素材:アトリエ夏夢色








もういいかい?

ま〜だだよ




幼い頃、毎日のようにかくれんぼをしていた



だけど、
ある日突然、隠れていた銀ちゃんがそのままいなくなった




鬼だった私は最後まで銀ちゃんを見つけられずに泣いたっけ…






あの日から私の中でかくれんぼは終われずにいた











かくれんぼ 前編











あれから十数年…




あの時、銀ちゃんの口から『もういいよ〜』という言葉は聞く事はなかったけど…




銀ちゃん、見つけたよ








「ちょっとそこのお兄さん、勝ち逃げはズルイってもんじゃない?」




銀時がいつものようにダラダラとかぶき町内を闊歩していると
ふと、声を掛けられ面倒くさそうに後ろを振り返ると身綺麗な女が立っていた




おっ、いい女



飲み屋にこんないい女いたっけ?ババァばかりだと思ったけどなぁ
などと、昨夜の出来事を振り返ってみるものの心当たりがない


「勝ち逃げ?…いやぁ、負けて逃げる事はありますけどねぇ」と、
とりあえず、状況がつかめないので適当に話を合わせる



すると女は、着物の裾が少し開いているのも気にせずに足を開き
腕も解くのを拒むかのようにしっかりと組み、眉をツンと吊り上げて
銀時を睨んだまま立っている




「あ…えーと…」




綺麗な顔立ちだけに妙にリアルで迫力があるんですけど…




「お、鬼…」




思わず吐いた言葉に後悔する間もなく、女の眉がぴくりと動いた




「何だ分かってるんじゃない…そうよ、私は鬼よ」

「ひーっ、鬼…お、俺は鬼さんに知り合いはいないんですけどっ!」

「お黙りっ!今度はアンタが鬼になるのよ」




え?俺が鬼になるって言った?確かにそう言ったよね?

…っていうことは、吸血鬼みたいにアンタに血を吸われたり噛まれたりしたら
俺も鬼になるって…こ・と・で・す・かぁーーーっ!?




「ちょっと…」




ひぃいいい―――っ、寄るな、触るな!




「俺の血は美味しくないですっっ、ほら、血糖値も高いし…
飲んだらアンタにも、もれなく糖尿病がついてきちゃうからっ!!」




あぁ、何で善良な俺にこんな仕打ちが…



神様、これは俺に与えられた試練なんですかっ!?
いらんよ、うん、そんな試練は欲しくねぇんだよっっ!!




「…ちょっと」




オーマイガッ!!!

神よ、我を救い給え…っていうか助けろよっ!!
助けてくれねぇなら金輪際神なんて信じねぇぞっ!!!




「うおーーーっ!!」




何を血迷ったか、錯乱しているのか、髪を掻き毟りながら
一人脳内妄想の世界に浸りきっている銀時を見ながら女は大きく溜息を吐いた




「もしもし、盛り上がっているところ悪いんですけど…」




盛り上がっていませんっ!

盛り下がってるんだよ、見てわかんねぇのかよ、この鬼は…




うわっ、すみません、すみません
ナンマイダ〜…ア〜メンソ〜メン…オレ、イケメ〜ン……オ〜ケェ〜ィ?
オーケイじゃねぇよ、全然オーケイなんかじゃありませんっっ!!!




女が状況を説明しようにも、銀時には女が鬼の姿にしか見えず
ただ訳の分からない呪文のように意味不明な言葉を繰り返すだけだった




「…ったく」




ダラダラと銀時の一人芝居的妄想の相手をするのも面倒くさいし、
無駄に文字数が増えるだけなので、さっさと話を進めるために
女は銀時の腰の洞爺湖を引き抜くと、彼の鳩尾に一撃を喰らわせた




「ぐふぉっっ」




今しがた食べたばかりのイチゴパフェが口から出そうになり慌てて口を押さえる



愛しいイチゴパフェが俺の血となり肉となるんだ
もったいなくて吐けるかーーーっっっ!!!




「デ…デベェ……ダニ…ジヤガル」 ←注:テメェ、何しやがる




鳩尾と口を押さえながら、苦しそうに言うと
女は反省するどころかフゥーっとこれ見よがしに息を吐き、
「正気にもどった?銀ちゃん」とニッコリ笑った




その笑顔、アイドルの如し。




おのれ、『銀ちゃん』などと可愛い声で俺の名を呼び
そんな反則的な笑顔を見せても俺は騙されんぞ…
俺は新八じゃねぇんだ、アイドルに興味はねぇ




「鬼め…正体を現せ」

「もう一回突こうか?」




いやとばかりに銀時は数歩下がると、そのまま正座をした
そして場所が道端という事も忘れ、その場で居ずまいをただし、
「で、あなたの正体は何なんですかー?」と逆なでないよう敬語で訊ねた




「だから、鬼だって言ってるじゃない」

「テメェ、やっぱり人間じゃ…」

「聞けよっ!」




すると、女は再び深い溜息を吐くと自分が鬼は鬼でもかくれんぼの鬼だと言った




「かくれんぼぉ!?…かくれんぼって…アンタいくつなんだよ
 どう見たって俺とタメ?けっこういっちゃってる…でしょ……?…ぐふぉぉおお」




口は災いの元とはよく言ったものです。


洞爺湖にて再び一撃を喰らった銀時は、愛しいイチゴパフェとお別れしないように
鳩尾と口を押さえながらのた打ち回るのだった




ヤバイ、今のは効いた……下の門からも出そうですよ


冷や汗をかきながら慌てて正座をしなおし、
踵で下の門を押さえるとパフェちゃんがグッバイしないようにした



そして軽く咳払いを一つすると、かくれんぼだか何だか知らんけど
俺には関係ないと否定した




「あら、関係なくないわよ
 かくれんぼをしていたのは私と銀ちゃんなんだから」

「はぃい!?誰と誰がかくれんぼをしてたって?」




女はニッコリ笑いながら指先で銀時と自分を交互に指し示した




「はっはっは〜、銀さんの脳内は万年中二の夏ですけど、
 かくれんぼするほどガキじゃないんですぅ」

「してたんですぅ」

「へぇ、それはいつですかぁ?何時何分何十秒ですかねぇ?」




どこがガキじゃないんだか…
口を尖らせ、まさしく大人気ない



しかし女は「かれこれ10年以上は経つわねぇ」としみじみ言った




「10年?10年以上もかくれんぼしているバカなんている訳…」

「悪かったわね、ここにいて…」




マジですか?マジで10年以上も…?
10年以上前っていったら…俺、本当のガキだったんですけど…




この女…もしかして本当のバカだったりするんじゃ…と、
銀時は自分の頭の上で指先をクルクルと数回回した



すると女は、その手を払いのけると、
銀時の頭を両手で挟み自分の方に無理矢理向かせた




「よく見てよ」

「おっ、いい女」

「あ、やっぱり〜?よく言われる……じゃなくって、私の事憶えてない?」

「う〜ん」




女は10年以上も前の事を思い出せと要求してくる






10年前ねぇ…


正直言ってあんまり思い出したくないんですけど…




だってよぉ…その頃って…






ヅラ…、高杉のバカ…、坂本のアホ…
あぁ、ヤダヤダ、思い出しちゃったよ…




銀時はハァーッと深い溜息を吐くと女の顔をマジマジと見つめ
記憶を辿って出てきた幼い少女の顔を目の前の女の顔に
まるで指紋でも合わせるかのように当てはめた



会いたかった様な会いたくなかった様な、久しぶりに家族に会った照れくささなのか
複雑な思いと懐かしさが交錯して銀時は目を細めて笑った






「お前さ…整形した?」

「うん、目と鼻を少しね…って、してないからっ!」

「やっぱり?鼻ペチャブスのがそんなに綺麗になっているわきゃないよなぁ」

「鼻ペチャブスってアンタ…思い出したと思ったらそれかいっっ!!」




どんなに憎まれ口を叩かれても思い出してくれたことに満足そうに笑うのだった
それは10年前と何一つ変わらない笑顔だった




「んじゃ、鬼の正体も分かった事だし行くとしますか…」

「行くってどこに?まさか番所に突き出すとか?」

「バカか…積もる話もあるんじゃねぇの?茶くらいはご馳走してやるよ」

「いいの?」

「ま、いいんじゃないですか?」








俺は鬼じゃねぇっつうの
あんまり思い出したくない過去だけどよ






かくれんぼの鬼に見つかったんじゃ降参するしかないだろ?






銀時と




並ぶ二つの影は、いつしか幼い頃の小さな影に映っていた















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2008/11/12


すみません。キタナイ話が満載で…
銀時のウザさと品のなさが出せればと…(笑)