素材:Abundant Shine











初めて本気で好きになった人が歴史上の人物なんて笑っちゃう


それが『伊達政宗』だなんて知ったら…お母さんやお父さんは驚く?
友達もみんなきっと『バカみたい』って笑うだろうね



誰も信じてくれなくてもいい



私自身信じられないから…










ここではない何処かで 6










こうして政宗と何度一緒に眠った?
不安で渦巻く心の中を何度救ってもらっただろう


過去でも未来でもないこの空間の中
私と政宗のたった二人きり…


巡り会う事のない二人が今こうして出会っている
それが運命なのか何かは誰にもわからない
ただ判っているのは、ここに政宗がいて私がいるということだけ…






「どうした?眠れないのか?」

「うん」

「心配するな 俺は何処にも行ったりしねぇから」

「……そんな事心配しなくても大丈夫だよ」

「そうか?」

「うん、私は強いから」

「…そうだな」




はベッドから下り、机に向うと
置きっぱなしにしていた今は使う事のできない携帯電話を手にして政宗に握らせた




「これは?」

「携帯電話だよ」

「けいたいでんわ?」

「そう…傍にいない人と話ができるの」

「そんなもんがあるのかよ」




使う事のできない携帯電話
ボタンを押しても誰にも繋がらない


一つ一つ携帯の説明をするに耳を傾けながら
政宗は文明の利器を手に、楽しそうに眺めていた




「それ…政宗にあげる」

「俺に?」

「うん」

「これを持っていれば帰ってもお前と話せるのか?」




そうだね…そうできたらどんなにいいだろう…



子供のような瞳で興味津々の政宗




「うぅん…話すことは出来ないけど…お守りだと思って持ってて」

「あぁ、判った」






右目に眼帯、蒼い士服に6本の刀


未来に名を残す伊達政宗が首から携帯をぶら下げている姿はどこか滑稽で
それでも似合ってしまう政宗が可笑しくて…


そんな政宗は教科書にもどこにも載っていないよ



今、私だけが知っている




だから…その携帯を見るたびに私を思い出して…


私という存在を憶えていて…




政宗は首にぶら下げたまま携帯を懐にそっとしのばせると
「これで何処にいてもお前と繋がってるな」と、優しい笑顔を見せた




、それじゃお前にはこれをやるよ」

「え?」




政宗は右目の眼帯をするりと外すと、今度はの手に握らせる




「ダ、ダメだよ…これは貰えないよ」

「構いやしねぇよ」

「私が貰っちゃったら…政宗が独眼竜じゃなくなっちゃう」

「Han、独眼竜は伊達じゃねぇぜ そんなもんがなくたって変わりゃあしねぇ」

「…政宗」

「そいつはお前を護るお守りっていうやつだ それを見るたび俺を思い出せ」

「う、うん」

「いいか?チンケな爺さんを思い出すんじゃねぇぞ」

「あははは、判ってるよ ちゃんとカッコイイ伊達政宗を思い出すから」

「Good!」




政宗の言葉じゃないけれど
何処にいても、何があっても私たちは繋がっている


確かにそう思えるよ……うぅん、そう思いたい




だから心配しないで

チンケな爺さんより、銅像よりカッコイイ伊達政宗を憶えているから…




私たちはこれが最後なのかもしれないと予感していた










政宗が眠ってからも私は眠れないでいた



窓辺に立つと、少しも変わらない月が何かを語りかけてくるようだ



月には私たちの行く末が判っているのかもしれない








みんなはどうしているかな…

お父さん、お母さん…学校のみんな…きっと心配してる



政宗だって大切な人たちが待っているんだ



なんとかして戻る方法を考えないといけない…




これがドラマや映画なら2〜3時間で解決するのに…
は現実離れした出来事に思わず苦笑してしまう



これは、本当は私が見ている夢かもしれない
そんな儚い願いで自分の頬をつねってみても、頬に残る痛みは夢でない事を示す





はぁぁ…なんで私が…


同じ現実離れした事が起こるなら、
今、目の前で眠っている政宗と恋をするとか…そういう方が絶対いいのに…



ぼんやり窓の外を眺めてみても何かが変わるわけでもないけれど
それでも、月にグチを吐くしかないなんて…




その時、遥か向こうの方がぼんやり明るくなっているのが視界に入ってきた




「なにあれ?」




錯覚?


再度確認するように目を擦り、光が見える方向に視線を送る






そこには、白い光の筋が空に吸い込まれるように立ち上がっていた



きれい…白い竜みたい…




…って、


ちょっと待って…あそこって上田城があった辺りじゃなかったっけ?




「まさむっ…」




慌てて政宗を起こそうとしたは、それを止めた






まずは様子を見て、政宗を起こすのはそれからでいい


はポケットに入っている政宗から貰った眼帯を握り締めると、ひとり部屋を出た








玄関のドアを開くと、生温かい突風が吹き込んでくる




「わっ」




気持ち悪い風…


肌にまとわりつく感じ




風に押されるドアを力任せに開き外へ出ると、
襲ってくる向かい風が前に進む事を拒絶しているようだ




「フン、陸上部の足をなめるんじゃないわよ」




…と、強がってみたものの
強い向かい風に加わって、上から重力をかけられたように圧し掛かってくる圧力



なんなのよこれ…




おもっ…これって私の体重?
今更ながらダイエットしとけば良かったなんて後悔したりして…



こんな時に冗談を言えるくらいなんだから…
お父さん、お母さん、はこんなに強くなりました




こんな時だからこそ冗談言ってないとやってられないわよ
これも政宗のお陰かな…?




『今の私は超サイヤ人!』




マンガの見過ぎだわ




は口許に笑みを浮かべ風の中へと向っていった






襲ってくる恐怖と不安の中で、は自分を奮い立たせていたのかもしれない















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