素材:アトリエ夏夢色様
―― 春4月 教室に入ると教卓の上にいかにも手作りの四角い箱が置いてあり、 そこに“くじ”と書かれた紙が貼ってあった そして黒板には“席決めのクジだ!全員引くように!!”とデカデカと書かれていた SEASONS〜Spring〜 #001:クジ運の悪い女 は大きく溜息を吐く 自慢じゃないが、たかが席決めとはいえクジと名の付くものに当った試しがない どうせまたハズレなのだろうと箱に手を伸ばすのを躊躇っていると 「後が閊えてるんだから早く引けよ」などと冷たい言葉が耳に届く うっせぇんだよ、こっちにも心の準備っていうもんがあるんだよ!! 心の中でそう叫び軽く舌打ちをするとエイッとばかりに箱の中に手を入れてくじを引き、 小さく折りたたまれた紙をゆっくりと広げた 意気揚々とスタートする筈だった高校生活。 神も仏もないのだと改めて実感した ********** 最悪!さいあく!サ・イ・ア・ク!! 最前列ど真ん中。教卓の真ん前。 担任の教師の髭の本数まで分かりそうなほど超近く。 どんだけクジ運がいいのよ私はっっ!! 「…先生……2学期には席替え…しますよね?」 これは正当なクジだ…多分。 それならクジ運のない自分を恨むしかない。しかし、望みは捨てたくはない。 だったら今学期は諦めても2学期に賭けたい! そんな思いで教師に訊ねた 「いい質問だな。ところでお前はこの学校は3年間クラス替えがない事を知っているか?」 「…知ってますけど」 「なら分かるな?」 「何がですか?」 「3年間クラス替えがないということは…次の席替えは2年になってからだな」 おいっ!ちょっと待てィ それじゃ何かい?1年間この席で暮らせと? 目の前で愉快そうに大口を開けて笑う教師の横っ面を思いっきり張り飛ばしたいと本気で思った 「さて、が納得したところでクラス委員を決めないとな」 納得なんてしてねぇっつーの! 恨みの眼差しを向けると教師はそれはそれは素敵なスマイルを浮かべた 「1年間頼むな、」 「な、な、何で私が…」 「ん?そりゃあ目の前にお前が居たからだ」 このクソ教師っ!目の前に居たからじゃねぇ!!お前はどこかの登山家かっっ!!! 「じょ、冗談じゃないっつーの!!」 気が付くとは机を叩き立ち上がっていた しまった! 後悔するには遅すぎた 高校生になったら少しは女の子らしくなんて描いていた夢も一瞬にして消え果てた 何のためにわざわざ家から遠い高校を選んだのか… がっくりと肩を落としながら席につくと、隣の席の真っ赤な髪をした男の子が 「ご愁傷様」とVサインを掲げて笑っていた ご愁傷様…? そうね、今の私にはお似合いの言葉よね だが、ここで疑問がふと浮かぶ 私の隣の席という事は、コイツだって同じ真ん中の一番前じゃん。 しかもアンタのその赤い髪は私より目立っていると思うんだけど… がキッと睨むと、赤い髪の男の子は「心配すんなって」と肩を気安く叩いてきた 心配するなって?別に私は心配している訳じゃないわよ 単にこの席とクラス委員になるのが嫌なだけ。 そして、何でアンタじゃなくて私なのかって聞きたいだけよ だいたい同情してくれるならアンタがクラス委員の地位を代わってよ が恨めしげに横目で睨むと、彼は「もう一人は仁王がやってくれるし」と 噛んでいたガムをプーッと膨らませた へ? 仁王? 仁王って何? 人の名前? 『仁王』っていうくらいだから『仁王像』みたいに怖い顔してる人…とか? 知らないという事は本当に恐ろしいもので、が勝手な想像を膨らませていると 遥か後ろの方から「プリッ」と奇妙な声が聞こえてきた が声のした方に振り向くと、窓側の一番後ろの席の男の子が 「俺…か?」と眠たそうに欠伸をしていた うっ……し、し、白髪!? 高校生なのに髪が真っ白だなんて…これが俗に言う『若白髪』っていうやつ? ダ、ダメよ……人を外見で判断しちゃ… もしかしたら彼は重い病気で…け、血液関係の病で…きっとそうよ、肌の色も白いし… 薬の副作用であんな風になっちゃったかもしれないじゃない? それに、見るからに年上そうだし… きっと病気の所為で1〜2年留年したんだよ いらんことをあれこれと考えながら悶々としていると、いつの間にかチャイムが鳴り 「そんじゃと仁王、頼むぞ」と軽々しく口にすると教師はそそくさと教室を出て行った 「なぁ、お前の名前なに子?」と、教師が教室から出ていくと 隣の赤い髪の男の子が声を掛けてきた 「だけど…」 「んじゃでいいか…、お前災難だったな」 「っつーか、アンタ馴れ馴れしい」 「いいじゃん。あ、オレはブン太。丸井ブン太。縁があって隣になったんだし…シクヨロってね」 シクヨロってアンタ… 『4649』とか『夜露死苦』って書くくらい可笑しいから。 とか思いながらも「ま、いいや。ヨロシクねブン太」「おう」なんて交わしながら 握手してる私もどうかと思うけど。 すると、「何が縁じゃ…お前とは腐れ縁ぜよ」と頭の上から声がしたかと思うと その声の持ち主の手がブン太の頭を叩いた そして、その手はの前に差し出された 「仁王雅治じゃ」 「あ…ど、どうも」 握手した彼の手があまりにも冷たくて、は仁王がやはり体が弱いのだと思った TOP NEXT |