素材:Abundant Shine













朝が来るのを待っていた



もう暗闇はいらない



自分たちが何処にいるのかも判らなくて


私たちは互いの息遣いと鼓動だけが聴こえてくる暗闇の中で
時間が流れていくのを待った










ここではない何処かで 3










「おぃ…起きろ!」

「ん…?…あと5分」




身体を揺すられて眠い目を擦りながらゆっくりと身体を起こす



待望の朝が来たのだろうか…



しかし瞳に飛び込んできたのは愕然とする政宗の姿と広がる暗闇だった




「まだ夜が明けてないじゃない」

「寝ぼけてんじゃねぇ」




そりゃあまだ眠いけど、ちゃんと目は覚めてる
でも、私の目には太陽の光も届いてこない




「朝が来ねぇ」

「やめてよね…面白くないわよそんな冗談」

「外をよく見てみろ」




は言われるがままにベッドから下りるとカーテンを開け窓の外を見た

昨夜と変わらず人の気配はなく、空にはぽっかり月が浮かんでいる




「まだ…夜?」




携帯の電源が切れていない事を確認して時刻を見ると
画面には『am6:00』と表示されている




「え!?」




この時期、この時間といえばとっくに明るくなっていてもおかしくない




「調べてみるか?」

「う、うん……でも、どうやって?」

「…わからねぇ……とりあえず外に出てみるか?」

「そ、そうだね」




ヤダな…声が震えちゃう




「怖いか?」

「う、うぅん…大丈夫…だよ」

「心配するな お前一人くらい守ってやる」




政宗はの頭を軽くポンと叩いてにやりと笑う


こんな時一人じゃなくて良かったと心からそう思った




良かった…政宗がいて…






政宗は籠手をはめ、刀を腰に差した




「行くぞ!」

「ちょっと待って…」

「どうした?まだ怖いのか?」

「うぅん…行く前にさ……ご飯を食べていこうよ」

「あ!?…飯…だと?」

「だって…ホラ、腹が減っては戦は出来ぬって言うし…
 と言ってもおむすびくらいしかないけどさ」

「……」




な、なによ…なんで黙ってるのよ
しょうがないじゃない…怖くたってお腹は空くんだから




「ぷっ…くくく……AHAHAHA」

「な、なによ…そんな英語風の笑い方をしなくたっていいじゃない」

、お前はいつの時代の女だ?」

「うるさいわね、昔からそういう格言は伝わっているのよ」




尚も政宗は腹を抱えて笑っていたが、
「お前の言う通りだな」と腰に差していた刀6本をベッドの上に無造作に投げた



「それじゃ作ってくるね」

「一人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

「おぃ

「なあに?」

「卵焼きも忘れるなよ」

「御意!」




まったく緊張感のない会話?



違う…



私たちはきっと理解不能な出来事から逃げ出したいのだ



朝になっているはずなのに夜が明けない
ここは現代のはずなのに私と政宗以外誰もいない



そんな時、私はある事を考えてしまった




400年以上も前の戦国時代の人間が現代に来てしまうという事は
歴史が変わってしまうのではないかということ…


伊達政宗という存在が消えてしまうことはないのだろうか…?



ううん、政宗だけじゃない
過去が変わるという事は現在も変わる可能性があるということ



私という存在も消えてしまうかもしれない












それから食事を済ませた私たちは僅かな願いを胸に外に出た




「足元に気をつけろよ」

「うん大丈夫、懐中電灯を持ってきたから」

「便利なもんだな」




そうね、政宗からすればそう思うのかもしれない
確かに便利なものだけど電池がなければ意味がないのよね


良かった…電池が常備してあって……お母さんに感謝。















ここはどこだろう…確かにここは私の住んでいる見慣れた街だ


でも、どこか違う…感じる違和感



は慌てて政宗の腕を掴む




「政宗…」

「どうした?」

「……」




いやだ…なにこれ?




「おぃ…どうした?」

「……ここは…どこ?」

「あ?…何言って…ここはお前の住む世界なんだろ?」






そう…確かにこの街並みは私の世界のもの


でも、どこかが違う…



人の気配がないということもあるんだけど…もっと何か…
この違和感はそんなことじゃない…




まるで作り物のような…




これは模型の街並み…






家々の窓から洩れる温かい灯りもなく、物音も一切感じられない静寂さ


聴こえてくるのは、流れゆく生温かい風の音
そして、私と政宗の息遣いと鼓動…






「……ま、政宗」




それ以上の言葉が続かない

は政宗の腕に強くしがみつくだけだった






全身に回る震えが腕を通して政宗に伝わっていく

の中に燻る恐怖感が痛い程に伝わり、政宗はゆっくりと優しく抱きしめた




「怖いのか?」

「ちっ……ちが…」

「心配するな…俺はここに居る」

「…う、うん」






は政宗の背に回した手で服をきつく握り締めている
しかし、その震える手が言い知れぬ不安を表していた








「…家に戻るぞ」

「……待って」

「ん?」

「…政宗……ここは…私の世界じゃ…ない」

「……」




の口から出た意外な言葉だったが、政宗にとってそれは予期していた事でもあった




「とにかく戻るぞ…話はそれからだ」

「…ぅん」












部屋に戻っても政宗の腕の中でしがみついている手の力を緩めることが出来ずにいた
しかし、部屋を包む灯りと規則的な政宗の鼓動を聴きながら落ち着きを取り戻す






「落ち着いたか?」

「…うん……ごめんなさい」

「気にするな…このままでいいから話してみな」





の感じた違和感…



私はずっと政宗が現代にトリップしてきたのだと思っていた
どう見てもここは私が住んでいる街…



でも…ここには私たち二人しか存在していない
それに、夜が明けないという不自然さ


温かさの感じられない模型のような街



これを繋ぎ合わせると……政宗だけではなく私も…



トリップしている…?




あの時 雷が落ちて…部屋に飛び込んだ瞬間に私はここに来てしまったんだ




どうしてここが私の街になっているのか、政宗がどうしてこの部屋に居たのか
それはまだ分からないけど…



それでも私たちはここに居る






「もう少しこうしててもいい?」

「あぁ」






今はこれ以上何も考えられないし、考えたくない



もう少しだけ…



このまま政宗に寄り掛かっていたい










窓から見える暗闇の空には居待月が赤く輝いていた












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