素材:十五夜様
ずっと会いたかった 本当のあの人に… 苦しかった事、悲しかった事、 泣いてすがって、その愛しい胸に飛び込めたらいいのに。 絆 16 まだ終わった訳ではない 本当の戦いはこれからだ 共に戦ってくれている総悟くん、私と兄を繋げようとしてくれる近藤さん、 そして、真選組の副長として戻ってきてくれた土方さん。 私は大好きだった兄を敵に回して非情になれるだろうか 今、まさに戦おうとしている土方と兄を前に自分の為すべき事を考えていた もしも兄が謀反を起こさなくても、土方と兄はいずれぶつかっていただろう 誰よりも互いの事が理解できるが故の対立 もっと早く違った形でぶつかっていれば少しは違った結果になったのだろうか は首を横に振る 遅かれ早かれ二人は戦う事になっただろう それなら私の出来る事はただ一つ、見届けることだけ どんな結果に終わろうとも私は受け止めなければならない ―― 最後の決着が始まる その時、銀時もまた万斉と決着をつけようとしていた事をは知らなかった 土方と鴨太郎、銀時と万斉、互いの刃が交わろうとした瞬間、 耳を劈くような爆音が聞こえ列車が大きく揺れは床に叩きつけられた いったい何が起こったの? うつ伏せに叩きつけられた体でようやく頭だけ持ち上げた時、 前方に居た筈の土方と兄の姿が消えていた 「新八くん、神楽ちゃん…大丈夫?怪我は?」 「大丈夫です。それよりさんは?」 同じように床に突っ伏している新八と神楽に声を掛けると新八の声が返ってきて はホッと胸を撫で下ろしながら自分も大丈夫だと答えた しかし、状況は良くない事は分かる 列車が少しずつ崩れていって車体も傾き始めている 前方の方で近藤も総悟も同じように突っ伏しているのに気付き、 は体を引き摺りながら前に進んで行った からはよく見えないが、近藤が何やら言葉を交わしているようだった 「近藤さん?……総悟…くん?」 ようやく総悟のところまで体を引き摺って行くと、総悟は近藤の足を押さえていた 「…これ以上行くんじゃねぇ」 「総悟くん?…いったい何が起こったの?」 「くっ…」 ゆっくりと傾いていく列車に合わせるように近藤の体が前方へ動いていく それを止めるように総悟が歯を食いしばって押さえていた 「総悟くん!」 「ちっ…うるせぇよ……橋が爆破されたんだよ」 ギシギシと悲鳴を上げる列車の音を聞きながらはようやく把握することが出来た 爆破された橋。 このままだと列車は私たちを乗せたまま確実に落ちていくだろう 総悟が黙ったまま向けている視線の方向にが目を向けると、そこには近藤の手と兄の姿が見えた 近藤さんが兄を助けてくれた? しかし、列車は不規則に揺れながらゆっくりと傾きをやめることはない このままでは皆落ちてしまう 私はきっと非情な妹に違いない 「近藤さん、その手を離して下さい」 鴨太郎を見捨てるようにの口はそう叫んでいた ********** 鴨太郎は夢を見ていた 人は人生の終わりに自分の一生を走馬灯のように見ると言う 今の鴨太郎がまさにそれだったのである たった今まで土方と剣を交えていたはずだった それなのに何故か幼い頃の自分がそこに居たのだ 僕は頑張ったよ 勉学だって武術だって誰にも負けないように頑張ったんだ それなのにどうして誰も僕を認めてくれないの? 『あんな子生まれてこなければよかったのに…』 どうして?僕はここにいるよ? どうして僕を見てくれないの? 僕を褒めて… 僕を一人にしないで… 『も兄さんのようになりたい』 、お前はいつも僕の傍に居てくれたね お前だけが僕を認めてくれた お前だけが僕を一人にはしない そう思っていたのに… お前まで僕を一人にするんだね? アイツが憎い… 僕にないものを持っているアイツが憎い アイツの目に映るもの、アイツが大事にしているもの全てが憎い 僕の気持ちが分かるかい? …、お前は愛する大切な妹だけど、お前の目に映るものはアイツと同じだ だから、お前も憎い 憎い 憎い 憎い 我に返った時、鴨太郎は列車から投げ出されかろうじて衣服が引っ掛かり宙づり状態になっていた 僕はアイツに…土方に勝ったんじゃないのか? しかし、目の前で自分に向けて発砲される意味は僕が不要の者ということか? その時、落ちていく鴨太郎の中で高杉の声が脳みそを突き破ってくるように痛いほど響いてきた 『お前が求めているのは自分を認めてくれる理解者なんかじゃねぇ…お前が欲しいものは…』 やめてくれ 僕はこんなところで死ぬような男じゃない 僕はもっと出来る男なんだ 無様でもいい、僕を一人にしないでくれ 僕の隣に居てくれ … … … 僕の…この手を握ってくれ 救いを求める手を包み込む暖かい手 そうだ 僕はこの手をずっと待っていたんだ BACK TOP NEXT |