素材 Abundant Shine








前にも話したと思いますが、わたくしは負けず嫌いです。
政宗と小十郎の顔を見ていたら向かっ腹が立ってきました



くっそ〜、やってやろうじゃねぇか
要は竹刀を落さなければいいってことよね?




よっしゃ〜、どんとこいや!!










婆娑羅6 〜やってやろうじゃない〜










気持ちだけは“女剣士”ばりに格好を付けてみる。
竹刀をぎゅっと握るとは凛々しく構えてみせた


しかし所詮は付け焼刃である。小十郎が竹刀の先を叩くと竹刀はの手から簡単に落ちてしまった




「そんなものか?」






うぎーっ!!超ムカつく!!


は真っ直ぐに小十郎を睨みつけ再び構えるが、
結果は変わることなく何度も竹刀を振り落とされるだけだった




「ただ力づくに竹刀を握っているだけでは何度やっても結果は同じだ」

「じゃあ、どうすればいいのよ」

「自分で考えるんだな」




うわぁ、その言い方 政宗そっくりだよ
…っていうか政宗が小十郎に似てるのかな?

なんて言ってる場合じゃない



小十郎って優しい人だって思っていただけに愛しさ余って憎さ百倍だーーっ!!
こうなりゃ意地でも竹刀を落すもんか!!


しかしの果敢な挑戦も、この世界で生きている彼らには敵う訳がなく結果が変わる事はなかった








痛い 痛い 痛いよ〜〜



何度も竹刀を振り落とされているうちには掌に痛みを感じ自ら竹刀を落した
痛みの走るその手は力強く握っていた所為か皮膚は固く破れ、血が滲んでいた


手に肉刺をこさえたのなんて小さい頃鉄棒でやった逆上がりの練習以来だよ
そんな事を考えながらはその手を握り締めた



理由や結果はどうであれは楽しいといつの間にかそう思っていた
こんなにムキになって一生懸命頑張るなんて久しくなかったから。








「ここまでだ」

「え〜、なんで?私…まだできるよ」

「無理をしても上達はしない」

「ちぇ〜、せっかく楽しくなってきたのになぁ」

「ほう…」






あぅ、すみません。そんなに目を…いや、眉を吊り上げないで下さい。


楽しくなってきたというのは語弊があるかかもしれませんが…
こんなに我武者羅に頑張る自分が愛しいというか何と言うか、そう思っただけなんですぅ〜。

弱々しく笑いながら数歩後退りすると、いきなり笑い声が聞こえてきては拍子抜けしてしまった



何で笑われているのでしょうか?



笑い声に呆気にとられていると、小十郎に頭を軽く叩かれた




「おもしれぇ女だ」




私、面白いですか? 本人は至って大真面目なんですけど。
確かに家族や友人達からは、よく『面白いヤツ』とか『変わったヤツ』と言われますがねぇ

まさか戦国時代にまで来て同じことを言われるとは…トホホ



完全に士気を削がれたはその場に座り込むと、小十郎はフッと息を吐くような笑いを見せ
の使っていた竹刀を拾い上げ、休めと言葉を残し部屋へ戻って行った






あーぁ、馬が乗れるようになったと思ったら次は剣なんて…
自分の世界にいつ帰れるか分からないし、この時代で生きるなら必要不可欠なのは分かる


だけど、剣を覚える前に死んじゃったらどうすんの?



うぅっ、いかん いかん
こんなネガティブな考え方は私らしくない!



小十郎の背中を見送りながらは首を横に大きく振りながら自分の頬を叩いた






「何してんだお前は。あ?」




完全に政宗の存在を忘れていた私は不意に声を掛けられ慌てた
小十郎と私の稽古をずっと見ていた政宗がまた皮肉の一つでも言うのかと思ったからだ






「こっちに来い」




うわわ…やっぱり皮肉を言うつもりね?
まったく見た目に比例せず何て小さい男なのかしら?


そんな事を思いながら政宗に目を向けると指先でちょちょいと手招きしている
やれやれとばかりに溜息を吐きながら「なに?」と政宗の隣に腰を下ろした




「手を見せてみろ」

「やだ」

「何だと?」




見せる訳ないじゃん、肉刺がつぶれちゃって汚くなった掌なんて…
それに絶対、嫌味を言うに決まっているもん


が躊躇っていると、小十郎が小さな箱を持ってやって来て政宗の傍らに座った




「政宗様、これを…」




政宗は頷くと片手での手を掴んだまま、もう片方の手で箱のふたを開けた
そして、器用な手つきでの掌に薬を塗ると包帯のように白い布を巻いた




えーと…、これって手当をしてくれてる?
その箱はいわゆる救急箱ってこと?


そう言えば、政宗に手当をしてもらうのって二度目なんだよね
なんかさぁ、こういうさり気ない優しさってやべぇよ、ヤバすぎます。

思わず顔がニヤけそうです。



こんな顔を見られたら今度こそ『気持ち悪い』とか悪態吐かれそうで
は俯きながら小さな声で礼を言うのだった


すると、息を吐くような音が聞こえはきっと呆れられて溜息でも吐かれたのだろうと
そっと顔を上げると、二人の口元は笑っているように見えた




、痛みはないか?」

「…大丈夫」




いや、あまり大丈夫ではないが小十郎に心配されると心にない事を言ってしまう自分がいる

しかし、小十郎の言葉に心が癒されたのも束の間、当たり前のように政宗の嫌味が飛ぶ。




「フン、ただ力任せに竹刀を握っているからだ…バカが…」




この男はっっ!!

いちいちムカつく。



だけど、今の私には返す言葉もない。
出来る事といったら睨みつける事くらいだ


だけど政宗は私の視線を無視するかのように黙って手当を続けた
それが尚、腹ただしく思える




…」

「え?なに?」

「まずは肩の力を抜け…それから力を入れるのは一瞬だけだ」




多分それは私にアドバイスをしてくれているのだろうけど…意味が分からん。
そこで意味を訊ねると政宗はフンと視線を逸らした




「その少ない脳みそで考えるんだな」




政宗はそう言うと手当を終えたの手を軽く叩いた




こんちくしょう!
何でアンタはそう一言が多いんだ?まったくイケメンの風上にもおけん!


せっかく見直しかけたのにさ




がプイッと顔を背け、痛めているその手を強く握りしめると突然小十郎が声を出して笑い出した




え?そこ笑うところですか?




、お前を見ていると幼い頃の政宗様を思い出す」




ふと洩らすように小十郎が語り出すと、政宗の顔が一瞬歪んだような気がした


政宗は軽く舌打ちをすると小十郎に「余計な事を言うんじゃねぇ」と念を押してそこから去って行った
それはまるで逃げるようにには見えた




なんかちょっと気になるんですけど…


もしかしたら政宗の弱点をゲットできるかもと
は興味本位で小十郎に訊ねると彼は遠い過去を懐かしむ様に目を閉じた








政宗は今のよりまだずっと小さく幼かった
強くなりたいという気持ちだけでただ夢中で刀を振りまわしていた


稽古に耐えられなくなって逃げ出したり泣いた事もあると言う




「政宗様はお前の中に昔の自分を見られているのかもしれないな」






え?そうなの?

じゃあ、政宗は私の気持ちが分かるってこと?

それならさぁ、もう少し優しくしてよ。政宗の優しさって分かりにくいよ





だけど…



誰も好き好んで戦のある時代に生まれてくるわけじゃないよね?








―― 時代に選ばれた政宗








戦国の世に生まれた政宗の辛さをは少しだけ理解できた気がした















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