素材:clef








同じ道を志して、同じ視点でいつも語り合っていたあの頃が
遠い昔の事のように思える



あれからどれくらいの月日が流れたと言うの?




解けてしまった絆はもう二度と繋がれる事はないのだろうか…










絆 11










不穏な空気が列車の中に流れていた




今まで張りつめていた空気の中で続いていた鴨太郎と近藤の会話。
そして、その周りに護衛するように座っていた隊士たち。
でも、その護衛が近藤のものではない事はの目にも分かった




今まで大人しく座っていた隊士達がまるで機械仕掛けのように同じように動き出す。
一斉に立ち上がり近藤を取り囲んだ


それは、まるで近藤の逃げ道を塞ぐように…




「近藤さんすまないね もう君達の御旗は真っ黒になってしまったんだよ」




それは何かの合図だったのだろうか
隊士たちの刀が一斉に近藤に向けられた



その光景を見たは思わず自分の刀を握り締め咄嗟に飛び出していた






「何をしているの?その刀をしまいなさい」




は刀を抜くと鞘を投げ捨て、一歩ずつゆっくりと近藤達の方へ足を進めて行った



自分でも無謀な事をしていると思う
だけど気付かないうちに身体が咄嗟に反応していた


兄を止めたいという気持ちより近藤さんを護りたいと思った






「近藤さん…もうお気づきですよね?……ごめんなさい」




のいる方向からは近藤の顔を見る事は出来ないが、
例え背中越しであっても謝罪の言葉を伝えたかった



刀を握る手に力がこもり、が発したほんの僅かな殺気が漂った頃
突然列車の中に笑い声が響いた




「やあ、ちゃんも乗っていたのかい?…ん?どうした?兄妹喧嘩かい?
 あははは、兄妹喧嘩はいかんぞ…兄妹は仲良くせんとなぁ」

「…近藤さん」




近藤さんの顔は見えないけれど、きっとこの人は本気で私達を心配してくれているんだろう
その思いが苦しくて、切なくて哀しい






「伊東先生、俺達が真っ黒に染まったなんて面白い事を言うなぁ…さすが先生
 俺が白い布だとするならば確かにそうかもな」




淡々と語る近藤の話を鴨太郎は黙って聞いていた
もまた刀を握り締めたまま近藤の話に聞き入っていた


近藤は、それは嬉しそうに真選組の事を語るのだった




鴨太郎の周りにいる人間と違って真選組の連中は色と呼べる代物ではないと笑う
学もなく思想もない、理屈より感情で動く連中、そんな『汚れ』とも言える彼らの色も
やがて年季が入りそれらしい色になっていく… そして、それがいつの間にか
真選組に相応しい御旗になっていた




近藤が語るその言葉には心の中で何度も頷いていた




それは、近藤さんが居たから…とは胸の中で呟いた



そんな近藤の思いを誰も、例え兄でも壊す事が出来ないのだとは心の底から思った






「先生、アンタの手にゃ負えない」




それは、全てを知った近藤の答えだった



は一歩ずつ足を進め近藤に近付いて行った
すると鴨太郎の瞳がを捉え、思わず足が止まる




「どうするつもりだ?お前一人ではどうにもならないだろう?」

「それでも…私はあなたを止めます
 例え一人でも…例え死んでも近藤さんを護ります」

…、お前は兄である僕より近藤を選ぶと?」

「近藤さんは…真選組は私の家族です!何があっても護ります」




は真っ直ぐに鴨太郎を見つめ捉え、刀を構えた
それは殺気に満ちたものではなく、護る剣の穏やかさだった






ちゃん…君が手を汚す事はない」



言葉にはしなかったが近藤の背中がそう語っているように見えた








たった一歩を踏み出せば始まる戦いの緊張感の中で、
は息を止めたまま間合いを測っていた



その漂う威圧的な空気の中、背後の気配には気付いていなかった










「…テメェが……何やってんだ?」

「え?」




突然に響いてくる聞き覚えのある声に、刀を握るその手が微かに震えた




「テメェが何やってんだってきいてんだクソヤロー」




怒りに満ちたその声が背後から一歩ずつ近づいてくる
その声が直ぐ後ろに感じた時、は全身総毛立った






「そ…総悟くん?」




総悟は横を通り過ぎる際にを横目で一瞬睨むと少しだけニヤリと笑ったように見えた
その目はまるで『お前こんなとこで何やってんだ?』と言っているようだった



どうしてここに総悟がいるのか、は自分の目を疑った




まさか総悟くんは…
私と一緒に戦ってくれるの?



うぅん、そんな筈はない
だって総悟くんは私を真選組の者と認めてないもの




だが総悟は、目の前のが存在していないかのように鴨太郎に向かって「その手を放せ」と叫んだ






躊躇なく近藤の元へ歩んで行く総悟に隊士の一人が阻止する為彼に近付いて行ったが
総悟は怒りと殺気を漂わせ、その隊士を躊躇うことなく斬った


吹き出した隊士の真っ赤な血がの頬に飛び散り、これが夢ではないと思い知らされる
覚悟を決めて臨んだもののどこか非現実的だと思っていたのも事実だったからだ




「その人から手を放せって言ってんだァァ!!」








いつも皮肉めいた事ばかり言っていたよね?
それでも、総悟くんとは年相応の話が出来て嬉しかったんだよ


でも、今目の前にいる総悟くんは私の知らない総悟くんだね






「沖田君……やはり君は土方派…」




何も語らずとも鴨太郎の企てに土方は気付いていた



屯所を出て行ったには鴨太郎と総悟の間に何があったかは分からないが
総悟だって気付かない筈はないのだ



まるで兄さんの側に居た総悟くんが寝返ったような、そんな口ぶりだった




「土方を裏切ったのも僕を欺くための芝居だったのか?」

「芝居じゃねぇよ」






眼中にあるのは『副長の座』だけ。邪魔なヤツは誰だろうと叩き潰す。
それは鴨太郎だろうが、土方であろうが…


総悟は今しがた隊士を斬ったばかりの血糊の付いた刀を鴨太郎に向けた




「テメェの下にも土方の下にも就くのは御免だ 俺の大将はただ一人…
 そこをどけ、近藤の隣は俺の席だ」






近藤さんの隣…
それは副長の座のことなのだろう




不思議…
それが総悟くんの本音なのかどうか分からない


でも、総悟くんの言葉を反論する気もない




ただ、兄さんも土方さんも、そして総悟くんも似ているって…そう思う






だから近藤さんの所に集まったのよね?






兄さん…



真選組には派閥なんてない……うぅん、必要ないのよ




ほら、近藤さんも言っていたでしょ?理屈では動かないって…




各々の色で寄せ集まった色は何色にも染まらないんだよ






それが真選組の『絆』なんだから……















BACK TOP NEXT