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土方さん…助けて 何かが起ころうとしている不吉な予感には胸の中でそう叫んでいた 絆 2 刀を向けられた日からも、兄の異様な行動は続いていた 真選組へ戻ったかと思うとの所に戻る そしての所へ戻って来れば夜毎出掛け、世が開ける前に帰ってくる 家に居る時は部屋に閉じこもって書き物をしているようだった そんな鴨太郎の行動はに不信感を募らせていった その日は朝から兄の機嫌が良かった 見せる笑顔もいつもの優しい兄の顔に戻っていた 「何かいい事でもあったの?」 が恐る恐る訊ねると、兄は手元の本に目を落としながら小さく微笑んだ そして「計画が上手くいきそうだ」と、ふと漏らした兄の言葉には耳を疑った 「計画…?」 思わず聞き返してしまった言葉に鴨太郎の顔色が変わった それは訊いては行けない事だったのだろう、「お前が知ることではない」と 話を打ち切るように音を立てて本を閉じた その夜、鴨太郎はいつものように身支度を整えると家を出た しかし、その後をが追っている事を鴨太郎は気づいていなかった 鴨太郎の後をつけながらの脳裏にはいろいろな思いが駆け巡っていた 兄を信じたい気持ちと信じられない気持ちが交錯して、目の前を歩く兄の姿が霞んでいく 幼い頃から鴨太郎の双子の兄、 そしてのもう一人の兄でもある鷹久は病弱で床に伏せる事が多かった 父はそんな鷹久に代わって伊東家の跡取りとして考えていた 鴨太郎もそれに応えるように勉学に剣術に誰よりも努力をしていた ただ、母だけがそれを認められずに鴨太郎に辛く当っていたのだ 鴨太郎の中でどれだけの葛藤があったのか幼いには知る由もなく ただ、その時に見下したような冷たい瞳の色を見て、兄の知らない面を垣間見た気がした 「お前をこの家に置いては行けない」と、鴨太郎がを連れ江戸まで来た 江戸でにも北斗一刀流を習わせた 人を斬る剣ではなく守る剣を覚えろと… このまま兄に気付かれないうちに引き返した方がいいのではないか? 交錯する思いを浮かべたり、あるいは打ち消して何度も足を止めた 心の迷いを吹き飛ばす事も出来ないまま桟橋近くまで来ると 鴨太郎は人目を憚るように土手下に降りて行った え?こんな所に何が? は兄を見失わないよう急いで後を追って土手を下りた 月明かりも当たらない闇の中、そこに停泊していた屋形船に乗り込む兄の姿がぼんやり見えた 疑問はいくつもあった、確かめたい事も沢山ある。 この時のには後で起こるだろう危険も問題も何一つ予想が出来なかった いつしか迷いも消え、気がつくと鴨太郎を追って屋形船に乗り込んでいた 気配を消しながら様子を窺うと、中に兄以外の人の気配を感じ、 咄嗟に船尾の方に積んである荷物の陰に身を隠した と、その時船に乗り込んで来る人影が見え、 は荷に掛けられている茣蓙を広げその身が隠れるように被った 兄が誰と会って何を話しているか分からないが、が息を潜めているとゆっくりと船が動き出し 隙間から見える水面の波紋が禁じられた道へと誘っているように見えた どれくらいの時が流れたのか時間の感覚がなくなった頃、中から聴こえていた三味線の音が消え 静かに窓が開かれ、そこに月明かりで人影が映し出された その姿を垣間見た時、は大きく息を呑んだ 「た……」 は思わず洩れそうになった声を閉じ込めるように慌てて口を押さえた 高杉晋助… 何故、兄さんと高杉が? ドキドキと心臓の音が破裂しそうに響く。 開けられた窓から微かに聞こえてくる兄の声、その言葉の一つ一つには耳を疑った 「……を…にする」 え? 今なんて? 真選組を我がものにする? 兄さんは一体何を言っているの? 更に聞こえてくる兄と高杉の会話にはただただ茫然とするだけだった がそこに居るとは知らず鴨太郎は雄弁に語っていく 真選組を自分のものにして、それを地盤に僕は天下に躍進するのだと… そして、生きてきた証を天下に…人々の心に刻み込むのだと… 哀しかった 胸が痛かった その時、兄が幼い時に見せたあの見下したような瞳の色が浮かんだ 初めて兄の心情を知ったような気がした 「…兄さん」 兄の哀しみと同時には真選組の事を思った 真選組を自分のものにするということは…? は鴨太郎がふと漏らした『計画』という言葉を思い出した 考えたくはない事だが、繋ぎ合わせての頭に過ったのは『暗殺』の二文字だった 「……悪名でもかまわねぇと? その為なら恩を受けた近藤を消す事もいとわねぇと?」 「恩?」 高杉の言葉には確信を持った 兄は近藤さん暗殺を企てていると…そして、それには高杉も関わっていることを… 「僕は仕えてやったのだ…感謝こそされ不満を言われる筋合いはない」 どうして? あんなにも暖かかった真選組との絆を自分の手で断ち切ると? 目の前が真っ暗になり、身体の震えが止まらなかった だけど、このままでは哀しすぎる… それがどんな結果になろうとも、命を掛けて兄さんを止めなければならないとは思った 「鼠が忍び込んでいるでござるな」 その声がの耳に届いた時には既に遅かった 我に返ったの瞳に映ったものは、あの日鴨太郎に向けられたものと同じ鋭い刃先だった 被っていた茣蓙にスーッと一文字の斬り口が広がり、一人の男が笑みを浮かべ立っていた 「おや?これはカワイイ鼠でござるよ」 「ひ…人斬り…万斉」 「ほう、拙者を知っているでござるか?さすがは伊東殿の妹でござるな」 笑みを浮かべているが殺意が恐いほどに感じられた 殺されると直感した 自分の運命を悟った時、万斉の背後から兄の声が聞こえた 「…」 「……に、兄さん」 何故お前がここにいるのだ? 兄の瞳はそう言っているようだった だが、高杉と万斉の前で互いに言葉にはならない そんな中万斉が兄に視線を送った その瞳はの処置をどうするか問い掛けているようだった 「…、お前は知りすぎた」 その言葉が合図だったかのように万斉の刀が動いた 咄嗟にも刀を抜いたが、いとも簡単にその刃は弾かれ『人斬り』と異名を取る万斉に適う筈もなく、 肩に痛みを感じた時にはの身体は川に投げ出されていた 『遅い!剣を振るう時は迷うな』 そう言った兄の言葉を遠くで思い出しながらは微笑んだ BACK TOP NEXT 2009/11/19 この話を書いている時、テレビではグラチャンバレーをやっていた(笑) VSエジプト戦、3−2で日本勝利!! 32年ぶりにメダルを獲れるか!? ガンバレ日本!! |