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あんたは真選組の魂だ


俺達はそれを護る剣なんだよ










絆 15










予想しなかった行動で土方は、言うだけ言って無線を切った
そして、唖然とする近藤に向けて言葉を投げかけた




「近藤氏、僕等は君に命を預ける…その代わりに君に課せられた義務がある」




どんなに恥辱にまみれようと、目の前でどれだけ隊士が死んでいこうが
何が何でも生き抜いて死なない事、それが近藤に課せられた義務なのだと土方は告げる

その言葉はトッシーの口調であったが土方の心の言葉だった




「君が居る限り真選組は終わらない 僕達はアンタに惚れて真選組に入ったからだ」

「何だよコイツ…元に戻ったんじゃねぇのかよ?紛らわしい奴だな」

「ちょっと銀さん、黙ってて下さい」

「はいはい」




銀時がわざと茶化すように言うと、土方は軽く舌打ちをし徐に煙草に火を点けた
久しぶりに吸う煙草の煙がゆらりと立ち込める中、そこに葛藤に打ち勝った土方の姿があった




「バカのくせに難しい事考えてんじゃねーよ テメェはテメェらしく生きてりゃいいんだ
 俺達は何者からもそいつを護るだけだ…」

「……」

「近藤さん、あんたは真選組の魂だ……俺達はそれを護る剣なんだよ」

「ト…トシ」

「けっ、やっと戻りやがったか」






長い夢を見てたような気がする
ずっとどこかでお前の声が聞こえていた気がするのに耳を塞いでいた

戦いたいのに戦えない、護りたいのに護れねぇ
そんな事がこんなにも苦しいとは思わなかったぜ


なぁ、もう遅いか?






「一度折れた剣に何が護れるというのだ?」




その時、直ぐ後ろまで鴨太郎と万斎が追ってきていた




「土方君、君とはどうあっても決着をつけねばならぬらしい」




“いずれ殺してやるよ”

真っ直ぐに見据えてくる鴨太郎に土方も応える気でいた
もっと早くに俺達は決着をつけるべきだったのだと互いに思っていた




「剣ならここにあるぜ よく斬れるヤツがよ」




そう言って土方は妖刀に手を掛け引き抜こうとするが、どこかでそれを拒む声がする
未だ見え隠れするトッシーの影がそれを拒むのか…

くそっ…




「どうしたのかね土方君?先に逝ったがあの世で君を待っているよ」

「くっ……くそ…抜けねぇ」

「何をモタモタしてやがる…偉そうなことを言ったんだ、さっさと抜きやがれ」

「ちっ、うるせぇ…黙りやがれ」






嫌だ、僕は戦いたくない
うるせぇ、俺は戦いたいんだ

怖い…死んじゃうかもしれない……僕は死にたくない
黙れ!俺には死んでも護りたいものがあるんだ



土方は何度も影と対峙し、自分に言い聞かせるように渾身の力を振り絞った




「俺はやる 俺は抜く 成せばなる」

「ったく、一生やってろ!は俺達が助けてやるさ」

「だ、だれが…テメェなんぞに……」




剣を必死で抜こうとする土方の頭の中に何度もトッシーが現れそうになり
「イカンイカン、お前は出てくるな!…集中だ集中!!ぐおーーーっ!!」と
己とトッシーの間で葛藤を続けた




真選組もも護るのは俺だ!




土方は素手で車のガラスを割ると後方に飛び出て鴨太郎を見下ろした
そしてこれから己が剣として戦う為、本当に大切なものを護る為に揺るぎない決意を表した


たが、土方にはもう一つ言わねばならない事があった

それは口が腐っても言いたくない相手であり、言葉でもあったが
これだけは言っておきたかった

それは銀時に対して最初で最後の言葉だったかもしれない


土方は銀時に背中を向けたまま礼を言う、『ありがとう』と。



呆気にとられながらも銀時はその言葉に苦笑する



「何だお前?トッシーなのか?」

「フン、俺は真選組副長 土方十四郎だ」




叫ぶその背中は土方の完全なる復活だった










土方は対峙してくる伊東を真っ直ぐに見据え、剣を構える
そして直ぐに聞こえてくる鋭い金属音が響き、土方と伊東の剣が交わり弾かれた


伊東の腕に付けられた斬り口から血が噴き出す


手応えは察したその瞬間車が列車に衝突しそうになり土方はバランスを崩した
このまま車が列車に突っ込んでしまえば大惨事どころの騒ぎではない

車には近藤と万事屋の面々が乗っている



土方は衝突を避けるために咄嗟に車と列車の間に入り身体を張った
そこへ心身ともに疲れ果てた総悟が姿を現した

総悟は「土方さん何してるんです?」と言わんばかりに溜息を吐く
そして、土方の身体をまるで橋にするように近藤達を列車に誘導した

が、最後の銀時が列車に移ろうとした時、万斎が銀時を襲った




「銀さん!!」




新八の悲痛な叫びが響く中、銀時の身体は宙に舞い地面に叩きつけられた
走る列車は無情にも銀時の姿をあっという間に見えなくしてしまった








「総悟…は?」

「…無事ですぜ」




総悟はの居場所を教えるように顎をしゃくって列車の奥を指示すと
そこには戦いに疲れ果てたが血まみれになって座り込んでいた

その姿にこの戦いがにとってどれだけ大きなものであるかを物語っていた








さん、大丈夫ですか?」




目の前に居るのが神楽と新八である事が分かるとは微かに笑みを浮かべたが
そこに銀時が居ない事に気付き悲痛な表情に変わっていった




「ぎ…銀さんは?」

「銀ちゃんは大丈夫アルよ」

「……本当に…?」

「ええ、銀さんならきっと大丈夫です」




気丈に振る舞う二人の態度には胸が痛み、その場で床に頭をつけ土下座して謝罪していた




「ごめんなさい」

「な、何をしてるんですか さん?」

「あなた達を巻き込みたくなかったのに…結局は巻き込んでしまった…
 ごめんなさい……ごめんなさい」




今更謝っても遅いのかもしれない
自己弁護の為に謝罪しているようにも思えたが、それでもは頭を下げる事しか出来なかった


しかし、のその姿を見ながら新八は笑みを浮かべながら首を横に振った
「僕たちは巻き込まれたわけではありませんよ 勝手にやっている事ですから」と。
隣で神楽も「新八もたまにはいい事を言うアル」と大きく頷く






頭で考えるのではなく無意識で身体が反応する
それが大切なものを守る為の術なのだと言った銀時の言葉が胸に染みた


真選組のみならず自分の周りの全ての大切なものを守りたいと
は心の中で何度も『ありがとう』の言葉を繰り返しながらもう一度頭を下げるのだった















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