素材 Abundant Shine








お前は一人じゃない



どこに居ても、何をしていても、俺達はずっと繋がっている










絆 23 最終話










「私…ずっと土方さんの事が好きでした」

「過去形かよ」

「はい。」

「はい。って…お前…否定しねーのかよ」

「でも…これからまた好きになります」

「当たり前だ」




精一杯の告白なのに恋愛ムードとは程遠くて…

それでも他愛もない話を夜通し繰り返し、こんなにもゆっくりと長く土方さんと話したのは初めてで
嬉しいと思う反面、こうやって過ごすのも最初で最後だと思うとは胸の奥が痛んだ

一緒にご飯を食べて、飽きるまで語り合って、こんな日常的な事はもうないかもしれない
それでも、あなたの思い出になれるよう最後まで笑っていたい








「夜が明けたな」

「はい」

「行く…か?」

「…はい」






ひんやりとした朝の空気を思いっきり吸い込むと、は土方に一礼した




「土方さん、一つ訊いていいですか?」

「ん?なんだ?」

「私が居なくなったら寂しいですか?」

「お前は寂しいのか?」

「寂しくないって言ったら嘘になるかな」

「お前が笑って生きていると思えば俺は寂しくはねぇな
 いいか、お前は一人じゃねぇ。俺達は繋がってる、だから寂しいなんて思うな」






私は一人じゃない

それって土方さんと繋がっていると思っていいですか?



一歩一歩進む毎に別れは近付いてきて、寂しいけれどそれは心地良い孤独感だった




「土方さんも笑っていて下さいね」

「フン、お前に聞こえるくらい大きな声で笑ってやるよ」




それは土方さんらしい優しさだった


私たちはもう声の届く場所には居られない
もしかしたら二度と会う事もないかもしれない

それでも共に過ごした日々は変わらないと…
心は繋がっていると…



陽が昇り始め、快晴を暗示する空のようにの顔に浮かぶ笑顔は晴れやかだった



その時、爽やかな空に似つかわしくない声が朝の空気に震えた




さ〜ん!」




耳の奥まで響くような賑やかな声と元気な笑顔。
そして、その後ろで大きな欠伸をしながら気だるそうに立つ人。




「神楽ちゃん…新八くん……銀さん…も?
 いったいどうしたんです?こんなに朝早くに…」

さんが国へ帰るって言うから見送りに来たんですよ」




新八の言葉に神楽は差した傘をくるくる回しながら何も言わずに酢コンブを齧っていた

回っていた傘の動きが止まると神楽はの前まで来て足を止めた




「これ、お前にやるアル」




目の前で差し出された神楽の手には一箱の酢コンブ。




「私にくれるの?でも…、これは神楽ちゃんの大好きなものでしょ?いいの?」

「いい。だからお前にやるアルよ。だから、また遊びに来いアル」

「ありがとう」




が素直な気持ちを神楽に伝えると、それを否定するように新八が溜息を吐いた




「そんな事言って神楽ちゃんはケーキを期待してるんでしょ?」




瞬間、神楽の唇の端が上がって「ふっふっふ」と不敵な笑い声が聞こえた
神楽は悪びれる事もなく「当たり前アルよ」とまた傘を回した

初めて出会った時から変わらない様子にも声を出して笑った




「今度はもっと大きなケーキを持って来るね」とが約束すると神楽は飛び跳ねて喜んだ
そんな姿を見ながら、はその視線の先を銀時に向けた

銀時は変わらず欠伸を繰り返しながら気だるそうにしていた




「銀さん…、わざわざ見送りに来てくれてありがとうございました」

「あ?なに言っちゃってるの?神楽と新八がどーしても見送りたいって言うから…
 ま、なんつーの?保護者として付添ってやつ?」




想像していた通りの答えにが小さく笑うと銀時は軽く目を細めて笑った




「そうやってお前は笑ってればいいんじゃねーの?」




が軽く頷くと土方が小さく舌打ちをした。
すると、まるで土方を煽るように銀時が言葉を繋いだ




「真選組も辞めた事だし、いっそのこと万事屋に就職ってのもいいんじゃね?」

「適当な事言ってんじゃねーぞテメェ」

「は?テメェみたいなオタクヤローにはもったいねーよ」




そんな様子を見ながら、これが鴨太郎と土方だったらと儚い夢を描きながらは微笑んだ
土方はその笑顔に少し安堵しながら、「笑ってんじゃねーよ」との頭を軽く叩いた








さぁ、空が気持ちを軽くしてくれるかのように明るくなってきた
それはゆっくりと背中を押し出してくれる別れと旅立ちの合図となった




「土方さん」

「あ?」




はこの先いつ呼べるか分からない愛しい人の名を最後に口にした
そして、土方の耳元で内緒話でもするかのように小声で呟く




「ばっ…テ、テメェ…女からそんな事言うんじゃねー」と、
そう叫ぶ土方の顔が言葉とは裏腹に紅潮していた




「みなさん、いろいろとありがとうございました」




空にも広がる様な大きな声では深く一礼して、これから生きて行く為の眩しい笑顔を残し
前へと力強く足を踏み出していった

その背中は戸惑いがなく揺るぎないものだった






の姿が見えなくなると、土方は煙草に火を付けフーッと大きく煙を吐き出した
そして、暫く何かを考えているように一点を見つめていたがその口元は何故か緩んでいた






土方さん、寂しくなったら会いに来て下さいね
私でよかったら添い寝してあげますよ




「ヤベッ 萌えるんですけどっ!」

「けっ、勝手に一人で萌えてろ」








 俺達は繋がってる…何処に居てもだ

だから ずっと笑っててくれ


俺はお前の笑った顔が一番好きだからな






空に向けて吐き出した煙が土方の言葉を乗せて流れて行った















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