素材 Abundant Shine 様
「筆頭、あの姫さんどこからかどわかして来たんですかい?」 「あ?アイツは頭が少し弱いみてぇだから面倒見てやっているだけだ」 おいっ、聞こえてるんだよ アンタ…イケメンじゃなかったらボコボコにしてやるところだよ 寛大な様に感謝しな!! 婆娑羅3 〜伊達政宗って何様?〜 政宗の屋敷に連れて来られ、上げ膳据え膳の優雅な生活を続け1週間ほど経ち 足の腫れもひいてきてようやく歩けるようになった それにしてもでかくて広い家だ 25年ローンでマイホームを建てた父には悪いけど、我が家が犬小屋に見える 縁側で広い庭先をぼんやりと眺めながらは考えていた いつだったか忘れたけど以前に兄貴と観たDVD。それは自衛隊が戦国時代にトリップする話だった その時は「こんな事有り得ねーよ」と笑っていたけど、突然目の前に突き付けられた槍、刀、 鉄砲、血の匂い。そして教科書でしか見た事のなかった足軽たちに伊達政宗の存在。 これって、どう考えても私は戦国時代にトリップしてきたとしか考えられない もし、そうだとしたらどうやって帰るんだ? いろいろ考えても突きつけられる事実は“帰れない”ということだけ…か。 それならクヨクヨ悩んでいても仕方がない。とりあえず、ここで生きるしかないじゃん そんな事を考えていたら、朝から稽古でもしていたのか政宗が道着姿でひょっこりと顔を出し 庭先から「起きてたのか?」と声を掛けてきた の隣に腰掛け、小十郎の持ってきたお茶を啜りながら手拭いで汗を拭う姿は平穏で とても戦のある戦国の世だとは思えないほどだった 「足の具合はどうだ?」 「もう大丈夫」 「そうか…なら、働けるな」 「は?」 「お前、まさかタダでここに居候する気か?」 伊達政宗って歴史の本でしか知らないけど、実際会ってみると何て嫌味な野郎なんだと思った 現代でも通用するようなイケメンで、思いっきり好みのタイプなのに優しさがたんねーじゃん。 だいたい私だってねぇ、もしかしたら殺されてたかもしれない所を助けてもらったんだし アンタ達を命の恩人だとも思ってる。お礼だって恩返しだってしなくちゃって思ったわよ。 それなのに、「タダで居候する気か」だなんて、何様だよお前… は軽く舌打ちをすると「働きますよ」と政宗を横目で睨みながら言った すると、の素っ気ない物言いが気に入らなかったのか政宗は「当たり前だ」と茶を啜った コイツ…やっぱり殴ってやろうか?とが膝の上で拳を強く握りしめると その行動に気付いたのか小十郎が「無理はしなくていい」と言葉を添えた その言葉に感動したは「でも…」と、一応自分を取り繕ってみる 「気にするな、完治してからで構わない」 うっわぁ〜、小十郎って優しい!これぞ『漢』ってなもんだよねぇ おい、聞いたか?伊達政宗、男ならこれくらいの優しさを見せろっちゅうのよ! こんな事言われたら、例え足が痛くたって『大丈夫!』って言っちゃうもんなんだからね その通り、は小十郎の言葉に「大丈夫です」と笑顔で答えた すると政宗がフンと鼻で笑ったかと思うと「だったらついて来い」と顎をしゃくった ったく、どこまで偉そうなんだ?お前は… まぁ、伊達政宗は仙台藩の藩主であり、いわばここでは殿様だ。 偉そうにしてても仕方がない、というか当たり前なのである。しかしにはそんな事関係なかった 現代のにとって伊達政宗は殿様ではなく、ただの伊達政宗だったのである。 だいぶ良くなったとはいえ、まだ完治していない足を軽く引き摺りながら政宗の後をついて行くと そこはあまり大きくはない厩舎で、そこには黒鹿毛の3頭の馬が並んでいた もともと動物が好きなは馬の愛らしさに目を奪われ、政宗への怒りも忘れ駆け寄って行った こんな近くで見たのは初めてと、は一頭ずつ馬の鼻先を撫でてやる そして、「よしよし」と声を掛けながら撫でているとある事に気付いた 「あれ?この馬…」と、真ん中に居る馬を見るとはすぐさま言った 「この馬、アンタが無茶させた馬だよね?」と政宗をキッと睨むと 同情するように馬に「可哀想に…足は痛くなかった?」と撫でながら声を掛けた すると、政宗はフッと笑い「そいつをお前にやる」と信じられない言葉を口にした いきなり馬をやると言われてもどうせいちゅうんじゃ? が疑問符を頭に浮かべていると、こっちの状況などお構いなしで政宗は話を進める 「この馬をお前にやるから面倒を見るんだな」 「いや…いらないし。それに馬の世話なんかした事ないから無理。」 「当分の間それがお前の仕事だ」 ちょっと人の話を聞けよ、無理だって言ってんだろーが! そりゃあ居候の身で文句は言えない事ぐらい承知してるけど、いきなり言われても… が食って掛かろうとすると、政宗が歩み寄って来て真剣な眼差しを向けてきた あまりにも迫力のある視線には身動きが出来なくなった 「いつ戦になるかわからねぇ。死にたくなかったら馬くらい乗れるようにしとくんだな」 厳しい口調でそう言うと政宗は背中を向け、を残して立ち去ろうとしていた ―― そうだった ここは戦国の世なんだ、政宗の言う通りいつ戦があってもおかしくない。 というより、毎日が戦なんだ。ここはあまりにも穏やかでそんな事も忘れていた は立ち去ろうとする政宗の背中を呼び止めた 「何だ?」 「この馬の名前を教えてよ」 「…太刀風だ」 「わかった……ちゃんと面倒みるから」 「フン、当たり前だ」 政宗はフッと笑うと、そのまま背中を向けて行ってしまった やっぱり憎たらしいヤツだと思ったが、その瞳が少し優しかったような気がした 翌日からは陽が昇らないうちから起き出して馬の世話を始めるのだった 厩舎の掃除から始まり、餌やり、ブラシ掛け、それらが終わると馬に乗る練習をする。 そんな日常が日課になり10日程経つと、馬に乗る事にも慣れてきた。 手綱さばきはまだ未熟だったが、それでもキャンターくらいは出来るようになっていた 「だいぶ上達したみたいだな」 その声に振り向くと、小十郎が「腹が減っただろう?」とおにぎりとお茶を差し入れてくれた うほっ、やっぱり小十郎って優しい!! やっぱり男はこうでなくちゃね〜、誰かさんに見習わせたいわ 木陰に座り、もふもふと幸せそうにおにぎりを頬張ると小十郎が隣に腰をおろして茶を注ぐ。 やっべぇ〜、ときめいちゃいました〜〜。あぁ癒しの時間。 「馬の世話は慣れたか?」 「うん…でも、五島がなかなか懐いてくれなくて…」 「ほう、五島が?」 小十郎の話によると五島は政宗の愛馬で気性も荒いらしい。 はその話を聞いて五島がなかなか懐いてくれない意味が解ったような気がした 「飼い主に似るって言うもんねぇ」 ふと漏らした言葉の意味を察したかのように「じきに懐くさ」と小十郎は小さく笑った じきに懐くって…五島が?それとも政宗?って聞きたかったけど 別の意味で恐怖を感じたのでは黙っている事にした 政宗が私に懐くなんて……ありえねーー!! 小十郎と束の間の安らぎの時間を過ごしていると、噂をすれば何とやらで 政宗が「何をさぼってやがる」とツカツカとやって来て隣に腰をおろしたのだ 『両手に花』もとい、『両手にイケメン』 イイ男の間に座っている自分は人から羨まれる立場にあるのかもしれないが、 は違った意味でドキドキしていた BACK TOP NEXT |