素材:Abundant Shine













流れていく時間の狭間の中で私は夢を見ていた




頭が痛くて耳鳴りがする

それでも、ユラユラと揺れる心地よさは政宗の腕に抱かれているようだった




ねぇ…政宗はちゃんと元の世界に戻れた?










ここではない何処かで 10 最終話










「おかえり、凄い音だったわねぇ」

「え!?」

「雷よ雷…近くに落ちたみたいね」

「お、お母さん…?」

「寝ぼけてるの?私は17年間あなたの母親をやってますよ」

「あ…た、ただいま」




え?…どういうこと?


私…戻って来た…?




私は今、学校から帰って来たの?

これって…あの時の続きだ




背後で「風邪引くからお風呂に入りなさいよ」と母の声が響く中
私は急いで階段を駆け上り自分の部屋に飛び込む




「政宗っ!」




静まりかえった部屋が誰もいない事を示し、自分の世界に戻ってきた事を物語っていた
それでも、ついさっきまでの想いがそこにあるようで何度も名前を呟いてしまう



私たちは何処かで繋がっている

政宗の言葉を信じていても、今のこの世ではもう二度と巡り会う事はないのだと…



自分の世界に戻ってきて、お母さんにも会えたのに
その嬉しさより政宗と会えなくなった悲しさのほうが強いなんて…



どうかしてるよね?




ふと、見上げる壁の時計は5時半を指していて、カレンダーの日付もあの日のままだ
政宗と数日間過ごしていたはずなのに、時間が動いていない


時間は止まっていたと言うの?
まだ政宗の触れた唇の感触も、抱きしめられた腕の温かさも全部残っているのに…


広げた掌に涙の粒がポタリと落ちて、自分が泣いている事を知る




なに?…私…泣いているの?

泣かないって決めたじゃない




いつか何処かで政宗と出会う事が出来たら、卵焼きを作ってあげるって約束したのに…
それまではずっと笑っているって…


判っていても、信じてはいても、もう政宗は記憶の中でしか存在しない
何一つ繋がっているものはないんだ




本当に?



本当に何もない?



あの時私はどうしたんだっけ?




はゆっくりと記憶を辿っていく








そうだ……携帯は…?


確か…政宗にあげた…よね?



でも……




思い立ったように急いで制服のポケットに手を入れると、指先に硬いものが触れた




え?



これ……政宗の眼帯だ




眼帯がなくても平気だと…
『独眼竜は伊達じゃねぇ』とか言って笑わせてくれたよね



ねぇ政宗…ちゃんと新しい眼帯はつけている?
ちゃんとしていないと未来へは『独眼竜』が伝わってこないからね










政宗の言葉の一つ一つが、この耳に この胸に残っている
その想いの一つ一つが、あれは夢じゃなかったと言っているよ


時の狭間の中で私たちは確かに息をして存在していた



そうだよね?


だから私は泣いちゃいけないんだ
いつか何処かでもう一度出会うために笑っていなくちゃいけない



その時は絶対褒めてよね



いつの間にか涙は乾いて、その頬は緩み 笑みが浮かんでいた




いつしか雷も雨も止み、空には月が輝いている

ここで二人で見た月と何も変わりはしないのに、今は街も人も動いている






政宗もこの月を見ている?


―- あぁ…今夜は月が綺麗じゃねぇか




ほら、私たちはこうやっていつでも会話ができる




きっと想いは繋がっていると、そう信じているから…




















空に輝く月

本当に今夜の月は綺麗なもんだぜ


…お前もきっとこの同じ月を見ているよな?









「くっ…」




向かってくる真田幸村の槍を己の剣で受け止めている
政宗の時間はそこから動き出していた






なんだ?俺は今、真田幸村と闘っているのか?


蘇る真田との熱い闘い



そうだ俺は戻ってきた






俺たちの時間はあんなにも動いていたというのに、ここで止まっていたとはな…






…お前は無事に戻れたのか?俺が戻れたんだ お前も戻れたと信じている








政宗のその顔に穏やかな笑顔が浮かび、
真田幸村は、先刻まで政宗の中にあった激しいまでの殺気が消えた事に気づく




「伊達政宗ぇえええーーっ!!」






「政宗様っ!」




瞬間、耳に届く真田幸村の叫び声と小十郎の声…




政宗は真田の槍に胸を突かれ、がくりと地面に膝をついた








ん?…俺はやられちまったのか? だが、不思議と痛みは感じねぇ



突かれた胸部に手を当てると、そこに違和感を覚え
服の上から形をなぞる様に掴むと、不意にの言葉が蘇ってきた






『お守りだと思って持ってて』




Ha…本当にお守りだったみたいだぜ
お前はこれは使えないって言ってたけど、ちゃんと使えてるじゃねぇか



傍にいないヤツと話せるって?
まったくその通りだ…俺にはお前の声が聴こえたぜ



やっぱりお前と俺は何処かで繋がっているのかもしれねぇな




これは俺の言った通りだっただろ?















「Han、やるじゃねぇか真田幸村…上等だぜ」




ゆっくりと立ち上がる政宗に安堵した小十郎は、肩で大きく息を洩らす




「まったく……政宗様、ご油断召されるな」

「Hun…ガタガタうるせぇよ小十郎」










「いくぜ真田幸村…Partyを楽しもうぜ」




政宗は不敵な笑みを浮かべると、再び闘いを楽しむように剣を交えていく




まったくコイツと剣を交えていると熱くなるぜ




、どうやらこれが俺の生きている証みてぇだ
俺の未来なんて想像もできねぇけど、せいぜいお前に伝わるくらいの名は残してやるから


例え全ての望みが叶わなくても、お前に未来を見せてやるから楽しみにしてるんだぜ















どれくらいの間闘ったのだろうか、真田との決着はつかない
まぁ簡単につくとは思ってねぇけどな




「お前とはずっとこうして闘っていたい気分だぜ」

「政宗殿、某も同じでござる」




こうやって戦い続けていたいって思うけど、永遠はねぇんだよな
それでもいつかは決着がつき終わりが来る




情けねぇと思うか?俺は今、心底死にたくねぇと思っている



それは死ぬ事が怖いとかそういうことじゃなく
この楽しい時間をここで終わりにしちまうのはもったいねぇよな






お前と会ったことで俺も少し変わっちまったのかもしれねぇな










政宗は一歩引き下がると剣を鞘に収めた




「悪りぃな真田幸村…決着はこの次だ」

「政宗殿…」

「お前とはもっと闘いてぇ…ここで終いにするには惜しいぜ」




まさか政宗が引くとは到底思えなかったが、それは幸村も同じ思いだった




互いを認め合える人間に出会えるという事はいつの時代もそうあるものではない
ここで決着を付ければ必ずどちらかが消えるだろう


政宗も幸村もこのまま終わりたくはない



これが二人の続いていく宿命なのかもしれない






幸村も納得したように静かに槍を収めた


次の約束などをする事は皆無だが、それでも互いに「次に会った時は」と約束を胸に告げ
政宗は上田城を後にしたのだった















「政宗様、お怪我は?」

「ねぇよ、こいつが俺を護ってくれたからな」




政宗は懐に入っているから貰った携帯電話を取り出すと小十郎に見せるが
当たり前の事だが小十郎にはそれが何なのか皆目見当もつかない




「政宗様…それは?」

「けいたいでんわっていうやつだ」

「けいたい…でんわ…ですか?」

「傍にいねぇやつと話せるっていう代物だぜ」

「ご冗談を…」

「HaHaHa」















遠い 遠い未来

伊達政宗埋蔵金伝説の中で、の貰った携帯電話が見つかるかもしれない














聴こえるか?


俺たちはもう話すことはできねぇけど、何処かできっと繋がってるってそう信じてぇよなぁ




政宗…

聴こえるよ


こうやって目を閉じると政宗の声が聴こえるよ


だから、政宗と私は繋がっているって信じられる








きっと私たちはまた出会えるよ










ほら、約束したでしょ?卵焼きをいっぱい作ってあげるって…

そうだな…お前の作った卵焼きが食いてぇ

うん、約束だね

楽しみにしてるぜ








だからもう一度約束をしよう








また会おう…

うん…また会える










そう…ここではない何処かで…








きっと…















、ほら見てみろよ 今夜は月が綺麗だぜ』




















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後記

長い話を最後まで読んで下さった皆さん、有難うございました。
初のトリップ夢はいかがでしたでしょうか?
判りにくい部分も多々あったかもしれませんが
読んで下さった皆さんに感謝致します。

2006/12/22 管理人