素材:アトリエ夏夢色








会いたかったのに会いたくなかった



残してきた苦い過去を忘れたかったのに忘れたくなかった




どこか矛盾した心を抱きながらも笑顔のお前が愛しいと思った










かくれんぼ 後編










家族を持たない俺たちはいつも一緒にいた



泣いたり笑ったり、時には喧嘩もした
それでも誰一人離れる事はなくいつも一緒にいた



誰かが欠けたら成り立たない



そんな日常を暮らしていたんだ






寂しいから一緒にいた


寂しいから離れられない





そう、俺たちは家族だった












「万事屋?」




掲げられている看板の『万事屋銀ちゃん』の文字にがぽつりと呟く




「へぇ…」

「何か文句でも?」

「いえいえ、銀ちゃんに合ってるかもと思って…」




そう言いながらはキョロキョロと興味深々に辺りを見回しながら
『万事屋』に足を踏み入れた


大きな机があって、上には『糖分』と書かれた額がある
そこは銀ちゃんの領域なんだと直ぐに分かる


そんなの様子を見ながら銀時もまた自然に顔が緩みフッと笑みが零れた




「相変わらず甘い物が好きとお見受けいたす」

「病気ッス」

「あはは」




銀時の淹れた茶を飲みながら暫く他愛もない会話をしていたが
話題も次第に尽き始めてきたので銀時はかくれんぼの事を聞くことにした




「お前さ、さっきかくれんぼの続きとか言ってたよな?」

「うん」

「あれ、どういう意味だ?」

「昔さ、皆でかくれんぼをしたでしょ?」




かくれんぼ



そうだな、毎日のようにやってたよな


ジャンケンに弱いお前はいつも鬼で、
俺を見つけられなくて最後には「銀ちゃんが見つからない」って泣くんだ




「あの時…」




銀時が懐かしい思い出に耽っていると、がゆっくりと話し出した
それはが十数年抱え続けた思いだった




あの時、やっぱり私はいつものように鬼で…




小太ちゃんも晋ちゃんも辰ちゃんも直ぐに見つかったのに
銀ちゃんだけは見つからなかった



きっと、いつものように「バカだなぁ」って笑いながら出てきてくれると
ずっと待っていたのに、結局銀ちゃんは見つからないままだった




事情を知っていた皆は慰めてくれたけど、
銀ちゃんが黙って行ってしまったことが私は悲しかった



はそう言って過去の悲しさを思い出すようにフーッと息を吐き
「今だから笑えるけどね」と付け加えて笑った






あの時、あの日は俺たちの小さな家族の最後の日だった
それぞれに行き場所の決まった俺たちは、一人残るに対して心を痛めていた



かくれんぼではいつも最後まで残る俺が、いなくなるのが一番最初だなんて
にはどうしても言えなかった



泣き虫のが泣く事は分かっていたから…



お前の泣き顔を見たくなかったから、アイツらにお前を託して逃げたんだ
だから今、目の前で笑っているお前を見ていると少なからず心が痛む




「私ね…決着をつけたかったの」

「決着?かくれんぼのか?」

「うん」

「バカか、お前バカだろ…10年以上も一人でかくれんぼなんかしてんじゃねぇよ」

「あははは」




何笑ってるんだよ…笑ってんじゃねぇよ
お前の笑い声が泣いてるように見えるだろーが



頬杖をついた姿勢で笑っているの頭をクシャッと撫でると
口許は笑っているのに、その瞳から涙が零れ落ちた



はその涙を拭おうともせず、フフッと小さく笑って…
それから「銀ちゃん、もういいかい?」と呟いた




それは銀時に問いかけるというより、自分に言い聞かせるような口ぶりだった




それに応えるように「もういいよ」と銀時が言葉を返すと
一瞬返事が返ってくるとは思わなかったのか驚いた表情で銀時を見つめたが
直ぐに「銀ちゃん、見〜つけた」と言って声を出して笑った








「今日泊まっていくか?」

「やっだ〜、もしかして襲う気?」

「誰が鼻ペチャブスを襲うかよ…、こう見えても銀さんは面食いなんですぅ」

「私だって天パは嫌いなんですぅ」

「アソコは天パではありませ〜ん、見る?」

「見たくねぇよっ!」



「何よっ」

「一緒に寝るか?」

「……うん」








一人用の小さな布団に二人で潜り込むと、そこには温もりがある




少し気恥ずかしくて背中合わせに寝ると、互いの呼吸が伝わってくる




「ちょっと、布団を取らないでよ」

「布団は一つしかないんですぅ」

「銀ちゃん、今オナラしたでしょ」

「この匂いはお前のだな」

「してないわよっ」

「あっ、コラ…布団を全部取るんじゃありませんっ」

「うるさいわね、私はお客様なんだからね、譲ってくれてもいいでしょ」

「お客様?誰がお客様ですかー?」

「私よ私っ!!」

「お前は客じゃねぇだろ」






お前は俺の家族だ、客じゃない


だからこうやって眠るのが一番いい




銀時はそう言う代わりに後ろからをそっと抱きしめる






久しぶりに感じる懐かしい温もり
それは男と女の温もりではなく家族の温もりだった









翌朝、は朝御飯を用意すると身支度を整えていた




…お前どこに行くんだ?」

「どこって…帰るに決まってるじゃない」

「決まってる…のか?」

「うん、かくれんぼの決着はついたからね」




晴々とした顔では笑う






帰したくない、離したくない、ここにいろよ



そんな柄にもない言葉が脳裏を過る、
だが、の笑顔がそれを拒絶しているように見えた




「元気でな」

「うん」

「気をつけて帰れよ」

「うん」




悲しいほどに明るい笑顔では帰っていく




巣立っていく雛鳥を見守る親鳥の心境ってやつ?











振り返るお前に俺は言う




「今度は俺が鬼をやってやるよ」




お前は疑問符を頭の上に乗っけて俺を唖然とした瞳で見つめる




「鬼のお前に見つかっちまったんだから
 今度は俺が鬼の番と相場は決まってるんだよ」




相変わらず言葉の意味が分からず唖然としたままのを引き寄せて抱きしめる




「お前がどこにいても、どこに隠れていても絶対見つけてやるから」






俺たちはこうやって永遠にかくれんぼを続けていく
きっと、それはどこにいても離れていても続いていくだろう




小さな『家族』という絆がある限り




「……うん」










もういいかい?



ま〜だだよ






もういいかい?



もういいよ〜






、見〜っけ















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『万事屋銀ちゃん』、新八や神楽と出会う前のお話でした。


2008/11/12