素材:clef様
どうしたらいい? 選択肢は二つ 一つ、赤髪の男の船に乗る 一つ、諦めて大人しく戻る 夜明けまで極僅か 考える余地なんてなかった 父の放った追手がそこまで来ているのだ は白々と明けていく空を眺めながら決意を固め、 その足は海へと走り出していた 02:鴉の血 「よく来たな…、おっとお前の名前を聞いてなかったな 俺はシャンクスだ」 「……」 「早速だがその辺の物を片づけておいてくれ」 「……」 「お、不服そうな顔だな タダで船には乗せないと言った筈だが…」 「ちっ、やりゃあいいんだろ」 まさかいきなり仕事をさせるとはね、しかも力仕事かよ それに片づけておけとか言っちゃってどんだけ散らばってんのよ…おまけにデカイし。 はタダで船に乗せてもらっている以上文句は言えないと我慢しながら 自分の身の丈よりも大きな荷物にかかっているロープを手に引っ掛けると 一方をヒョイと肩に乗せ、もう一方の手で引き摺りながら片づけ始めた 「んげっ!あの女どんだけ力があるんだ?あのお宝100kgはあるぜ」 ラッキー・ルウの言葉にシャンクスが口笛を吹いて大げさに驚いてみせた そして「これも鴉の血か?」とポツリと呟くように言ったのをは聞き逃す事が出来なかった 「関係ない」とは睨みつけたが、シャンクスは穏やかに笑うだけだった 「お頭ァ、あの女どこで拾ってきたんだァ?」 「お前達いいのか?あの女は男5人分は一人で働くぜ なぁお頭?」 「そうだなぁ」 シャンクスは笑いながら「5人は船から降りてもらうか」と仲間の名を呼び上げ始めた 仲間を船から降ろす気なんてさらさらないくせにと は仲間たちと楽しそうに語り合っているシャンクスが無性に腹立たしかった 「ちょっとシャンクス、いくらお頭だからって遊んでんじゃないわよ 少しくらいアンタも片づけるのを手伝ったら?」 「恐いもの知らずだな」とヤソップが笑い、 「言われてるぜ、お頭」とベックマンがシャンクスに目配せを送る すると、シャンクスは頭を掻きながら「やれやれ」と腰を上げ の持っている荷物をヒョイと担ぎ上げると一斉に笑いが起こった 「赤髪のシャンクスが荷物運びをしてるぞ〜」 その夜、の歓迎会と称して宴が開かれ、飲めよ歌えよで船の上は大いに賑わった 酒に酔い、夢を語り合い、それはの知らない男の世界だった しかし宴が1週間も続けば『歓迎会』なんていうのはただのダシに過ぎないということが理解できた それでも7日間という短い時間だが船はの居た島から遠く離れている シャンクスを始めみんな気のいい連中だって理解できる時間でもあった 気持ちよく酔いつぶれる者が目立ち始めた頃、は一人離れて風に当たっていた その姿は風に意思があってと戯れているようにシャンクスには見えた 「何か見えるか?」 「島が見える」 「へ?どこに?」 シャンクスは暗い夜の海を見ながら辺りを見回す 「10時の方向に二つ、13時の方向に一つ」とが淡々と答えると シャンクスは「本当に夜目が利くんだな」とえらく感心していた 「暗闇では瞳孔が開くのよ、慣れれば誰でも見える」 「なるほど」 シャンクスは試すように指し示した方向を目を凝らしながらじっと眺めていたが 「無理だ」と直ぐに諦めて項垂れて見せた その様がとても『赤髪のシャンクス』と異名をとる海賊とは思えず はいつの間にか笑っていた 「…、お前は何故鴉の血を嫌ってるんだ?」 不意に訊かれた事には遠くの水平線を見ながら微かに溜息を吐いた シャンクスがを船に乗せた理由は分からないが、 確実な事は彼がの素性を知っていたということ。 「別に嫌っているつもりはないわ」 「なら、何故追われてまでも島を逃げ出そうと思った?」 「別に…血など関係なく自由に生きたかっただけよ それより、シャンクスはアタシの事知ってたみたいね?」 「いや、知ってたんじゃなくて…知っただけだ」 シャンクスは酒瓶を口に付けて一気に飲み干すとフーッと一息つき それからゆっくりと語り出した 「昔、あの島は自然の力を術として使いこなす“鴉”と呼ばれる忍が住む里だと聞いた事がある そんなものはお前に会うまでは迷信かお伽噺の一つだと思っていた…だが…森の中でお前が 術を使うのを見て、あれは迷信でもお伽噺でもなく真実なんだと確信した」 「……」 「途絶えた筈の血が蘇ったんだ…お前にかかる期待は大きいものなんだろうな」 「……」 期待とかそんなもんじゃない 自分の意志など関係なく血を継いでいるというだけでアタシは一生縛られていく 一度は消えた血を今度は蘇らせる為にアタシは血を残さなければならなくなる うんざりするほど見えてしまう自分の未来 自分の血を嫌いたくないから自由になりたい でも、それを誰かに語っても何も変えられない事を知っている は真っ暗な海に映る欠けた月を眺めながらふと言葉を漏らす 「アタシ…小さい頃から水平線を眺めるのが好きだった」 シャンクスは何も言わず、アタシの次の言葉を待っているようだった 「水平線の向こうには何があるんだろう…いつしか水平線の向こうに行く事が夢になっていた 今こうやって海に出る事が出来て、水平線を超える事が出来たのに…」 「何が見えた?」 「海……海の向こうにはやっぱり海があった」 笑われると思った 子供扱いされると思ってた しかし、シャンクスは笑うことなくの頭をポンと軽く叩いて優しく笑っていた 「自分の夢が小さく見えただろ?」 いつの間にかベックマンが酒瓶を片手に、そう言って座り込んできた はその酒瓶を受け取りながら頷いた 柄にもなく感傷的になっていると、次々にみんなが集まって来る そして、『海はいいぞ〜』とまた宴が再開される 延々と続く宴の中でいつしかの心も溶けていくようで こんな空間が今の自分には丁度いいのだろうと思いながらは欠けた月を眺めていた BACK TOP NEXT |