素材:clef様
「お前…ひょっとして」 が出て行った後、フーッと煙草の煙を揺らすと「やれやれ」と溜息を吐く土方が 正気に戻ったのかと銀時は思った 絆 9 「最後の一本を吸いに来たら目の前にテメェらがいるとはな…しかもまで…」 「いいのか?行っちまったぜ」 「……」 「いいんですか、土方さん?」 「うるせぇよ」 土方は煙草の煙を吐き出すと、自分の意識が遠ざかっていくのを感じながらも限界で保ち続けた 「…まぁいい……時間がねぇ…一度しか言わねぇ テメェらに最初で最後の頼みがある」 それは本来のプライドの高い土方なら屈辱的だったかもしれない 消えていきそうな意識の中で、も真選組も護れないならプライドを捨てるしかなかった 「頼む…俺の……俺達の真選組を…を……護ってくれ」 それだけの言葉にどれだけの思いがこもっていたのだろうか 土方は「悪いな…お前を護ってやれなくてよ」と言えない言葉を煙と一緒に吐き出した そして、土方の意識が消えた 「ったく、冗談じゃないっつーの」 不貞腐れた言葉を吐く銀時に新八が宥めるように言った プライドの高い土方が頭を下げたのだからきっと何かが起ころうとしているのだと。 「ま、何が起きてよーが俺達には関係ねぇだろ?これ以上深入りはよそうや」 「でも銀さん…あの土方さんが僕らに頼み事をするなんて…」 「……」 銀時は黙っていた 本当なら銀時達が手を出すべきではないことを分かっていたから… その頃、は屯所に戻っていた 自分がすべき事に気付いたは、兄鴨太郎の所へ行こうとしていた が、その時不意に呼び止められた 「ちゃん」 「山崎さん!どうしたんです?その傷…まさか…兄に?」 「…ちゃんは知っていたんだね?」 「て、手当をしないと…」 「そんな事より早く土方さんに知らせないと…」 「待って…土方さんは……」 土方は兄の企てに勘づいていた 監察の山崎は土方に言われ兄の行動を見張っていた 『近藤勲を暗殺し真選組を我がものにする』 やはり、副長の言う通り… 早く副長に知らせなければ 焦る山崎の乱れた呼吸を伊東が見逃す筈がない 一瞬にして山崎に刃が向けられた 幸い腕に傷を負っただけで済んだが、このままでは殺られてしまう 真選組として簡単に殺られる訳にはいかない 山崎は事の真相を土方に知らせる為必死で逃げた 「ちゃん、君はまさか…」 真実を知った山崎は屯所に戻ってきた伊東の妹でもあるに会って一瞬疑いの目を向けた 「知っていたんだね?」 「…はい」 「じゃあ君も敵なんだ」 は首を思いっきり横に振る 「私は敵ではありません、兄の計画を止める為に戻ってきたんです 山崎さんお願いです、私を信じて下さい」 「ごめん、信じるよ…ちゃんは副長が信じている人だからね」 山崎はそう言って優しい瞳をに向けた そして、土方に知らせてくるからそれまで隠れているようにに言った 「大丈夫だよ心配しなくても…直ぐに副長を連れてくるから」 「違うの…土方さんは…」 土方は土方であって土方ではない だけど、それをどうやって山崎に伝えるかを考えていると、ポンと軽く頭を叩かれた その温かさは家族としての優しい温もりだった 「じゃあ行ってくる」 「待って、山崎さん」 引き止めようとするの手を振り払って山崎が走り出した瞬間、不穏な刀音が響いた 「山崎さんっ!!」 その鋭い刃は綺麗なほど山崎の身体に突き刺さっていた 「ぐほっ………お……お前…は…鬼兵隊……人斬り…河上…万斉…」 万斉は崩れ落ちた山崎を見下ろすと、後ろに立っているに気付き視線を向けた その瞳に身体の芯まで凍りつきそうだった あの時斬られた肩の傷がズキズキと疼くようだ 「、こんな所で何をしている?」 「に、兄さん…」 が振り向くと、そこには今にも消え入りそうな山崎を 平然と見つめて立っている兄・鴨太郎の姿があった 「き…貴様…」 途切れ途切れの息遣いの中、山崎は兄と攘夷志士が内通していた事を指摘した しかし、鴨太郎は双方の利潤を満たし均衡を保つ為のパートナーとして 攘夷志士と上手く付き合っていくべきだと言った 攘夷志士がいなくなれば真選組も不要な存在になってしまう もう刀で斬り合うだけでは世の中は変わらないのだと… 確かにそうなのかもしれない 斬り合うだけでは平らな世にはならないのかもしれない それでも…真選組は戦うことしかできないのだ だって彼ら自身が真選組の刀だから… 「土方のようなやり方では真選組はこれ以上強くならん」 「そんな事ありません」 は強い意志で真っ直ぐに兄を見つめ言い放った 「…、お前は僕がどういう人間か知っているだろう? お前は僕のようになりたいのだろう?」 「……」 いつでも賢く、強い兄さんは私の憧れだった 私も兄さんのようになりたい…そう思っていた だけど… 「私は…、今の兄さんのようにはなりたくありません」 「フフッ、残念だよ…お前に理解してもらえないとは… もっと強く、もっと大きく……土方も近藤も真選組も…そして、お前も この伊東鴨太郎が器を天下に示す為の方舟となってもらおう」 この人は誰なんだろう? 強い絆を自ら断ち切ろうとしているこの人は誰? 多少強引なやり方ではあるが己の信念を貫き、誰よりも絆を大切にする人だった 血の繋がった実の兄とは思えない はまるで他人を見るような瞳を鴨太郎に投げかけた その時、傷付いた身体を引き摺りながら山崎が言葉を発した 「…やりたきゃやりなよ」 「や、山崎さん…」 「ほう、まだ息があるのか?」 「アンタが…どれだけの器の持ち主なのかわからんよ…でも… 士道も節操も持ち合わせない空っぽの器になんて…誰もついていかんよ 俺は…最後まで……最後まで土方達についていかせてもらうわ」 山崎さん… それがあなたの士道なんですね? 私も同じです。 山崎さん、私も最後まで土方さんについていきます 山崎はおそらく身体を動かす事が容易ではないはずだ しかし、傷付いた身体を引き摺りながらも前進している きっと土方の元へと心も体も動かしているのだろう しかし、鴨太郎はその姿を冷やかな瞳で見つめていた ―― そして 「君には攘夷志士と戦い討ち死にした名誉の殉職を与えよう」 「に、兄さん…何を言って……」 「万斎殿…あとは頼む」 それは一瞬の出来事だった 万斎の刀が天を仰いだかと思うと一気に山崎の身体を貫いた 「やめてーーーーっ!!!」 の悲痛な叫びが響き渡った BACK TOP NEXT |