素材:clef様
心から楽しい思った 疑心暗鬼で誘われるまま船に乗ったはずだったのに 受け継がれた血に圧迫感を持ちながら生きてきた心が解放されるようだった 03:誇り 「いいか、的はアレだ」 「え?アレって……いいの?狙っても…」 「遠慮しないで撃て」 退屈しのぎに銃の扱い方を教えてやるとベックマンに誘われ 甲板の片隅では銃を持たせてもらっていた 剣を扱うにとって銃は好奇心をそそるものがあったが、的を定めるのに苦労がいった ズガァーン! 大きな音を立てて銃口から飛び出した弾がヤソップの顔の横を掠めて夜の海へ消えていった 「おい、俺を殺す気か?」 「ごめん、ラッキー・ルウを狙ったんだけど…」 「俺かよっ!」 「お前の腹ならいい的になると思ったんだがな」 プンプンと怒りながらヤケ食いに走るラッキー・ルウを見ながら一斉に笑いが起こる ベックマンは「お前に銃は向いてないようだ」と苦笑していた 銃は向いてないなんて初めから分かってた事だ だからわざとラッキー・ルウのお腹を的にさせたんだ アタシなら当てる事なんて出来ないから… 確かにベックマンの言う通り、退屈しのぎだったってわけね はフゥと小さく溜息を吐きながらベックマンに銃を返した すると、ずっと様子を見ていたシャンクスが口を開いた 「、俺が剣の相手をしてやろうか?」 「え?…あ、いや…滅相もない」 シャンクスの剣の腕前なんて見た事もないけど、アタシ如きが敵う訳がない それは剣を持つものなら誰しも感じる事が出来る威圧感がシャンクスにはあった 出来る事なら彼との戦いは避けたいと思っていたのに、それに反して彼は楽しそうに笑い 「遠慮するなよ」と自らの剣を抜いた 遠慮してるわけじゃないんだけどなぁ… と、思いつつも向けられた剣に身体が勝手に反応しても二つの剣を抜いていた しかし、笑いながら「来いよ」とを挑発するがシャンクスには隙がないのだ 一気に仕掛けたら一瞬にして殺られることは間違いない 「シャンクス、遊んでるでしょ?」 「少しな」 憎ったらしいヤツ! でも、お陰で気が付いたわよ アタシが挑発に乗り易いタイプだったってことがね 「これって勝負?」 「それでも構わないさ」 「じゃ、アタシが勝ったら何をくれる?」 「そうだなぁ…お前の言う事何でも聞いてやる だが、俺が勝ったら今夜一晩俺に付き合ってもらうぞ」 んげっ、一晩付き合うですって?それってもしかして乙女の危機? いつの間にか集まってきている連中がやんやと歓喜の声を上げている どっちが勝つか賭けまでしているヤツらまでいてアタシ達は祭りごとの主役だ 「、負けるなよ〜」 「お頭、負けたら恥ですぜ〜」 テメェらうぜぇ… こっちは乙女の危機が掛ってるんだ 間合いを測り、吸いこんだ息をゆっくりと吐き出し相手の呼吸に合わせていく そして、ピタリと相手の呼吸と重なったと同時にシャンクスが口を開く 「どうした?来ないならこっちから行くぞ」 一瞬、呼吸が乱れる 戦い慣れている 出鼻を挫かれるとはこのことだ 整えた呼吸を乱されの間合いが遅れた 咄嗟に十文字に構えた剣で目の前に迫って来た剣先を受け止めたが その剣は重く、受け止めるのに必死だった 「ほぅ、よく受け止めたな」 「お、乙女の危機だからね」 声をあげて笑うシャンクスに、もまた口の端を上げて笑みを浮かべた この時は考えていた このまま受け止めている剣を振り払っても、瞬時に次の剣が降って来る は受け止めている剣の力をほんの少しだけ緩めた その反動でシャンクスの剣が軽くなる 次の瞬間は身体を反転させしゃがみ込み、再び素早く反転させながら シャンクスの足元目がけて水平に左手の剣を滑らせた そして、その剣を避けるようにシャンクスが飛び上がった時、 右手の剣が半円を描いてシャンクスの背中に斬りかかった しかし、それは彼のマントの裾を掠っただけだった 「意外と素早いのね」とは薄笑みを浮かべる 月夜に照らし出されたの顔には妖気が漂っているように見えた 「の目つきが変わったな」 それはの中に流れる血の所為なのか、自分でも気付かないうちに の中に変化が起こっていた シャンクスの顔からも笑みが消え、剣を持つ手に力が込められていた ブンと空気を切るような音が響き、シャンクスの剣が大きく振り下ろされた時 は後転して身を翻すと二つの剣を地に擦りながら振り上げた すると二つの剣が紅く炎のように光り出した 「火焔連環っ!!」 一つ、二つ、三つと火の輪が浮かび上がり、それはシャンクスを取り囲んでいった 小さな火の輪はの剣の動きに合わせてゆっくりと連なっていき、 そして、一つずつ結合していきやがてには一つの大きな輪が出来た 輪の中央に立っているシャンクスは呼吸を整えながらと視線を重ねていた この一瞬で決まる しかし、二人の顔には笑みが浮かんでいた はゆっくりと目を閉じ、大きく息を吸い込んで止めた そして、吐き出すように一気に両の剣で弧を描く すると火の輪がシャンクスを襲うように勢いよく縮まっていった 紛れもなく一瞬の出来事だった 焼け焦げた匂いが風に乗って微かにしてくる 縮まって一つの玉になった炎の中にゆらゆらと影が見えた 終わった そう思った瞬間、目の前に切っ先が現れては2、3歩後ずさって倒れた 何が起こったのか把握できないでいると、 そこには「俺の勝ちだな」と笑っているシャンクスが居た 「…マント?」 火の玉の中で揺れている影を見ながらは苦笑した 一度に疲労感が増してくる 「ちぇっ」とが軽く舌打ちをすると、シャンクスが笑いながらの頭を軽く叩く 「お前スゲェな、火の術も使えるのか?初めて見た時は風の術を使ってたよな? うんうん、鴉の血は伊達じゃないんだなぁ 後は何が使えるんだ?」 「……み、水」 「水の術も使えるのか?う〜ん、なんか羨ましいぞ」 シャンクスは子供のように目を輝かせて、楽しそうに何度もの頭をクシャクシャっと撫でた 他人にそんな風に言われたのは初めてだった それが何だかくすぐったくて返答に困っているといきなり身体が宙に浮いた 「ちょ、ちょっと何すんのよ」 「決まってるだろ?俺が勝ったんだ、一晩付き合ってもらう」 シャンクスはまるで荷物でも運ぶかのようにを肩に担ぎ上げると 悲鳴を上げながら暴れ出すに「約束だ」とだけ言って黙らせた 乙女の一大事、乙女のピ〜ンチと内心ビクビクしていると シャンクスは見張り台の上でを下ろした 「ここなら二人っきりになれるな」 二人っきりって… まさかこんなところで? と、緊張で身体を強張らせるとシャンクスは小馬鹿にしたように大きな声で笑い出した 「なに緊張してんだ?心配しなくてもお前なんて女として見てねぇよ」 「なんかそれはそれで複雑な気分…」 「ぶはははは、俺に相手をして欲しかったらもっと女を磨くんだな」 「別にアンタに相手にしてもらおうなんて思ってねぇよ」 シャンクスがまた「ぶっ」と吹き出して大げさに笑いながら「お前を船に乗せて正解だったな」と 呟くように言うから理由を聞くと「面白いから」とそれは彼らしい答えだと思った 「面白いだけ?」 「それしかないだろ?お前には」 やっぱり憎たらしいと思いながらも居心地は良かった 「今夜は月が綺麗だな」 「…うん」 語る言葉も見つからなくなった時、シャンクスが不意に出した言葉を アタシはきっと忘れることはないだろう 「お前は血を嫌っているみたいだが、それはお前が誇れるもんだ」 シャンクスは言う の中に流れる鴉の血はお前にしかないものだ だから誇りに持てと… そうなのだろうか… アタシはまだ血の力の全てを知っているわけではない それでもいつかそれを『誇り』として思える日が来るのだろうか いつしか月が堕ちてゆく頃、シャンクスの横で疲れた身体を預けていた それは大きな木に鳥が羽根を休めるように… BACK TOP NEXT |