素材:Abundant Shine













何故 気付かなかったのだろう


忘れていたわけではない



落ちた雷 空に昇る白龍のような光の筋 そして、蒼く光る政宗の身体…










ここではない何処かで 9










あの時、重力がかかった私の身体が沈むような感覚になった事…
それは政宗には感じられなかったと言う


上田城に張られた私を拒絶するような見えない壁
それも政宗には感じられなかったらしい



政宗に感じられたのは、生温かい突風と圧し掛かる重力と異様な空気




問題は、私が沈む感覚を受けた場所…


多分…あそこが鍵になっているに違いないと思う




物凄い力で私はあの地面に押し込まれるような感覚に陥った






「多分…私の世界はここの下にあると思うの」

「で、俺の世界がここの上ということか?」




は紙に簡単な構図を描いて政宗に説明していく


こうして描いていくと実に単純明快な構図である




今、私たちがいるこの世界を挟んで上下に私たちの世界がそれぞれある
嘘くさいと思いながらも図にしてみると、納得のいく気がするのだ


でも、それが本当なら何故あの時私たちは戻れなかった?




「きっかけが必要なのかもしれねぇな」

「きっかけ?」

「よくわからねぇけどな」




きっかけか…




こんな時は最初に戻ってみるしかないかも…


は目を閉じ、ここへ来た時の事を思い出してみる




私は…部活が終わって雨が降り出しそうなので帰路を急いでいたんだよね
途中、急に雲が多くなって…遠くで雷の音を聞いた


そして、だんだんと近づく雷に足を速め…


家に着き、ドアを開けた瞬間……雷が…落ちた?






「政宗…一つ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「政宗は上田城で真田幸村と剣を交えていたって言ったよね?」

「あぁ…俺たちは決着をつけようとしていた」

「その時…雷が落ちなかった?」

「雷?…さぁ、どうだったかな」

「どうだったかなじゃなくて…ちゃんと思い出してよ」

「うーん…落ちた気もするし落ちなかった気もするな」




その時、政宗の刀がまるで何かに反応するように蒼く光りだした




「ちょ、ちょっと…なんでその刀蒼く光ってるのよ」

「これか?…この刀は雷の属性を持っている」






はい?

雷の属性…ですか?

いくらなんでもそんなこと…


そんな…RPGの世界じゃあるまいし…

とは言え、現実に目の前で蒼く光りながらビカビカしてるし…




それじゃあ…あの時蒼く光っていたのは政宗の身体じゃなくて
その刀だったってことだよね?






政宗もまた、上田城でのことを思い出し始めていた




小十郎が見守る中、俺は真田幸村と闘っていた


そして…突然黒い雲が城の天守を覆い始めて…
俺の剣が真田幸村の交差してくる二本の槍を受け止めた時、激しい雷音が鳴り響いた






「政宗、見てっ!」




の声に我に返り、指で示す方を見ると
窓の外に光の筋が空に向って立ち昇っているのが見えた




、上田城に行くぞ」

「うん」






外に出ると、あの時と同じ生温かい突風が先を急がせないように襲ってくる




「見て…政宗の刀が…」

「反応してやがる」




本当だ…確かに政宗の刀が反応している




ね、気付いてる? その刀の光は政宗を護っているよ
そこだけ暖かい光に包まれて…バリアになっている








「走れるか?」

「大丈夫…ちょっと身体は重いけどね」

「食い過ぎだ Ah-n?」

「なっ…!」

「Han、冗談だ ほら手を貸しな」




差し出された政宗の大きな手…



やだな、こんな時に涙が出そうになる




流れる涙で霞んで見えるその手を掴むと、身体の中に光が溶け込んでくるような感じがして
瞬間、すーっと身体が軽くなり圧し掛かっていた重力が嘘のように消えた




「どうした?走れるんだろうな?」

「こう見えても陸上部よ…私の脚力を舐めないでよね」

「〜♪ 上等だぜ そうこなくちゃな」




向ってくる風を切りながら、手を繋いで走って行く




きっと今、私たちは笑っている











上田城の前まで来た時、
政宗には見えないが、私には見える『見えない壁』が城の周辺を覆っていた


ここから先は、私には立ち入る事ができない


多分、ここから先が政宗の世界なんだと肌で感じる




、絶対この手を放すんじゃねぇぞ」

「…う、うん」






出来る事なら放したくないよ


でもね……



手は繋いでいるけれど…さっきから、私の身体は沈んでいく感覚に陥ってるんだ




ほら、足が地面に沈み始めてる…












政宗…



ここでお別れだよ




楽しかったよ…






チンケな爺さんなんて言ってごめんね



真実の伊達政宗は凄くカッコよかったよ




ドラマの伊達政宗より素敵だった










政宗……大好きだよ










バイバイ…


は小さく呟くと、自ら繋いでいた手を外した






「おいっ…何やって…」




繋いだ手を外すと、の身体は一気に膝まで吸い込まれるように沈んだ




っ!」

「大丈夫だよ、政宗も早く上田城に向って!」

「お前…何言って…」

「戻れるんだよ……真田幸村と決着つけるんでしょ?」

「今はそんな事どうでもいい」

「よくないよ…真田幸村と小十郎さんが待ってるよ」

「…







5度目の…


政宗の最後のキスは優しかったね




こうやって政宗に抱きしめられたまま消えて行きたいけど
沈んでいく私を見られたくないんだ






「私は大丈夫だから早く行って」

「……判った」




笑顔で話すに政宗も笑顔で返す




それが互いの想いを示す最善の方法だから…










…さようならは言わねぇからな」

「え?」

「俺たちはきっとまた何処かで会えるさ」

「何処で?」

「さぁな…きっとここではない何処かで…だな」

「…そうだね……そうだったら嬉しい」

「俺たちはどこかできっと繋がっている…そう思うと面白いだろ なぁ?」

「うん…面白いね」

「それに…」

「それに?」

「俺はもっとお前の作る卵焼きが食いてぇ」

「あはは…約束するよ……何処かで会えたらいっぱい作ってあげるから」

「それまでにちっとは色気を磨いておけよ」

「言ってくれるじゃない…期待して待ってなさい」

「期待はできそうもねぇな…けど…俺はお前のその強さに惚れてるぜ」

「こんな時に口説くな バカ」

「HaHaHa」






最後まで笑わせてくれてありがとう




去って行く政宗の背中を見送りながら、意識が遠くなっていくのを感じた










地面の中に沈んでいくなんて…まるで生き埋めだよ
どうせならドラ●もんのタイムマシンみたいになってりゃいいのに…


こんな状況の中で、こんな暢気な事を考えられるなんて…政宗の所為だからね



今度出逢う事があったら責任とってよね



それでもね…去り際に振り返って「またな」って言ってくれた政宗の言葉…








一生忘れないから…




















BACK TOP NEXT