「こ、これは…」




刻一刻と迫って来るリミットを2日後に迎えるその日、
はクリップボードに挟まれた1枚の紙を手にして笑っていた




「これは使えるかもしれない」










#006:地域密着型










「何を考えてるんだお前は……オレ達はマフィアだぞ」

「っるさいわね、好きな事をやっていいって言ったじゃない」

「うん、トマト 言った」




とレオは先日のヴィシャスの言葉を確認するように「ねーっ」と顔を見合わせた




「おやおや、朝から賑やかですね 何かありましたか?」




爽やかな笑顔を見せながらメディシスが姿を現すと、
ヴィシャスはの手からクリップボードを取り上げメディシスにすり寄って行った




「メディシス、見ろよこれ」




メディシスは手渡されたクリップボードに挟まれている紙に書かれている文章を
ゆっくりと読み始めた




はこれを本気でやるつもりですか?」

「もちろん」

「私達はマフィアですよ」




メディシスの傍らでヴィシャスは「そうだ、そうだ」と手を叩いている
彼はまるでの言っている事が間違っていると言わんばかりにメディシスの応援をしていた

だが、メディシスはの意見に反対しているのではなく理由を知りたくて
自分達がマフィアだという事を念頭においただけだった




「マフィアだから何だって言うの?これからのマフィアは地域密着型でいくべきだと思うの」

「地域密着型!?」




メディシスとヴィシャスは同時に叫ぶと、目をパチパチさせて驚いていた
しかし、レオとヨシュアは冷静に「いいんじゃない?」との意見に賛同した




「生前悪行三昧してきたんだ、それくらいやるべきだな
 だからと言ってお前達の罪が消える訳じゃないけどな」




神父のアンタだって罪を犯してるんだから他人の事言えた義理じゃないだろーに…


「ヨシュア…てめぇ」と、案の定ヴィシャスがキレかかったが
それを阻止するようには大声をあげた




「これはボス命令よ、全員従ってもらう!」

「くっ…、だからって何でオレ達がゴミ拾いをしなきゃなんねーんだよ」

「うるさいわね、その手の銃を箒と塵取りに代えればいいだけでしょ」

「何だと!命より大事な銃と一緒にするな」

「いいじゃないトマト…せっかく蘇ったんだから人から嫌われるより好意を持たれる方がいいよ」

「そうですね、意外とやってみたら楽しいかもしれませんね」




取りあえず『クリーン大作戦』と称された地域のお掃除参加は決定事項となったが
最後まで賛否両論はいくつかあった




ちゃん、ゴミ拾いなんかしたら俺のハートが汚れてしまうよ」
「大丈夫よルチ、アンタのハートは既に汚れてるからそれ以上汚れる事はないわ」


「生前出来なかった事を貢献するのもいいかもな」
「さすがグロリー!」


「そうだな、少々面倒くさいがボスの命令だしな」
「いよっ、ニコラス男前!!」




適当に脅したりヨイショしたりして、実行にこじつけたが
なかでも一番渋ったのはニコールだった




「やーよ、絶対イヤッ!!綺麗なアタシにゴミ拾いなんて似合わないわよ
 だいたい手だってお肌だって荒れちゃうじゃない?」

「何言ってるのよニコール、綺麗なおネェちゃんがやるから意味があるんじゃない」

「適当な事言っちゃってぇ、どんな意味があるって言うのよ」

「ニコールの女としての株がどど〜んと上がっちゃうわよ」

「どんな風に?」

「そ、そりゃあ…綺麗なおネェさんがゴミ拾いをするんだもの
 素敵なメンズ達がニコールの虜になるわよ」

「素敵なメンズねぇ……ルッチより?」

「ルチ?やめてよ、ルチなんてカスよカス」




カス扱いされたルチはガックリと肩を落として凹んでいたが、
ゴミ拾いをさせる為にはどんな手段でも厭わないだった



結果、『ルチよりイケてるメンズ』が決定打となりニコールも参加する事になったのだった








そして、ゴミ拾い当日




ちゃん、これは何だい?」

「軍手」

「軍手って…俺のスーツには似合わないと思わないかい?できればシルクの…」

「あ、ごめん…ゴム手袋もあるよ」

ちゃん……気のせいかな?俺は相当君に嫌われているような気がするんだけど…」

「やっだ〜、そんな事ないって…アタシ、ルチの事好きだよ ファミリーだし」




は「行ってらっしゃい」と一人ずつ頬にキスをしながら笑顔で送り出す



―― キスは魔法のチカラ



満更ではない様子で意気揚々?と出掛けて行くファミリーの面々を見送りながら
単純なヤツらで良かったとは口元に薄笑みを浮かべた








「いいザマだな、サルヴァトーレ・ファミリーがゴミ拾いとはな」




音もなく突然姿を現したジャンには「不服?」と訊ねた




「いや…愉快だ」

「それは良かったわ…でも、もっと楽しませてあげましょうか?」

「ほう」




ゴミ拾いをしている連中を上から目線で見ていたジャンにはいきなり火ばさみを差し出した

手渡された火ばさみを手にしたジャンは暫し茫然としていたが、使用方法を聞かされ激怒した
そりゃあそうだろう、たち死神の運命を握っている彼がその火ばさみを使って
犬の糞を拾えと言われたのだから…




「消滅させるぞ」




ジャンの決まり文句にプチっと何かがキレる音がしたかと思うと
は勢いよく彼の胸座を掴んでいた




「おい、退屈なんだろ?楽しみたいんだろ?だったら黙ってゴミを拾ってきな」

「…ふざけるなよ」

「あ!?アンタさぁ、自分がどれだけ偉いと思ってるか知らないけど
 ここに居る限りアンタだってファミリーの一員なんだ、だったらボスの命令を聞くんだね」




どうせ消滅させられたって行きつくところは地獄なんだ
二度と現世に戻って来られなくても後悔はない

そう思うとにはもう怖いものなどなかった




誰がこんな事を予想しただろう
まさかがジャンにこのような口をきくとは…

しかし、予想外だったのはジャンの行動だった
重苦しい声で「いいだろう」とジャンは何と火ばさみを持って外に出たのだった



ジャンは「アイツをボスにしたのは間違いだったかもしれん」と後悔の念を抱きながらも
「俺がゴミ拾いをするとはな」とどこかで楽しんでいる様子だった



もっとも、その姿を見て笑いを我慢していたのはヴィシャスだったけど。








後日、サルヴァトーレ・ファミリーの家の前にはプレートがぶら下げられていた




『Io sento qualsiasi cosa(何でも承ります)』















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