の込められたその手には絶対に後ろを振り向くなという意思が伝わって来た




「お前の持っているその力は、いつか必ず自分と仲間を護る最大の武器になる
 だから誇りに持って生きろ…俺からはそれだけだ」

「うん」

「水平線の向こう側の海でお前を待ってるぞ、いつか会いに来い」




それは、もしかしたら会えないかもしれない…のではなく、また会えるという確信。




心が迷わないように、シャンクスがの背中をパンと叩く
その反動での身体が否応なしに前に進み出してしまい、その足を慌てて止めた


しかし、振り返る事は出来ない






は大きく息を吸い込んで片手を大きく上に振り上げた
すると辺りに少し冷たい風が流れ込んできて小さなつむじ風を作った



振り上げられたその拳は強く握られていて、風はその手に吸い込まれていくように
次第にはの身体を包み込んでいった






「みんな、またねー!!」






その言葉を残し、は闇の中消えていった












「行っちまったな」

「やってくれるじゃねぇかの奴…」

「いつか会えるのが楽しみだぜ」




の消えた後を見ながら、皆は酒瓶を大きく掲げた




「お頭、何だか寂しそうですぜ」

「そうか? ま、なんだな…雛を旅立たせた親鳥の気分ってところだな」

「ははは、ちげぇねぇ」






この先ずっと、シャンクス達はが羽根を休める為の止まり木となっているのだろう






「いつか、お前の仲間と共に会いに来い」






声に出さないシャンクスの口はそう語っていた















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