素材:Abundant Shine









薄氷の張る湖面に浮かぶ自分の身体を見ながら

今度生まれ変われたら強い人間になりたいと

そう思った










#000:契約










あれ?私…死んだんじゃないの?



白い靄の掛かった空間
やっと目が慣れて辺りを見回せば大勢の人が鎖に繋がれていた


異臭と呻き声に吐き気がしてくる



なに?ここ?
まるで地獄みたい




「…みたいじゃなくて地獄だ」

「ぎゃっ」




声と同時に一人の男が目の前に突然現れ思わず声を上げた




「急に音もなく現れないでよ、びっくりするじゃない」

「それは悪かったな」

「ところでさ…ここが地獄だって言ってなかった?」

「…言ったが」

「ちょっと、何で私が地獄にいるのよ?」

「ほう…、お前は上の世界に行けるとでも思っていたのか?
 お前は人を殺めているうえに自殺をしているんだぞ」

「は?ははっ…ははは」




そっか、私…やっぱり死んじゃったんだ


あの湖面に浮かんでいたのはやっぱり私…
そうだよね一番大好きだった人をこの手で殺しちゃったんだもんね


ほら、まだあの人の体にナイフで突き刺した感覚が残っている




「ね、聞いていい?あの人は上に行ったの?」

「そのようだな」

「ふーん、なんかズルイよなぁ」

「何がだ?」

「そりゃあさ、人を殺した私が地獄にいるのは分かるけどさ
 私を騙したアイツが上に行ってるなんてさ」

「なかなか面白い事を言う女だな」




男は「ククク」と小さく喉を鳴らして笑っていたけど
別に私は普通の事を言っただけだと思うんだけどな




「それはそうと…アンタは誰?アンタもやっぱり人を殺したの?」

「いや…俺は人ではないからな」

「は?どう見ても人間にしか見えないけど?」

「この身体はただの器だ 俺は無だからな」

「無?アンタ…頭大丈夫? ま、いっか…考えても分かんないし…、ところでアンタの名前は?」

「俺か?…さあな……だが、この器の名はジャン・ブッティーニという名だったがな」

「ふぅん…で、ジャンはここで何をしているの?」

「俺か?…俺はお前達を管理している」




管理ねぇ…


やっぱり分かんない



私が頭を悩ませていると管理者としての責任からなのかジャンは順を追って説明してくれた


何でも私が見た鎖に繋がれている人たちは、現世で散々悪さをした者達ばかりらしい
しかも、私にはどう見ても人間に見えるけどただの魂だと言う




「じゃあ私もただの魂って事よね?」

「そうだ」




更に、ここに居る者達は転生も出来ないらしい




「ってことは…一生ここに居るというわけ?」

「一生ではない…永遠だ」

「え、永遠…ですか……じゃ、私も鎖に繋がれるの?」

「そういうことだな」




そりゃあね罪を犯したんだから地獄に来たくらいでは済まないと思うけどさ
何も繋がなくてもいいんじゃない?


どうせ転生も出来ないらしいから、せめて楽しみたいじゃない




「不満そうな顔をしているな」

「当たり前じゃない、繋がれて嬉しいヤツってMくらいよねぇ」

「ははは、なら俺と契約するか?」

「契約?契約すれば繋がれる事はないの?」

「そうだ」




なら、考える余地なんてないじゃない
だけど、コイツさっきからどうも胡散臭いのよね


簡単に契約して繋がれるより苦しかったらイヤだし…




「馬鹿ではないようだな」

「え?」




うわっ、何コイツ…
私の考えてる事が分かっちゃうの?


それなら素直に訊いてみるしかないか…




「契約したらどうなるの?」

「どうもしないな、俺の駒になるだけだ」

「駒?」

「そうだ、俺を楽しませる為に俺の思い通りになる駒だ」

「何て勝手な…それじゃただの我儘なガキと一緒じゃない」

「ここでは俺がルールだ、全て俺が決める…口答えも許さん」

「契約を断ったら?」

「繋ぐだけだ…永遠にな」

「それも断ったら」

「消滅するだけだ…ま、お前には断る権利もないがな」




ったく、どんな育ち方をすればこんな我儘な子に育つのかしら?
しかもコイツけっこういい年してると思うんだけど…




「さあ、どうするんだ?時間はないぞ」

「わ、わかったわよ」




何となく眉唾ものだと思ったけど、とりあえず契約すれば鎖に繋がれる事もないし
指示があるまで自由にしていていいと言うから契約をする事にした


結局死んでるわけだし、もう死ぬ事もないだろうし、
せいぜいここで楽しむしかないってことよね








その後、ジャンは彼と契約した者達を私に紹介してくれた



こうして私はサルヴァトーレ・ファミリーの連中と出会う事になった






考えてみれば、こんな素敵なメンズ達とお知り合いになれたんだから
地獄での生活も悪くないかもね
















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