素材:アトリエ夏夢色様
#001:噂 名も無い小さな島。 シャンクスの船を降りてから転々と幾つかの島を巡った 『気が付けば仲間は傍に居るものだ』とシャンクスにそう言われたが、それは彼だから言えた事だ。 滲みでるようなカリスマ性がある訳ではない。夢も信念も何もなく、ただ自由に生きたいと思っている 半端者に誰が寄って来ると言うのだろうか。避けられる事はあっても他人が集まって来るとは思えない そう思っていた。しかし何故だかこの島で留まっているうちに他人が集まって来るようになった しかも子供ばかりだ。 「なぁなぁ、その剣見せてくれよ」 「ちょっと!玩具じゃないんだから汚い手で触るんじゃないわよ」 そんな声と共に小さな手をピシリと叩く音が響く。 どうやら子供達はの腰の鞘に収められている蒼と紅の二本の剣が気になっているようだ 子供らは口々に「ケチ!」だの子供特有の悪態を吐く しかしは、そんな子供達に大人の余裕などは見せず容赦がない 唇の端だけを歪めて薄笑みを浮かべたはリーダー格の子供に向けて蒼と紅の剣を抜き その皮膚一枚の所でピタリと止めて見せた 「ひっ…」 「いい?これはね天使と悪魔の剣なの。アンタはどっちの剣で斬られたい?」 「う…うぅ…」 の脅しに恐怖を感じた子供達はまるで蜂の子を散らすように逃げて行ってしまった フッと小さく笑みを浮かべると、そろそろ島を出た方がよさそうだとは思った この島はとても居心地がいい。 平和で人情も厚く、骨を埋めるならきっとここは最適な場所なのかもしれない だが、今はそれを求めているわけではない は島を出る準備をすると、立ち寄った酒場でひょんな噂話を耳にした ゴクゴクと大きく喉を鳴らしながら豪快に酒を呷り、泡の付いた髭を野太い腕で拭き上げると さも自分が見てきたような口ぶりで話しだした この島からそう遠くない海軍基地の島。 そこに悪名高い海賊狩りが捕縛されたのだと言う。 魔獣と呼ばれる海賊狩りを捕まえたのだからやっぱり海軍は強い それだけなら話は終わるのだが、噂話というものには必ずどこかに尾ひれが付く。 なんでも一人の人間離れした男が海軍大佐をやっつけて捕縛された海賊狩りを助けた しかも、その男がまるで正義のように話している おいおい、なんか矛盾してない? 背中に正義を掲げているくらいなんだから正義は海軍の方なんじゃないの? 疑問は残るが、彼らの話はなかなか面白かった 海軍大佐の“斧手のモーガン”は実は悪い奴で、海軍である事をいいことに独裁者のような振る舞いをしていて、 それを見かねた海賊狩りが戦いを挑んだがあっさり捕まってしまった しかし、そこで現れたのが人間離れした一人の男。 その男がなんと海賊狩りを助け、悪の海軍を壊滅させた 捏造話もここまでいくと逆にリアリティがある この噂話が真実である事をまだ知ることのないはフフンと鼻で笑いながら テーブルに置かれた酒を一気に飲み干すのだった 「ね、おっさん…その人間離れした男ってどんなヤツ?」 「お、ネェちゃん聞いて驚くなよ」 訊いてみたのは最早、興味本位だった。 彼らがどんな人物像を創り上げて語ってくれるのか… 「なんでもよ…その男は体中がゴムみてぇに伸びちまうって話だ」 「ゴムみたいに?……あははは、そりゃあ人間離れしてる」 「だろ?」 だろ?じゃないっつーの! ゴムみたいに伸びる人間なんているわけ…ない…? あれ?ゴムのように伸びるってどこかで聞いた事があるような…? えーと…どこ?どこで聞いた? 「だけどよぉ、体が伸びるってどんな感じなんだ?」 「さぁな、俺はそんな能力がなくて良かったぜ。がははははは」 能力?能力……能力 能力… … … あっ、悪魔の実…か!? それじゃ、そいつはゴムゴムの実を食べた能力者? まさか… 彼がシャンクスの言っていたヤツ? 無鉄砲でお前に似ていると、どこかで出会う事があったら共に会いに来いとシャンクスは言っていた 確信がある訳じゃあない。でも、もしそうならアタシは彼に会いたい ほんの少し先に見えた未来がの瞳を輝かせていた Top next |