素材:Abundant Shine









ファミリーのボスになる事が条件で何とか下界に降りる許可をもらった



「せいぜい俺を楽しませることだな」



そんなジャンの言葉は今のにはどうでもいいことだった
ただ、3年ぶりに吸う下界の空気に満喫していた










#002:住処










「う〜ん、やっぱりシャバの空気はうまいぜ」




は腕を伸ばして久々に感じる現世の空気を思いっきり吸い込んだ




さん、せっかく下界の空気を満喫しているところ悪いのですが…
私達の家はどうしますか?」




おー、言われてみれば現世に戻ってきたのはいいけど住処がなくちゃ意味がないわよね
さすがメディシス、私の右腕だけのことはあるわね

でも右腕なら先に住処を探してくれてもよさそうなもんだけど…




「何かアテはないの?」

「そうですねぇ……まぁ探してはみますが…」

「わぁ、さすが右腕だけあるわね メディシスに任せた」




が期待を込めてメディシスの手を掴み握手をすると、彼は何故か白目をむいた




「…がくっ」

「えーっ、ちょっとがくって何?……って、倒れてるしっ」

「そう言えば…言うのを忘れていたがメディシスは女に触ると気絶をするのだ」

「そ、そうなの!?……ちっ、使えねぇ」

「やーねぇ、ちゃん…闇の言葉が出てるわよ」

「お黙りっ!」

「まぁコワイ」




グロリアの説明によると、メディシスはある事情から女性に触れると気絶をするようになったらしい
彼は「病気みたいなものだからは気にするな」とか言ってたけど
別に全然気にしてないし…

それより右腕がダメなら左腕に賭けるしかないわ




「ね、グロリア…アンタはどうなの?何かアテはある?」

「今のところは何もないが…」

「お前もかよ……ったく、どいつもこいつも使えねぇな
これじゃ野宿するしかないんじゃないの?」

「僕…野宿……イヤ……背中が痛くなるし…」

「そうよね、背中が痛くなるわよね?でもレオは確か私の背中じゃなかったっけ?
きっとアンタがいれば野宿しても私の背中は痛くならないけどね」

って…鬼?」

「やっだ〜レオってば…私は死神よ、うふっ」

「…そうだったね」




レオナルドはがっくりと肩を落とし、その場にしゃがみ込むと
「お腹が空いた」と繰り返し呟き始めた


そう言われれば私もお腹が空いたわ
だけど、リストランテに入るにもお金はないし…

やっぱりここは一つ…




「マフィアらしく金でも盗んで来くるか?」

「おいおい、マフィアは強盗じゃねぇ…マフィアを何だと思ってるんだ?」

「知らない…そんなこと言うならヴィシャスが何とかしてよ、右足でしょ?」

「あ?バカかお前は…」

「アンタだけには言われたくないわよ…ところで左足はどこに行ったのよ」

「あ?ルチか?そう言えばいねぇな…また女のケツでも追っかけてんじゃねぇの?」

「けっ、なんつー左足だ」




あーぁ、これからどーすっかな?

寝るとこもないし、飯も食えない
しかもコイツら何の役にも立たないし…



思わず溜息を吐いていると、ニコラスがルチアーノの情報を伝えに来た




「ルチアーノなんだけどさ…どうやらマダムを騙しに行ったらしいぜ」

「マダムを騙しに…?」

「あぁ…飯と金は何とかするって言ってたけどな」

「まさか…アイツ……自分だけいい思いをしようとしてるんじゃないでしょーね!?」

「さ、さあ?」

「でも……それいい案かもしれない」




せっかくこれだけのメンズが揃ってるんだから、金持ちのマダムを騙してくれば
何とかなるんじゃない?

うんうん、いいかも〜♪


俄然マフィアっぽいじゃない!?






「やれやれ」

「げっ」




せっかくの妙案を考えていたらいきなり目の前にジャンが現れた




「いきなりの登場やめてくんない?心臓が止まるじゃない」

「もともと死んでるだろうが」

「そうだけどさ……っていうかジャンって案外お茶目な事言うね、あははは」

「消滅するか?」

「もう冗談だってば…それくらい通じなさいよね」

「悪いな、俺は人間ではないからな そんなくだらない冗談は通じんな」

「あ…いや…そんなにまともに答えなくても…」

「それより…お前達いつまでここにいるつもりだ?」

「知らないわよ、私だってこんなとこに居たくはないけど住処が見つからないんだもん」

「ほう」




何を感心してるんだ?
わざわざ目の前に出てくるなら、それくらい教えろっつーの!




「無理だな」

「え?……あ、そうか…ジャンには私の考えてる事が読めちゃうのよね」

「俺を楽しませてくれるんじゃなかったのか?」

「分かってるわよ……だけど…」

「なんだ?言いたい事があるならハッキリ言ったらどうだ?」

「あのさぁ…楽しませてあげるから家くらい提供してくれない?」




これでもね、自慢じゃないけど生きていた頃は結構モテてたのよ
いい寄って来る男どもを千切っては投げ、千切っては投げ…とまではいかないけど
それなりだったし、男に困る事はなかったのに…

やや抵抗はあったけど、ジャンに寄り添いながら甘えた声まで出して頼んだのにさ




「何をやってるんだ?色仕掛けのつもりか?言っただろう?お前ではそそられん…とな」

「フン、ジャンは人間じゃないから私の色気が通じないのよ」

「勘違いするなよ、お前ではと言ったのだ」

「えー!?ジャンってニコールがタイプだったんだ?」

「何でそうなる?」

「何よ、照れなくてもいいじゃない」

「…貴様、やっぱり消滅するか?」

「悪かったってば…まったく冗談くらい通じるくらいになりなさいよね」




なんかさぁ、ジャンを楽しませるって言ったけど
むしろ私の方が楽しいんだけど…

なんて、考えていたらルチアーノが戻ってきた




「あ、ルチ…おかえり〜!飯は?金は?」

「ん?食事はしてきたけどねお金は無理だったよ、ごめんね」

「は?食事はしてきただと?……ごめんじゃねぇぞコラ」




はいきなりルチアーノのベルトに仕込んであるワイヤーを引き抜くと
それで彼の首にグルグルと巻き出した




「ぐぐっ…ぐるじぃ……」

「苦しいじゃねぇ……吐け!早く吐き出せ!!テメェだけ美味いもんを食いやがって!!」

「ゲホッゲホッ……し、死ぬ…」

「死ねるもんなら死んでみやがれ!!」




やれやれ、人間の世界では食い物の恨みは恐ろしいと言っていたがここまで凄まじいとはな。
特には実に奇怪な人間だ

面白いと言えば面白いのだが…


―― ま、もう少し様子を見てみるか





「おい、いつまでそうしているつもりだ?じきに陽が沈むぞ」

「うるさいな、今それどころじゃないの ルチを殺さなくちゃ」

「ヤツは俺にしか殺せんぞ」

「じゃあ殺してよ」

「ちょ、ちょっとそれはないんじゃないちゃん?」

「いや、ルチの行為は死刑に値するんじゃねぇ?」

「うん…僕……許さない」

「まったく、呆れたもんだな……だいたいお前達には住むところがあるんじゃないか?」

「ないから困ってるんでしょ?」

「やれやれ……お前達はいったい何なんだ?
サルヴァトーレ・ファミリーを再結成するんじゃなかったのか?」

「そうだけど…」

「だったらダレンの屋敷に行けばいいのではないか?」




その時「あ!」とばかりに気絶していたメディシスが起き上がって手をパチンと叩いた




「そうでしたね…さんすみません、すっかり忘れてました」




はぁぁ…
すっかり脱力だよ

それにしても、ジャンもいいとこあるじゃない?


だけどさ、最初から分かってるならさっさと教えてくれればいいのに…




「本当にもうジャンってお茶目さん♪」

「……貴様、やっぱり…」

「冗談だってば…ふふふ、ありがとうジャン」






かくして私達は、元サルヴァトーレ・ファミリーの本拠地を住処にする事にした















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