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例え今だけでもいい この瞬間、私は真選組として戦います。 絆 14 「土方が作った局中法度など最早意味などなさん 君達の真選組は消えるのだ!」 「消えません!消えるのは兄さんの方です」 「フン、こいつらを粛清しろ 僕は近藤を追う」 鴨太郎は列車の扉を開くと、並行して走っている万斎のバイクの後ろに飛び乗った 「兄さんっ!!」 「っ!目を逸らすな」 「は、はい」 「やれるんだろうな?」 「勿論」 「んじゃ、いくぜぇ」 「はいっ!!」 総悟は納得したように笑みを浮かべると、隊長としての言葉を口にした それは敵と内通した隊士達にだけではなくにも伝える言葉だったかもしれない そして、それは戦いの始まりの合図となった ―― 圧倒的に力の差がある敵を前にした時、その実力差を覆すには数に頼るのが一番だ 呼吸を合わせろ 心体ともに気を練り最も充実した瞬間、同時に一斉に斬りかかれ そして… 「死んじまいなァ」 総悟は唇を舐めると、なんの躊躇いもなく切り捨てた すると、総悟では分が悪いと思ったのか敵の剣はに向けられる しかし、もまた何の躊躇いもなく敵を切り捨てた その殺法は決して力強いものでなく、殺気を帯びた剣ではなかった 緩やかに小さな弧を描くような、まるで真夜中にぽっかり浮かぶ月のようだった 「女だと思って甘く見ないで」 迷いのない太刀筋から流れる血飛沫が鮮やかに飛び散っていく 背中合わせになった総悟とが呼吸を合わせると一瞬にして敵が倒れていった 「お前…どこでそんな殺法を覚えたんだ?」 「多分……たった今」 「いいねぇ…んじゃ次いくぞ」 「うん」 総悟がいつもと違う剣を振るっていた事をは気付いていた おそらくそれは、総悟が自分を護りながら戦っているから… だけど総悟との実力差があるにとって、総悟を護りながら戦う事は到底無理な事だ なら、せめて自分を護る剣を振るう事しか出来なかったのだ 『己を護る剣に迷いはない』 偶然にも知る事になった『己を護る剣』は 皮肉にもそれは兄、鴨太郎に習った剣だった しかし、それなりの腕はあっても一網打尽にするほど容易な戦いではなかった 敵である隊士たちだって元は真選組なのである、弱くはない そう簡単には討ち取らせてくれる筈もなかった まして、には女というハンデがある 技量があっても時間がかかれば力差や体力差も出てくる それでも護る剣を振り続けなければならなかった 「総悟くん…いったいいつになったら終わるの?」 「さあな…どちらかが死ぬまでだろうなぁ」 「私は……死なないから」 「当たり前だ」 その後、総悟と話す事もなくなりただ無心に剣を振り続けた 「ちっ、元に戻ったんじゃねぇのかよっ!!」 「無理っ、僕には無理だよ 怖い!!」 一方、土方の心が戻らないまま銀時達の乗った車は列車へ向かって走っていた だが、列車に近づけないよう攘夷志士達の邪魔が入る その間、車内では新八が土方を元に戻そうといろいろ試してはみたがそれも無駄だった しかし、銀時が無線で知らせた甲斐もあり真選組の隊士達が駆けつけ、いつの間にか加勢していた 「副長―っ、無事だったんですね」 「テメェの名でこんだけ集まったんだ、あとはテメェで何とかしろ」と銀時は土方を蹴飛ばすが、 彼は相変わらず縮こまってガタガタと震えているだけだった そんな土方の状態も知らず隊士たちは、 自分達がこの場を押さえるから近藤を救い出せと言い放ち敵に突っ込んで行く この状況じゃ無理だろっ!!お前達の副長は今ヘタレなんですけどっっ!! 悲痛なまでの銀時の叫びが隊士たちに届く事はなく、車は強制的に追いやられていった 列車を追い掛け、線路を走る車の中でトッシー化した土方は何を思っていたのだろうか… 「なんで…お前がここに…」 総悟との安否を思う近藤の目に突っ込んで来る一台の車が見えた 立場上とはいえ、土方にとった仕打ちに対して近藤には信じられない光景だった 土方が目の前にいることが哀しくもあり嬉しくもある事だったからだ しかし直ぐに銀時がバズーカを列車に向けてぶっ放した そして、穴の開いた列車から近藤の姿が見え彼の安否が確かめられた 「何でお前達がここに?…お前らまさかトシをここまで…」 「冗談じゃねぇぞ、なんで俺がゴリラの為に…」 「は…はは……そうだよな」 「遺言なんだよ…コイツのな」 「ゆ、遺言…?」 車の中で依然視線を宙に泳がせ恐怖を抱いている土方を近藤の目に曝した その様子は近藤の目の疑うところだったが、銀時の言葉に真実を知った 「コイツ…妖刀に魂を喰われちまった 今のコイツはただのヘタレたオタクだ もう戻って来る事もあるめぇ」 妖刀だと?魂を喰われちまったというのか? まさかと思いつつも近藤には思い当たる節があった ここ最近の土方の不可解な行動 あれら全てが妖刀の所為だというならば辻褄は合う 信じ難いと思っても目の前の土方を見れば納得できるというものだ こんな状況時に土方なら何よりも早く己が剣になりて突っ込んで来る筈、 が、今の土方はただ震えているだけだ そんな状態でトシは… どんな遺言をコイツラに託したというのか… 「万事屋…そんな状態で……トシがお前らに何を頼んだのだ?」 「護ってくれって…真選組を護ってくれってよ ま、俺は面倒だからテメェでやれってここまで連れてきたわけだけど…」 解っていた筈だ 解っていた筈なのに解らなかったのかもしれない 魂を喰われちまっても、プライドの高いお前が護ってくれと頭まで下げて頼んだ真選組を 俺は自分の手で壊そうとしていたんだな 今更謝っても遅いかもしれんが…すまなかったな 「近藤さんよ、浸ってるとこ悪いんだけど…俺の仕事はここまでだ ギャラはテメェに振り込んでもらうぜ」 「……あぁ、振り込むさ 俺の貯金全部な……だが、俺もお前達に依頼がある これも遺言だと思ってくれていい……」 こんな事態を引き起こしてしまったのは全て俺の責任、戦いを拒む今のトシを巻き込みたくない 近藤は土方を連れて逃げるようにと銀時に頼んだ そして、もうこれ以上仲間同士で殺り合うのは沢山だ 近藤は戦死した、今すぐ戦線を離脱しろと全車輌に告げるよう付け加えた 「ったく、アンタが戦死しようがどうしようが関係ねぇ…だが、近藤さんよ… は……はそこにいるのか?」 「…いや……ちゃんも総悟も…前の車両だ」 「何だって!!」 新八が声を上げたと同時に土方の手がピクリと動いた 土方は自分の手の震えを止めるように力強く拳を握り締めると無線機を手に取った 「あー、我らが局長近藤勲は無事救出した 勝機は我等の手にあり 局長の顔に泥を塗り受けた恩を仇で返す不逞の輩、今こそ彼等を月に代わってお仕置きするのだ!」 「オイ、気の抜けた演説をしているヤツは誰だ!?」 「誰だと?……真選組副長 土方十四郎ナリ!!」 それは誰もが予想し得なかった土方の行動だった 土方とトッシーの狭間でどれほどの葛藤があったのかは彼自身しか解らない事だ だが、土方は確実に戻り始めていた 悪かったな 、お前の話をちゃんと聞いてやれなくてよ ―― 今 行くぜ BACK TOP NEXT |