素材:十五夜様
もう苦しまなくていい もう哀しまなくていい 俺が全部背負っていく 絆 19 「なんで…あんなことを?」 真選組を裏切り、妹のまで傷付けた鴨太郎が何故皆を庇ったのか新八は聞いた だが、それは鴨太郎にとっても想定外の事だったのかもしれない 繋がっていた真選組との絆、そして傷付けてしまったの心。 それは自分の愚かさに気付き、本能の赴くまま細胞が勝手に動き出した結果だったのだろう 「君たちは真選組ではないな?だが、言葉では言い難い絆で繋がっているようだ」 そこに居る新八と神楽は真選組ではないが、 敵とも友情とも違う絆で繋がっているように見え鴨太郎には羨ましく思えた 「ただの腐れ縁です」 腐れ縁?そんな形の絆もあるんだな それだけで命を懸けられるのか… 知らなかった…いや、知ろうとしなかった 認められたいのに認められず、拒絶される事や傷付く事を恐れ、ちっぽけな自尊心を守る為に 他人と繋がりたいと願いながら自ら他人との絆を断ち切ってきた ようやく見つけた大切な絆を自ら壊してしまうとは… 「何故…いつだって気付いた時には…遅いんだ?」 「……兄さん」 「さん!」 戦いの疲れが見えていた。 は肩で息をしながらゆっくりと鴨太郎の前に膝をついた 「ちゃん、もういいから先生のところに行きなさい」 「大丈夫です。まだ戦えます」 「局長命令だ」 「……はい」 どんなに敵対していてもと鴨太郎の間には兄妹という断ち切れない糸が存在している 近藤の優しい命令には頭を下げ、兄の元へ急いだのだった 「…?」 「こんな所で何をしているの?立ってよ!」 兄がもう立ち上がれない事は分かっている。息をしているのも不思議と思えるほどだ それでもは気丈に振る舞っていた そうしないと涙が零れてしまいそうだから… 「共に戦いたいのに…立ち上がれない」 「立てるわっ!兄さんは強いもの」 「…剣を握りたいのに……腕がない」 「腕ならもう一本あるじゃない」 「…ようやく気付いたのに……僕は死んでいく」 「……」 鴨太郎の肩を強く揺さぶっていたの手が止まりピクリと震えた 「死にたくない……死ねば一人だ…どんな絆さえ届かない」 兄の声も身体も震えていた 死んでいく怖さと、一人きりになってしまう怖さなのだろう それは鴨太郎が初めて見せる弱さと本音だった 「兄さんは一人じゃないよ…私がずっと一緒にいるから…」 は震える鴨太郎の手をそっと握った。その顔はどこか微笑んでいるように見えた ずっと一緒に居るという意味。 も鴨太郎と逝くということなのか? 「!!!」 その時、鴨太郎の手がの頭に触れ優しく撫でた 「…お前はいい子だ……ずっと…そのままで…いなさい」 「…兄さん」 幼い頃、ずっと兄さんのようになりたかった。優しく、強く…憧れていた 兄さん、知ってる?私はいい子じゃないよ だって大好きな兄さんをこの手で殺そうと思ったんだもの 今だって、楽になりたいって思ってる それでも生きていかなくちゃいけない? 私だけ残して自分は死んじゃうの? ズルイよ… 鴨太郎はの頭を撫でながら耳元で最後の言葉を告げた それはあまりにも小さく聞きとりにくい言葉だったがの耳にははっきりと届いたのだった やっぱり兄さんはズルイよ… 「そいつをこちらに渡してもらえるか?」 別れの時間はやって来た 近藤さんがくれた最後の僅かな時間。 兄の為に沢山の人たちが犠牲になった 沢山の人を巻き込んで、沢山の人を傷付けた。それは大罪である 裏切り者の兄は真選組がその意を持って処分しなければならない だが、鴨太郎が真選組の隊士に連行されそうになるのを新八は止めた 例え悪事を働いたとはいえ、鴨太郎は新八たちを身を呈して救ってくれた それは紛れもない事実であり、しかも彼の命はもう長くはない しかし、「連れて行け」と冷たく言い放つ近藤に新八は食い下がったが、その肩は震えていた 「ほっといたってヤツはもう死ぬ…だからこそ斬らなきゃならねぇ」 銀さん…無事だったんですね。よかった… ごめんなさい ありがとう 伝えなければいけない事が沢山あるのに今は言えません 大勢の人の苦しみや哀しみ、そして兄の罪を背負って生きていく私に少しの時間を下さい はしっかりと立ち上がり銀時の背中に向かって深々と頭を下げた BACK TOP NEXT |