素材:clef








「土方さん、どうしたんです?」




沖田に問われ、土方は事の経緯を話した




コイツだけには話したくねぇと思ったが、
総悟になら俺がいなくても真選組を、近藤さんを守れると…どこかで思ってたのかもしれない










絆 6










「全ては刀を手に入れてからおかしくなった」

「……」




暫く無言の後、沖田は腹を抱えて笑い出した




ほらな、どうせ信じる訳ないんだ だからコイツに言うのを躊躇った




「んで、その妖刀の所為でヘタレちまったと?」

「そういうことだ」




すると沖田は「冗談言っちゃいけねぇや」と再び腹を抱える




「土方さんは元々ヘタレでしょーが」




コ、コイツ…楽しんでやがる


普段の俺ならブチ切れるところだが、またも勝手に口が動いていく




「そうッスよね…俺なんて元々こんな…」




まただ、追いつめられるとネガティブになっていく




沖田は「あらら、本当にらしくねーや」と少し顔色を変えたが
直ぐに妖刀を捨てることを提案した



確かにその通り、これを捨てて元に戻れるならそれにこした事はねぇ




だが、この妖刀は何をしてもこの手から離れねぇ
気がつきゃ厠や風呂にまで持っていく始末だ
剥がそうにも剥がれねぇ




「鍛冶屋には行ったんですかい?」

「こんな時に限ってあのジジィ…居やがらねぇ」

「ご愁傷様」

「テメッ…やっぱり楽しんでやがるな」






それでも俺はコイツに頭を下げなけりゃならない
正直コイツも信用できねぇが、副長の座を伊東に譲るくらいなら…と。




「総悟……、を助けてやってくれ」

「は?…フン、やなこった……は伊東の妹ですぜ」

「それでも…だ」

「そんな事はアンタがやればいい…俺にはを助ける筋合いはない」




そんな事が出来りゃ頼まねぇんだよ
助けてやりたくても今の俺じゃそれも出来ねぇ




「アイツは…多分今回の事を知っている…死ぬ気で伊東を止めるだろう」

「でしょーね…じゃなきゃ真選組には戻って来たのに出ていく訳ねぇし…」

「分かってるんだったら少しは…」

「命ってぇのは自分だけのものでさぁ…死にたい奴は勝手に死ねばいい」




急に真顔になった総悟に土方は「もういい」と席を立つと、沖田は引き止めるように声を掛けた




「土方さん、待って下せぇ」

「何だ?」

「焼きそばパン買って来いよ、あとジャ●プもな…勿論全部お前の金でな」




コイツ…事の重大さが分かってねーのか!?



やっぱりコイツに頼んだ俺がバカだったぜ






「あ、土方さん 今日は会議がありますぜ…せいぜい遅れないように…」




そんなこたぁ分かっちゃいるさ…



怒りでプルプルと震えが襲ってくるが、
こうやってコンビニで焼きそばパンとジャ●プを買う俺って…



って、ジャ●プが売り切れだとーー!?










ヤバイ、遅くなっちまった このままでは遅れる


どうせ今日の会議の議題は俺の事に決まっている
既に十以上の法度を犯している俺は間違いなく処分されるだろう ヘタすりゃ切腹だ



土方は、とにかく真選組目指して必死に走った 




その手に焼きそばパンと何件も店を回り
結局手に入らなかったジャ●プの代わりにマガ●ンを握り締めて…








午後5時、会議が始まろうとしていた
しかし、土方はまだ到着していなかった




時は刻一刻と過ぎていき、「トシのヤツ遅いな…とっくに時間は過ぎているぞ」と溜息を吐く






近藤は内心焦っていた



土方が犯してしまった局中法度の数々、例え切腹は免れても局長として処分はしなければならない

しかし、伊東は先を急ぐように隊士たちの前で土方の悪行を暴いていく




彼の巧みな話術は真選組の絆を断ち切っていく糸口になって
幾人かの隊士たちは土方への信頼を不信感へと変えていった




土方にこそ厳しい処罰が必要なのだと伊東は声を大にして宣言する
そこには隊士たちの賛否両論の声も飛び交う



しかし、近藤は伊東の手前でも土方を信じたかった




「待ってくれ」と少しでも時間を稼ごうとした時、大きな物音を立てて土方が飛び込んで来た


だが、安堵したのも束の間、呆れ果てた土方の醜態に肩を落とした










「焼きそばパン買ってきたッス、沖田先輩!!」




土方が我に返った時は既に遅かったのだ



一瞬にして冷やかな視線を一斉に浴びることになった




「ト…トシ…」




近藤の落胆する姿と、冷めた目で見つめる伊東と沖田。






『ハメられた』と思った時にはもう土方は処罰を受けていた



近藤の言葉で切腹だけは免れたが、結局土方は真選組から去る事にしたのだった











土方が真選組を去ってから、隊士たちに間では沖田が伊東派についたと噂されるようになった
また、伊東は土方が居なくなった事で公に副長の座に付いたような立場を装っていた




「君は土方派だと思っていたよ」




沖田を前に伊東は意外そうな顔を見せた
しかし沖田は飄々とした顔で「土方派があったなんて知りませんでしたよ」と否定した




「フフ…賢い男だ、望みは何かね?」

「勿論、副長の座でさぁ」




どちらともなく不敵に笑い合う鴨太郎と総悟。








そんな様子を見ていた山崎もまた不穏な空気を感じていた
















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2009/11/24