素材:アトリエ夏夢色








もし、いつかどこかでルフィに会う事があったら『待っている』と伝えてくれ




シャンクスに片腕の事を聞いた時に言った彼の言葉だ




ルフィとシャンクスの間に何があったかは知らない
だが、「大切な友達を護る為なら腕の1本くらい安いものだ」とシャンクスはよく言っていた


そして、そんな時ルフィの存在を訊ねると返ってくる言葉はいつも同じだった






―― お前と似ている










001:サル!?ゴム人間?モンキー・D・ルフィ










「アタシに似てるって?」




自分に似ているって気になるもんじゃない?
アタシの問いに返って来る返事は無鉄砲だのガキだのと散々なものだった


だけど最後には『いいヤツだ』『将来楽しみだ』と付け加える彼らの言葉は少し嬉しかった



彼らの話を聞く度にアタシの中でルフィという存在が妙な親近感も湧き大きくなっていき
いつか会ってみたいと思っていた




だって、やっぱり自分に似ているヤツって見てみたいじゃない?










それは突然の事だった 意外な出会いがそこにあった




この島に来てひと月ほど経ったある日、浜に一艘の小さな無人の船が漂着した
不思議に思い沖の方を眺めると何やら叫び声が聞こえてきた




「助けてくれ〜〜、オレは泳げないんだ〜〜」






なに?この船…あそこで溺れているヤツのかしら?




は面倒くさそうに溜息を吐くと、掌を開いてそこに小さな風を集めギュッと握りしめた
そして、風の呪文を唱えてその手を開くと意思を持った風が海に向かって吹き流れて行った




「うわっ、何だ?この風…」




の放った風は小さな渦を巻きながら溺れている男の身体を包み込んでいった
それから、その風が身体の周りをグルグル回り出すと遠心力で男の身体が浮き上がった




「わ、わ、わ、すっげぇ〜!!浮いてるぞ」




男は飲んでしまった海水に噎せながらも身体が浮いている事に興奮しているようだ
はうるさい男だと思いながらも風を使って彼を浜まで運んだ



浜に降りると男は海水と涙と鼻水を一緒に流しながらハァハァと肩で息をした




「大丈夫?」

「はーっ、死ぬかと思ったぞ……な、な、今の風お前がやったのか?」

「それが何か?…って、え?サル!?」



素っ気なく答えながら男の顔を覗き込んだ
彼がサルなのか人間なのか認識するのに少し時間が掛った



黄色い麦わらを被り、赤いちゃんちゃんこを着て
彼の騒がしい動きはどう見てもサルとしか見えなかった


それでも彼はの術にえらく感動している様子で、
言葉の終わりに音符マークがつくほど「すっげぇ〜」を連発していた




「どうでもいいけど、アンタさぁ…アタシに何か言う事はないわけ?」

「お、あるぞ」




そうそう、助けてやったんだから礼の一つくらいは言ってもらわないとねと
男の言葉を待っていると、彼は事もあろうか「腹減ったぞ〜」と仰向けにひっくり返った




ムカッ




「テメェ、もう一遍海に落としてやろうか?」

「おい腹減ったぞ、何か食わせろ〜」

「テメェ、何様だよっ」

「ダメだ、腹が減って動けねぇ」

「うっせぇ、大人しくしてろ」




は男の頭に一発食らわせると、大人しくなった男の襟首を掴むと
軽々と引き摺りながら自分の家に連れて行った




やっぱりコイツはサルだ
とんでもないものを拾ってしまったと思いながら男をベッドに投げ込んだ








数時間後、テーブルの上にはデカイ骨付き肉と酒、そして数種類のフルーツが乗っていた
は眠っている男の頬をペシペシと叩き声を掛けた



すると男は匂いに誘われるように鼻をヒクヒクさせながら飛び起きて一目散にテーブルに向かった


そして、いきなり骨付き肉を手に入れるとガツガツと口に放り込み始めた






あっという間に全ての料理を食べ尽くした男は「ごちそうさん、美味かったぞ」と
満足気に膨らんだお腹を叩きながら「イシシシ」と歯を見せて笑った




「んで、お前誰だ?」

「なんだとっ!誰だ?じゃないっつーの!アンタこそ誰よ?」

「ん?オレか?オレはルフィだ、お前は?」

「アタシは…」






そこまで言っては少し考え始めた




ルフィ?



その名前…どこかで聞いたような?それに麦わら?




確かシャンクスが言っていた…ような?




はルフィの顔をジッと見ながら慌てて首を振って否定した



コイツは人間の言葉を喋っているけどサルだ
シャンクスの言っていたルフィという男じゃない



が勢いよく首を振って否定していると、ルフィは椅子に置いてあった麦わらを被り
「助けてくれてサンキュウな」と軽く手を振って家を出て行こうとした




「ちょ、ちょっと待てィ、命を助けてもらったうえにタダ飯まで食いやがって
 そのまま行くつもり?少しは働いて行けっつーの!!」




その時、は否定を肯定に替えなければならなかった




立ち去ろうとするルフィーの腕を掴んだ時、彼の腕がゴムのように伸びたのだ




「げっ、アンタ…今腕が伸びなかった?」

「伸びたぞ!オレはゴム人間だからな」

「まさか…悪魔の実を食べた?…ゴムゴムの実とか?」

「食ったぞ」




何をあっさり言ってるんだコノヤロー…




はガックリと項垂れて頭を抱え込んだ






麦わら、悪魔の実、そしてルフィという名前…


シャンクスが言っていた友達?




いや、まだ分からない

真実を知るにはこれだけは訊いておかなければ…




「アンタさぁ…シャンクスって海賊知ってる?」

「知ってるぞ、シャンクスは友達だ」

「友達だという証拠は?」




ルフィは嬉しそうに被っている麦わらを指差して
「これシャンクスから預かってる」とまた歯を見せて笑った








は大きな溜息を吐きながら深い絶望感に打ちひしがれた















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