素材:アトリエ夏夢色














「ねぇ赤也……キス…して」

「え?…マ、マジ!?」




今、目の前でが瞳を閉じている

長い睫毛、柔らかそうなほんのりピンク色の少しだけ開かれた口唇




ごくり




が望むならキスどころか…それ以上だって…




唇まであと1cm…










あなたが望むなら 前編










「いってぇ〜〜〜」




もう少しと、いいところで赤也はベッドから転げ落ちた




あいててて…ちぇっ、夢かよ……つまんねー




母親に怒鳴られて、時間を見ると…


おっとヤバイ遅刻しそうじゃん
たとえ夢の中だってがキスをさせてくれれば気持ちよく起きれたのによぉ



急いで髪をセットして…鏡の中の自分の唇を見てついついニヤつく




「へへへ」




げっ、もうこんな時間じゃんかよ



急げ 急げよ俺


あんな夢を見ちまったせいか早くに会いてぇ…








「オッス!」

「オッス赤也!」




学校に着いて教室に入るとに一番に声をかけた




でも、の顔を見た途端に今朝の夢を思い出した


耳に残る『キスして』のの甘い声
自然と俺の目はの唇を捉え、そして顔がにやけていく




やべぇ…鼻血出そう…




「ちょっと赤也、なに人の顔見てニヤニヤしてるのよ」

「いや…お前が俺の夢に出てきてさぁ…」

「ふぅん…で、夢の中でこのちゃんとキスでもしちゃった?」

「げっ、何で分かって…う、いや…してねぇって」

「赤也ってば分かりやすっ!…やめてよね、人を勝手に夢の中に出して変なことしないでよ」

「変なことって…お前がキスしてって言ったんだ」

「げー、なんて勝手な夢を見るのよ」




俺は正直ショックだった


だってよ、『げー』だぜ…『げー』ってなんだよ『げー』ってよ


仮にもは一応俺の彼女だし…頬を染めるくらいの可愛らしさを持てっつうの!




なんかすげぇ悔しいから、こうなりゃ意地でもの唇をゲットしてやるからな




そういや、もうすぐ俺の誕生日だ
これはもう俺へのプレゼントとしてキスをもらうっきゃないよな




題して『の唇ゲット作戦!』




赤也は勝手に脳内で計画を立て想像をした
するとまた頬が緩み始め、慌てて自分の両頬を叩いた




ヤバイ ヤバイ 顔に出したらせっかくの計画も水の泡じゃん



赤也は努めて平静を装うとしたが、どうしてもキスのことを考えると顔がにやけてしまい
また自分の頬を叩くという行為を一日中繰り返していた




「赤也ってさぁ、私の夢よく見るの?」

「見る!」

「ふぅん…なんで?」

「なんでって……そりゃあのことが好きだからっしょ?」

「へぇ…」

「そんな他人事みたいに…お前も俺の夢見るっしょ?」

「見ない」

「即答かよっ」

「赤也以外の人はよく夢に出てくるんだけどねぇ」

「なんでだよ、少しは俺の夢見ろよ」

「無理」




はぁああ……俺はなんでこんなヤツ好きになったんだ?




「そういえば…真田先輩とデートした夢を見たことがあったなぁ」

「げげっ、なんでよりによって真田副部長なんだよ」

「あら幸村先輩の方がよかった?」

「ちげぇよっ!」




くっそ〜、もうやだ…コイツ、もしかして俺の彼女だっていう自覚がないんじゃ…


赤也はあからさまにぐったりと項垂れた




「本当に好きな人の夢って簡単には見れないんだよ そうじゃない人はよく出てくるけど…」




にっこり笑いながら言うの言葉に、俺は100%立ち直った




ずっきゅ〜ん!!




ちくしょー、かわいいじゃん このまま押し倒してぇ




「…押し倒してどうするの?」

「そりゃあもうキスするに決まってるじゃ…ん……え!?」

「………ふぅん」




がが〜〜ん!




俺ってば声に出して口走ってたのかよ


頭を抱えながらを横目でちらっと見ると、案の定冷ややかな目で赤也を見ていた




「私さぁ…赤也とキスなんて考えられない」




その言葉に俺は真っ逆さまに地面に叩きつけられ撃沈した気分だった




ちょっと待てよ、考えられないってさぁ どういう意味なんだよ



上等だ、考えられないなら考えられるようにしてやるだけだ






そうは思ったものの俺だってキスしたことがあるわけじゃないし…
どうやってキスまで持ち込めばいいんだ?


ひとまず、参考までに先輩たちに聞いてみるっすかね



だけど、聞いた俺がバカだったと後で思ったッス










「有無を言わさず押し倒す!」

「やれやれ、仁王君…女性にそんな手荒な真似はよくありませんよ
 まずは…やはりムード作りが大切でしょう」




フムフム…押し倒す前にムードを作る…っと


赤也は仁王と柳生の言葉をメモに書きとめた




「場所はどうするんだよ」

「親がいない時でないとな…う〜ん…ファイヤー!」

「そうか…場所も考えないといけないんッスね…って、なに人のメモを勝手に見てるんすか」

「あ?相談に乗ってやってるだけだろぃ」

「別にたのんでないっすよ、まったく油断も隙もないんだから」




赤也は慌ててメモをしまうと次なる人物の所へ向かった




へっへぇ、ここはやっぱり幸村部長に聞くのが一番っしょ
なんたって大人っすからね



赤也は意気揚々と幸村のところに急いだ










「幸村部長〜、相談があるんすけど…」

「やあ赤也、そんなに慌てて何かあったのかい?」




赤也はさっそく幸村に事情を説明した




「あはは、そんなことを考えるなんて赤也もお年頃ってわけかい?」

「そうなんすよ、さすが幸村部長!よく分かってるっすね」




ヘラヘラしながら幸村部長の意見を洩らさないようにしっかりとメモしていたら
突然、後頭部に激痛が走った




「このたわけがっ!」

「いってぇ、なんスか…真田副部長には聞いてないッスよ」

「なっ、なんだと」

「まあまあ、いいじゃないか弦一郎」

「まったく精市は赤也に甘すぎるぞ」

「ははは…赤也、分かってるね?失敗は許さないよ」




ぎくり




あの優しい笑顔の裏側に隠された幸村の真意に赤也は背筋が凍る思いだった








さあ、急げ 急げ 俺…誕生日はもうすぐだ






待ってろよな




俺とキスなんて考えられないなんて言わせないからな















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2006/09/09