素材:十五夜様
もうお前を戦わせたくない 俺は一番言いたくない言葉を口にする まだ戦えるな? 絆 18 土方が列車に飛び移って直ぐに車両は崩れて落ち、まさに間一髪だった 繋がれた手は何も語らずとも同じ意思が伝わっていた ようやく会えたは茫然と立ち竦んでいて、その瞳は乾いていた 心も体も傷付き、今にもその場に崩れ落ちそうで『もう戦わなくていい』と そう伝えてさしのべたい手を耐えるように土方は自分の拳を握り締めた の足元に落ちている刀を拾ってやると、やっと目の前の土方の存在に気付いたように ほんの少し唇を緩めて見せた 「終わらせるぞ」 「…はい」 そうだ、早く終わらせて俺達は帰るんだ 真選組は何があっても消えたりはしねぇ 土方がに触れようとしたその瞬間、殺気が空気を包んだ 「伏せろっ!」 そう叫ぶと同時に、闇雲にぶっ放された機関銃の威力は列車を破壊するほど激しく 土方は咄嗟に近藤とを庇って二人に覆いかぶさった ―― 生きている? 何が起こったの? 土方さんは?近藤さんは? 総悟くん、神楽ちゃん、新八くん……みんな無事? ゆっくりと顔を上げて一人ずつ確認しながら辺りを見回すと 皆の無事が見てとれてホッと胸を撫で下ろしながら大きく息を吐いた しかし、次の瞬間生温かいものが手に触れては顔を上げた 兄さん!! の悲痛な心の叫びで喉の奥がヒリヒリと痛む 目の前で庇って仁王立ちしている鴨太郎の姿がゆっくりとコマ送りのように崩れ落ちていくのを はどこか遠くで眺めていた。これは夢なのだと自分に言い聞かせながら… 土方さん、近藤さん、総悟くん… 新八くん、神楽ちゃん…? どうしてそんな哀しい瞳で私を見るの? 『お前はいい子だ、そのままでいればいい』 幼い頃、兄のようになりたいと言っていた私にいつも口にしていた兄の言葉。 いつしか熱いものが頬を伝っていたが、はそれを拭う事もせず 崩れ落ちていった惨めな兄の姿を哀しい瞳で見つめていた これは罪? これは罰? この戦いが始まったのがもう何年も前のような気がする 何でこんな風になってしまったのだろう 兄の企てを止めたかっただけなのに、何も出来ない私がここにいる 大切な人たちを傷付けて、巻き込んで、それでも私は生きている これは自業自得…なの? ここで倒れているのは誰? 心の底から慕っていた兄が崩れていくのを、はまるで他人事のように乾いた瞳で見つめていた 迎え始めた結末に流れる筈の涙はなく、ただ喉の奥がヒリヒリと痛かった あんなにも騒がしかった無数の音が暗闇に取り残されたみたいに静寂が広がる の耳には何も聞こえない その中で唯一土方の声だけが届く ―― まだ戦えるな? それは幻聴だったのかもしれない しかし、はゆっくりと立ち上がると刀を強く握りしめた 生きている兄と一緒に居られるのはこれが最後… もう二度とその声を聞く事が出来ないかもしれない 兄さん、ごめんなさい 私は最後まで真選組として戦います 『それでいい……行け…』 遠くで兄の声が聞こえた気がした 「行くぞ」と、総悟に背中を押されは頷きながら戦いに身を投じていく その背中を見つめる鴨太郎の口元は、の真意を受け取ったように優しい笑みが浮かんでいた …、お前はそれでいい 僕の背中ばかりを追い掛けていたお前が自分の意思で動き始めた いつの間にかお前は違う背中を見ていたんだな ずっとお前を連れて来て後悔していたが、お前を連れて来て良かった 今はそう思う お前が妹で良かったよ 遠のいていく意識の中で鴨太郎は、見えなくなるの姿を見守るように見送っていた 「…何をしている?ボヤボヤするな…副長……指揮を…」 これで最後だ 終わりにしよう 鴨太郎が全てを託すように幕引きの言葉を告げる それは二人の間にある見えない繋がりで確実に土方の心に伝わっていった 土方は刀を強く握りしめ、大きく振り翳す 「総員に告ぐ!敵の大将は討ちとった!! 敵は統率を失った烏合の衆!一気にたたみかけろ!!」 真選組副長、土方十四郎の言葉に隊士たちは迷うことなく突き進んでいく 信頼という絆で結ばれていた真選組は圧倒的に強かった 「逃がすな 討ち取れ!!」 これで全てが終わる は疲れ果てた体で、我武者羅に刀を振るい続けていた BACK TOP NEXT |