素材 Abundant Shine









哀しいくらいに青空が広がっているのに、明日はやって来たのに
日常の光景は戻ってくる事はなかった


それが夢でないと気づくのにどれくらいかかったのだろうか










絆 21










それぞれの思いを隠しながら、それでも少しずつ日常は戻ってくるもの。






「山崎さんが生きていてよかった」




あの時死んだと思っていた山崎が戻ってきての心は救われた気がした
沢山の人が巻き込まれ傷付き、鴨太郎の残した傷跡の中で希望の光だった




「フン、こいつは殺しても死にはしねーよ」

「副長――っ!」

「なんならもう一回死んでみるか?」

「うわ――っ」




山崎はを盾にしてその後ろに隠れる
いつもならそこで笑いが溢れるが、土方はを避けるように背中を向けた

あの日から土方と一言も言葉を交わしていない


もうここにはj自分の居場所はないのだとは感じていた




今回の事で全てが丸く収まった訳ではない
誰もが心の傷に触れないように気を遣ってくれる事がには心苦しかった






「近藤さん…、お話が…」




近藤は予知していたのだろうか、の話を黙って聞いていた



私はズルイ人間だ。
兄の企てを知りながら何も出来ず、結局守る事さえ出来なかった
そして今も居たたまれなくて逃げ出そうとしている



近藤は縁側から庭に下りると丸く浮かんだ月を眺めながら「寂しくなるな」と、それだけ言った

その言葉にどれだけの思いがこもっていただろう


はその夜、小さな箱に納まった兄の遺骨一つを持ち屯所を出たのだった








**********






兄さん、もういいよね?私と一緒に故郷に帰ろう
私ね…、帰ったら小さな子供たちに勉強や剣術を教えようと思っているんだ

これからはずっと兄さんと一緒だよ



鴨太郎の借りていた家に戻ったはそう決意していた








兄さん、今日もいい天気だよ
まるで何もなかったように青空が広がっている

兄さんが居なくなってから独り言が増えたみたい


は庭で空を眺めながら小さく笑った




は天に向かって体を大きく伸ばしながら深呼吸をすると
朝のひんやりとした空気が体に入りこんできて心地良かった


「よし」と奮起させるように、は洗濯を始め庭一杯に衣を泳がせた




「次は掃除をしなくちゃ。あ、買い物にも行かないと…」




動きを止めてしまうと流れる時間の静寂さに押し潰されそうで
は闇雲に忙しなく動き回っていた






町に出るとざわめく不協和音が今のの心の内を隠してくれるようだった
いつもと変わらない人々の声、商店街、店のおじさん、おばさんの笑顔。

変わらない世界なのに変わってしまった世界。


ね、私は笑えてる?








**********










―― 見覚えのある場所



全てはここから始まったんだっけ




万事屋の看板を見上げながら息をのみ込む。
躊躇いがちに一段ずつ階段を昇って行くと変わらない声が響いている


訪れた万事屋はあの時と少しも変った所がなかった
元気一杯の神楽ちゃん、それを叱る新八くん、そして気だるそうに寝そべっている銀さん。


そこにはが望んでいた家族と絆があった






「銀ちゃんすごいアル。箱の中にケーキが一杯入ってるアルよ」

「途中で買ってきたの…よかったら皆で食べ……」




言い終わらないうちにケーキの箱は無残に広げられ神楽の口に消えていく。




「おい神楽、一人で食ってんじゃねーよ。俺にもよこせ」

「あ――っ、何やってるんですか二人とも!!」




奪い合うようにケーキを口に放り込む銀時と神楽を呆れながら「お茶を淹れてきます」と
新八の気遣う様子を見ながら、変わらない光景にいつの間にかの口元にも笑みが浮かんでいた






「銀さん…怪我の具合は?」




元気にケーキの奪い合いをしているが、彼の身体の包帯が痛々しく見えた
だが銀時は「心配してもらう事はねーよ」と他人事のように笑った




「…ごめんなさい」

「は?何を謝ってるんですかー?謝る様な事してないだろーが」

「そうですよさん、僕たちが勝手にやったんですから」






それでも私はあなた達を巻き込んで傷付けてしまった


何も守れなかった

何も出来なかった






…、何も出来なかったとか思っちゃってる?」

「ど、どうして?」

「お前ってわかりやすっ!全部顔に出ちゃってるし〜
 ま、何も出来なかったって思ってるならこれからやればいいんじゃねーの?」

「これから…?」

「そっ、お前に出来る事は今のままでいることじゃね?」






今のままでいること?

兄さんと同じ言葉…


それは変わらないままでいること



それは簡単なようで一番難しい事だと銀さんは言った




どんなに苦しくても、どんなに哀しくても少しも変わることなく今のままでいる事。




はまた銀時に背中を押されたような気がした















BACK TOP NEXT