素材:アトリエ夏夢色様
―― いやな風だ 酒場を後にしたが不穏な空気を感じていた頃、 人間離れした男と海賊狩りは海軍基地の島を出て海の真っただ中を漂流していた #002:噂の男達 「おい、流されてるぞ」 「だな」 「だな…じゃねぇ!このままじゃどこへ流されっかわかんねーぞ」 「そのうちどっかに着くだろ」 海の彼方に落胆の溜息と能天気な笑い声が響いていた ***** もう嗅ぎつけた?流石よねぇ…なんて感心している場合じゃないわ アタシの旅は始まったばかりなんだから邪魔されてたまるかってーの! 空気に混ざる風と地の違和感を察知したは海へと足を急がせた しかし、に忍びよる足音は直ぐそこまでやって来ていた 一筋の冷たい風が遮るように足に纏わりついてくる 木々がゆっくりとざわめき始める は諦めるかのように急がせていた足を止め、不意に立ち止まり大きく深呼吸を一つした 「居るんでしょ?さっさと出てくれば?」 の言葉に隠れる必要はないと察した一人の男が「流石は…と言うべきでしょうか?」と 音もなくスッと影を現した 全身黒装束に深紅のマント。顔の半分を布で覆った男は徐に前に出るとの前で跪いた 「姫様、お迎えに参りました」 「んげっ!…シオン……アンタが来たの?」 「お館様の命に背く事は出来ませんから…」 「ちょっと!その喋り方やめて!キモイ!!」 の悪態にシオンは軽く舌打ちをしながら視線を逸らし、ゆっくりと剣を抜いた 「アンタはアタシの味方だと思ってたのになぁ」 「私はいつでも姫様の味方でございます」 「だーかーらー、その喋り方やめろって言ってんの!見てよ鳥肌が立ってるじゃない」 「ったく…」とシオンは深い溜息を吐く。 そして、顔を覆っている布を外すとククッと喉を鳴らして笑った 「それなら本気でいくぜ」 「アタシに勝つつもり?」 「とーぜん!」 二人は口元に不敵な笑みを浮かべると、剣を構える 互いに呼吸を整えながら間合いを取る。しかし最初に仕掛けてきたのはシオンだった 深紅のマントを翻すとバサバサっと羽音が聞こえ、身を隠していた男達が次々に現れた 「シオン…、アンタねェ、やるならタイマンで勝負しなさいよ」 「フン、お前を傷付けない為の策だ」 「嘘つけっ!」 チマチマと戦っていたら時間が掛かる。しかも相手はシオン一人ではない。 一気に近付いて親玉でもあるシオンを先に倒すしかない は視線をゆっくり流しながら間合いを取り、次の瞬間素早い攻撃に出た 二人の剣が小気味のいい音を立てて重なり合う。 幼い頃から何度も剣を交わらせてきた。互いの行動は手に取るように分かる 「流石だな、腕は落ちてねーな。んじゃ、本気になるか…、少々手荒になるぜ」 シオンが挑発的に前置きして、紅く瞳を光らせるとの動きがピタリと止まった 忘れていた訳ではなかった。ふとした油断だった 「俺の金縛りの術に掛かったら動けない。悪いな」 シオンは喉を鳴らしながら笑うと、冷たく大きなその手での手を掴んだ そして、の身体を反転させると背後にまわり、羽交い絞めにした 「ひ、卑怯もん…」 「卑怯?フン、何とでも言え。お前の力は承知してるからな。こうでもしねーとな」 そう、もしもの力が覚醒していればそれはシオンにとって脅威となる そうなる前に里に連れて帰らなければとシオンの手に遠慮なしの力が加わっていく 「苦しいだろ?帰るって言えば解放してやるぜ」 「くっ……だ…誰が…」 シオンはクックッと喉を鳴らしながら笑うと、羽交い絞めにしているその腕を緩めた そして、未だ金縛りが解けず動けないの背中に剣を向け、その剣先でゆっくりと撫でた 衣服がスッと一筋に裂かれ白い肌が見え隠れする 「フッ…どうやらまだ覚醒はしてねーみたいだな」 「ア…アンタ……初めからそれが…目的……?」 「まあな。お館様に調べて来いと言われてるしな」 「…くっ」 こんな事で諦めたくない。がそう思ったその時。 「鬼、斬りっ!!」 得体のしれない声と共にシオンが吹っ飛び、金縛りが解け身体が軽くなったのを感じた 絶好のチャンス。と、そう思った時の身体が宙に浮いた 自分が肩に担がれていると気付いた時には、「邪魔だ、そこに居ろ」と少し離れた木の元へ 乱暴に投げ出されていた 今、自分の前に背中を向けて立っているこのけったいな風貌の男は…? ダボに腹巻…これでステテコでも穿いていたら超ウケるんだけど… しかも耳元でピアスが光る。うっ、チャラ男? いやいや後ろ姿で判断しちゃダメよ…なんて、自分に言い聞かせながらチラ見すると 双方に刀を持ち、一本は口に銜えている う〜ん……三刀流っていうのか?それ… 状況から判断すると、この男は多分アタシを助けてくれたのだろう 確かに金縛りが解けた事には感謝するけど、アタシをなめんなっつーの! やられたらやり返す!っていうのがモットーなんだから。 「ちょっと、アンタ邪魔よ。どいてくれない?」 「あ?テメェこそ邪魔だ。怪我したくなかったら大人しくしてるんだな」 「フン、それじゃお手並みを拝見させてもらおーじゃない」 男は振り返ると、鋭い眼光で睨みを利かせながら「ケッ」と小馬鹿にしたように舌打ちをした おっと、好みのタイプ♪…なんて言っている場合じゃないわね。 アンタがシオンとどう戦うのか見てやろうじゃない しかし予想外の剣技には目を見張った ―― 強い 素早いシオンの動きを確実に先読みして捉えている。迷いも無い。 戦いの先にあるものを目指している。そういう戦い方だった だが、頭領であるシオンの危機に部下達が黙っている筈がない 部下達はそれぞれの武器を手に男を狙っている さあ、どうする?剣士さん。 と、その時、の頬を掠めて何かが過った 目の錯覚?いやいや、目はいいのがアタシの自慢だ 今のは間違いなく手だった… それって…腕が伸びたってこと? あははは、そんなバカな… しかしが戸惑っている間にも、伸びた腕は敵をブッ飛ばし ゴムのように縮み持ち主の元へ戻って行った がその行方を目で追うと、その先には黄色い麦わら帽子を被った男が笑いながら立っていた 何者? 瞬間、は酒場での噂話を思い出していた BACK TOP NEXT |