素材:clef








―― 赦せない




時間を掛けて築き上げてきた真選組との絆を、いとも簡単に断ち切ったこの男を…






私は赦さない…










絆 10










…どういうつもりだ?」




は静かに腰に帯びた刀を抜くと、その刃を鴨太郎に向けた




「私は真選組の人間です…敵と内通したあなたを罰します」

「ほう、これは心外だな お前達の好きな士道とやらを通させてやっただろう?
 僕はかわいい妹を殺したくはないのだ」

「もう…兄でも妹でもありません」

「妹だよ…お前の身体には僕と同じ血が流れているんだからね」




背筋に鳥肌が立った



同じ血




それが何を意味するのか?




私にも土方を…真選組を裏切る血が流れているというのか…




「その血を消したいのなら、その身体から抜き出すしかないだろうな」






何が起こったのか分からなかった
目の前に不敵な笑みを浮かべながら万斎が立っていた




「このまま殺すのは惜しいでござるよ」

「ば……万…斎…?」




そこからは何があったのか憶えていない
身体に激痛が走り、薄れてゆく意識の中で兄の声を聞いた気がした




『お前を連れて来なければよかった…な』










ガタガタと不規則に揺れる身体に違和感を覚えながらゆっくりと目を開けると
目の前に見える窓から景色が流れているのが見えた



痛みの残る身体を静かに起こすと自分が列車に乗っている事が理解できた




いつの間に列車に?



身体の痛みと共にの脳裏に記憶が蘇って来る




『殺すには惜しいでござるよ』




私は生きている


あの時万斎は当て身を食らわせただけなんだ




なぜ?どうして?




一抹の不安を感じながらはその場で身を伏せながら列車の中の様子を窺っていた










「武州に帰るのは久しぶりだな」



聞き覚えのある声…



近藤…さん?






近藤さんの声は武州と言っていた


この列車は武州に向かっていると言うの?




武州は、近藤さん土方さんそして総悟くんたちが生まれ育った地だと聞いている
いつだったか、そこが真選組の出発点だったと近藤さんが話してくれた



何の為に武州へ?


いいえ、この列車は武州には行かない、行く筈がないんだ



兄はここで近藤さんを消そうとしている





頭の中に過る不安をを振り払いながらは息を呑みこんだ








恐らく近藤さんは一人で今この列車に乗っている


真選組のみんなはここにはいない



近藤さんを護衛しているようにもっともらしく座っている隊士達は真選組を裏切った者




どうしたらいい?




考える必要はない




ここに土方さんは居ない



総悟くんも居ない



そして、山崎さんも…





私の出来る事は一つなんだ





命を賭けてでも兄の野望を打ち砕く事




迷いがないと言ったら嘘になる

それでも他の誰でもない、同じ血が流れている者としての宿命なのだと



そう思いながらはすべき行動のきっかけを待っていた




が、その時近藤の声が聞こえてきた






「俺はあの頃からちったぁマシなヤツになれたのかって、たまに不安になる
 少しは前に進めているのかって…な」




武州ではどいつもこいつも喧嘩ばかりしている荒れた所で
考えてみればあの頃とやっていることが今と変わっていないと、近藤は懐かしそうに笑った




「君は立派な侍だ…僕は君ほど清廉な人物に会った事がない 無垢ともいうのかな?」




兄さん… 近藤さん…




同じ事を思っているのに行き違いをしている兄の言葉に胸が苦しくなる
少しずつ気づいていく兄の心には洩れそうになる声を手で押さえ必死に堪えた




兄がどんな思いで私を一緒に連れて来たのか…



私は伊東鴨太郎の半身だったのだ



『お前はいい子だ、そのままでいなさい』と言っていた兄の言葉があまりにも哀し過ぎる


その言葉は本当は自分に言いたかったのかもしれない






いつも言い争いをしながらも同じ道を進んでいる兄と土方さんを
優しい瞳で見守っていた近藤さん


目にしていた光景はそんなに昔の事ではないのに…




兄が欲しかったのはきっと…








「君は白い布のようなものだな」




白い色は何色にも染まる無垢の色
そんなまっさらな真選組の御旗は近藤さん自身


近藤さんという白い布に皆がそれぞれの色で思い描いて染まっていく
それが真選組の御旗なのだろうと兄は言う


だが、自分の御旗の色は何色にも染まらない「黒」なのだと…


黒はどんな色も塗り潰してしまう、だから自分の通った後は全て自分の色になってしまうと…


その時、列車の中の空気が少しずつ変わり始めた






座っていた隊士たちがまるで号令を掛けたようにゆっくりと席を立っていく
それは砂糖に群がる蟻のようにじりじりと近藤の座っている座席に向かって行った


は座席の陰に身を潜めたまま刀を強く握りしめていた










一方その頃、銀時達と共にいた土方の前にパトカーが横付けされ
中から真選組の隊士たちが飛び出してきた




「副長、大変なんです 直ぐに隊へ戻って下さいっ!」




その様子は緊急事態を表していたが、今の土方には他人事のようだった




「副長ォ、山崎さんが…山崎さんが何者かに殺害されました」




何だって!?




隊士たちの尋常ではない様子に新八や神楽は驚いていたが
銀時はただ黙って様子を窺っていた



土方は真選組をクビになったと言っていた
その土方がクビになった次は山崎が殺害?




いったい何が起こっている?




しかし、今の土方はトッシーになっていて事の重大さも忘れている
そんな土方を屯所に戻らせようと、隊士たちは強制的にパトカーに乗せようとした






『土方さんをお願いします』






ふと、の言葉が銀時の脳裏を過る






瞬間、銀時は咄嗟に連行される状態になっている土方を捕まえ
一目散にその場を逃げ出した




「しまった、逃げられた 追えーーっ!!」




追い掛けてくる隊士たちを神楽が阻止しながらも追いつめられた銀時達は
そのままパトカーを奪って逃走した






そして、無線の内容によって銀時達は事情を知る事になる






「近藤さん 土方さんを暗殺!?…銀さんこれって…」

「ちっ、知らねぇよ……ったく、内輪もめはテメェらで解決しやがれ」





と土方が互いに同じ事を思い同じ事を託した言葉を銀時は思い出していた






『俺達の真選組を…』




を…』




『土方さんを…』






『お願いします』















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