素材:clef様
… 誰よりも幸せになってくれ 俺は 俺はずっとお前の幸せを祈っている 大人には大人の事情ってぇもんがある 3 「ただいま〜」 銀時は何事もなかったように明るさを装って帰って来た 新八は多少複雑な思いではあったが、言うべき事は言わなければと 銀時の前に立ちはだかった 「ただいまって…、銀さん一体何処へ行ってたんですか?」 「なーに新八、恐い顔しちゃって…どこって言われてもねぇ… 大人の遊び場ってやつ?子供には分かんないだろうけどね」 「えーぇ、分かりませんね…さんの前で自分を誤魔化して逃げ出して… それが大人だって言うんですかっ!?」 「…新八」 「な、なんですか…急に真面目になっちゃって」 「大人にはなぁ…大人には事情ってぇもんがあんのよ」 「銀さん…」 銀さんのその瞳を見た時、僕は何も言えなかった 少し茶化すように話すいつもの銀さんだけど、言葉の重みがいつもと違っていた 大人の事情… 確かに僕はまだ大人とは言えない 銀さんがどれだけの過去を背負っているかなんて知っている訳でもない だけど、そこに大人の事情っていうものが絡んでいたとしても さんには本当の事を言って欲しいと願うのは 僕がまだ子供だからなのだろうか… 「新八…は帰ったのか?」 部屋に僕しかいないのに気付いた銀さんは 「まさか隠れてるんじゃないだろーな」と疑いながら部屋中を見回す 銀さんじゃあるまいし何で隠れなきゃいけないのかと 新八の方が逆に疑いの目を向けた 「あ…いいえ、今神楽ちゃんが姉上の所に連れて行ってくれてます」 「ふぅん…そんじゃ行きますか」 「え!?…そ、それじゃ銀さん…」 銀時の言葉に我が耳を疑った新八だったが、ようやく決心してくれたのだと思った それなのに… 「ん?新八くん、何か誤解してるでしょ?その顔はしちゃってるねオイ」だなんて 少しは大人になって欲しいと新八はガックリと肩を落とすのだった 「誤解?…さんに真実を伝えに行くんでしょ?」 「真実って何?ねぇ真実って!俺はもともと真実の塊でしょーがっ」 「そんな事言って…姉上の所に行くんでしょ?」 「はいはい行きますよ、行かないとマズイでしょーが」 「そうですよ、やっぱり銀さんはさんと向き合う決心をしたんですね」 「何言ってるの、何言っちゃってるのかなぁ新八くん。 俺がマズイって言ってるのはね、このまま放っておくとは必ず君の姉上の作った卵焼きを 食べる事になるでしょーが…うん、絶対食べさせられるね そうするとどうなると思う?え、思っちゃう?、死ぬよ…確実に死んじゃうでしょ… いや、もう死んでるかも…」 何?長々とセリフを言ったかと思ったら、問題はそこかよっ! 元来、ボケ担当の銀時にツッコミを入れるのが新八の役目だが 怒りを露わに拳に表した新八は声を荒げた 「銀さん、いくらなんでもそこまで姉上を侮辱しないで下さいよ」 「ほう…それじゃ新八くんはあの地獄に落とされるような 悪魔の卵焼きを食えると言うんだね?地獄だよ、悪魔だよ」 「銀さん、急ぎましょう」 しかし、よく考えると銀さんの逸れた心配はもっともなことで、 決して的外れではなかったから、銀さんに従うしかない自分が悲しかった 銀時と新八は表に止めてある原チャリに飛び乗ると、 新八の姉お妙の家に向かうのだった その頃、神楽はを連れてお妙の元を訪れていた 新八の姉で、神楽も姐御と慕っているお妙は二人を笑顔で迎える 「あら、神楽ちゃんいらっしゃい」 「姐御、ご飯を食べさせてもらいにきたアルよ」 「まぁ、そう簡単にタダメシは食わせられっかよ」 優しくにこやかに答えるが、言葉はキツイ さすがは真選組の近藤が惚れるだけの女である 「ところで神楽ちゃん…こちらの方は?」 「この人はさんアル、姐御に預かって欲しいアルね さん、これは新八の姉ちゃんアル」 「初めまして、と申します」 「…?って確か……財閥の…」 お妙がそこまで言うと神楽がすかさず「お嬢様アルね」と言葉を添えた すると、お妙の瞳が『でかした新ちゃん』とばかりにキラリと光る 家といえば財閥、財閥といえば金持ち その娘のを預かる=礼金が貰える=道場が建て直せる ち〜ん! と、瞬時にお妙の脳内の算盤が弾かれていく 到底大人とは思えない「とらぬ狸の皮算用」である 「ちゃん、私は志村新八の姉で妙と言います。お妙ちゃんって呼んでね うふっ」 「は、はい」 お妙の計算された思惑は目の見えないには分からなかったが 親身になってくれた新八の姉ということで悪い人ではないとは思っていた 「姐御…少しブリってるアルよ…ウンコたれたアルか?」 「誰がウンコたれただとーーっ!!だわ」 言葉は悪いが、相変わらず笑顔は絶やさない が、少しこめかみが痙攣しているのを神楽は見逃さなかった 目の見えない遥にとっては幸いだったかもしれない しかし、「まぁ、お妙さんも定春八さんと同じでウンコたれなんですね」と、 の天然っぷりな突っ込みに「誰がウンコたれじゃーーーっっ!!なの?」と さすがのお妙もキレかかった だが、の天然っぷりは更に続く 「かぶき町はウンコたれが多い町なんですね…ふふっ」 「だ・か・らっ!!ウンコから離れろやコラァ」 ウンコたれを連発され自分を見失いそうになったお妙だったが 目の前にちらつくMoneyに自分を取り戻すのだった 「うふふ、はしたなくてごめんなさい」と、お妙は手を口に当てて上品そうに笑う あまりにもお妙らしからぬ仕種に神楽はよからぬ予感を感じる 「なんか姐御が変…アル」 勘のいい神楽に思惑を悟られないように「それよりお腹は空いてない?」と お妙は話題を変えていく 食べ物を与えておけば神楽の意識はそちらへいくことは承知していたから… 「え!?姐御、ご馳走してくれるアルか?」 とりあえず神楽の言葉を無視して、にお腹は空いていないかと尋ねた 当たり前の事だがは「いえ、私は…」と遠慮がちに答える すると、神楽は「姐御〜、ご馳走してくれるなら寿司がいいアル」と 無視された腹いせに行儀悪くお膳を叩き始めた それでも無視していると「すき焼きでもいいアルよ〜」だとか 「天麩羅で我慢してもいいアル〜」と増徴していく 次第にお妙の顔がヒクヒクと引きつっていき、 「いいかげんにしねぇとウンコ食わすぞっ」と本音が飛び出してしまった しかし、神楽はそんな事にはまったく動じず、 「ウンコは食えないけどウンコ臭いのなら食えるアル」と言う始末。 もこれにはさすがに少し引いてしまい微かに苦笑していた そんなの様子を見たお妙は「こう見えても私は料理が得意なの」と、 すかさず自分をフォローするのだった 「遠慮しないでね」とにっこり笑うお妙には力なく返事をした ぎくり 何事にも動じる事のない神楽だが、お妙の『料理が得意』発言には石化した 姐御が…料理が…得意? 人間では食べられないあの料理が得意という分野に入るなどとは… アレを食ったら確実に死を迎えることになる だが、神楽はそれをに告げる事はできなかった 『さん、アンタの骨はあたいが拾ってあげるアル』 神楽は心の中でそう呟くのだった お妙が料理を作るために席を外している間中、 いつ逃げるか、どうやって逃げるか、神楽はそれだけを考えていた しかし、恐怖の時間はやって来てしまったのだ どれくらいの時間が経ったのか、すーっと静かに襖が開き お妙がしずしずと入ってきた 綺麗な器(器だけは綺麗アル)に、 ちょこんと盛られた真っ黒なアメーバのような物体 脂汗が流れ、体が硬直する 「卵焼きよ」 出たーーっ!!出ちゃったアル どう見ても謎の物体、卵焼きになんてどう転がっても見えない 神楽はこの時ばかりは目の見えないが心底羨ましいと思った 「てへっ、見た目は悪いけど味は保障するから、ご賞味あれ」 てへって… そんな事マジで言える女に碌な女はいねぇって姐御言ってなかったっけ? っていうか、見た目悪すぎっ!食欲失くすアル 味を保障するって…どう保障するアルか? あたし…お金がないから保険にも入っていないアルよ…くすん こうなったらわざとお膳をひっくり返すか、仮病を使うか? 銀時や新八がいない今、神楽はを守らなければならない 途方に暮れ頭を抱えていると、そんな事は何も分からないは お妙に「遠慮なく召し上がれ」と促され箸を手にした 「いただきます」 ぎゃー!!! 絶体絶命の大ピンチ 銀ちゃ〜〜〜ん、新八〜〜〜!! 神楽は心の中で叫ぶのだった BACK TOP NEXT
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