素材:clef様
木曜 18時30分 私、は毎週この時間観たいアニメがあって帰路を急いでいた 少しでも早く家に着きたい…頭の中はただそれだけだった 急く気持ちを抑えながらいつもとは違う道を選択した 思えばこれが間違いの元であったのかもしれない 婆娑羅1 〜ざけんなよ〜 狭い路地、人の往来もそこそこにある あまり雰囲気のいい路地ではないので普段は敬遠していたのだが この道を通り抜ければ我が家までの距離がぐっと近くなる アニメのオープニングテーマを口ずさみながら急ぎ足で歩いていると 大きなクラクションの音と共に車のライトに照らされて慌てて避けた 「ざけんなよ、こんな狭い道を通るんじゃねぇ」 勿論これは心の中の叫び。 だって、私ってば見た目より小心者だったりするから… 口をへの字に曲げながら軽く舌打ちをして、渋々道の端に避けた そして、そのまま電柱の後ろを通り抜けた時だった 一瞬目眩がしたような気がした あれ? 生まれてこのかた貧血などというものを体験した事のない健康なは これが俗に言う『貧血?』と貴重な初体験できたと余裕をかましていた すると、いきなり押し倒された感覚が身体に走り、気が付くと男が覆い被さっていた 「何すんだテメェ!!」 しかし、私の上に乗っかっている男は微動せず、全体重を預けている感じだった 「お、重い…っていうか…キモイ」 が抵抗を試みながら、やっとの思いで男を退けると その男は口から血を流し、恨めしそうな目を見開いてを見ていた 「し、し、し、し、死んでるーーーーっ!!」 どっくん どっくんと心臓が痛いくらいに脈打ち出した な、なんで? なんで死体が私の上に乗っかってんのーーーっ!? アンタは腹上死的でいいかもしんないけど、私はちっとも幸せじゃないわよっっ!! なんて言ってる場合じゃなくて、こんな時の力は通常の何倍にもなるらしい 目を見開いてを恨めしげに見ている死体を数メートルほど投げると慌てて飛び起きた しかし、次なる危険が身に迫っていた いきなり棒のようなものが頭上に降って来たのだ 間一髪で難を逃れたが、目の前に立っているモノを見て息が止まりそうになった なんとそこには刀や長槍やら鉄砲を手にした三角帽子を被った案山子が数体を取り囲んでいたのだ しかも、その案山子達はどこか空虚な眼差しを向けていた 何で案山子がこんなに…? などと悠長に考えている暇もなく案山子達は 機械的に「…コロス」という言葉を繰り返しながらに迫って来た なんですとーーーっ!? 殺すって……アンタ… 案山子に恨みを買われる覚えはないんですけど〜〜!! しかし案山子達は、そんなの気持ちなどお構いなしで不敵な笑みを浮かべると 「死ねっ!」といきなり斬りかかってきた 「ひっ」 小さな悲鳴を上げながら尻もちをついてしまったは 落ちていた自分の鞄を拾い上げ、咄嗟に身を庇うと刀は鞄に突き刺さった 「フゥ……危ねぇ危ねぇ…ったく、冗談じゃねぇっつーの!!」 鞄の中にたまたま入っていた分厚い辞書が何との危機を救ったのだ しかし、安堵の次に来るものは怒りと相場は決まっているもので は鋭い目つきで案山子達を睨みつけると大声を張り上げた 「こンの〜…クソ案山子っ!ざけんなよ!そんなもんで斬ったら死ぬだろーがっ!!」 言うが早いか、がそう叫びながら斬りかかって来た案山子の脇腹に 思いっきり回し蹴りを喰らわすと、案山子は短い悲鳴と共にすっ飛んだ フフン、どんなもんよ この様をなめんなよ 昨夜、兄貴とK1のDVDを観てて良かったと決まった技を讃美しながら胸を張って立ち上がると 今度は目の前に銃口が突き付けられた え゛っ!? それって…随分と旧式のようですが鉄砲ですよ…ね? ちょっと、やめてよね。私…防弾チョッキつけてないんですけど… 例え防弾チョッキ着用してても頭を撃たれたら死にますけど… なんて言ってる場合じゃないよーーっ! マジで死ぬんですか? 南無三とばかりにが目を瞑ると『ブシュッ』と鈍い音がして生温かいものが顔にかかった 恐る恐る顔に手を当てそれを見ると、掌には真っ赤なモノがべっとりとついていた 「な、な、な、なにコレ……ち、ち、ち、ち、血―――――っ!!!」 瞬間、の視界に見てはいけないものが広がった そこには銃口を向けていた案山子の身体が目の前に立っていて、そこには首がなかったのだ 生々しく吹き出す血には眩暈を感じ「うっ…」と思わず口を塞いだ 怖くて足も震えて立っていられない状態なのに、そこから目が離せない 普通映画やドラマならここでヒロインは気を失うシーンだと思う だが、現実は…簡単には気絶できない事を知った(私だけかもしれないけど…) 気絶したい…なのに…なんで私は気絶しないんだーーーっ!! 何が起こっているのか状況が掴めずパニック状態になっていると 今度は突然身体が宙に浮いた感覚に襲われた 今度はなに―――っ!!! 「死にてぇのか?」 「へ?」 「戦の場でモタモタしてたら死ぬぞ」 「だ、だ、だ…か、か…く、く、く…ち、ち、ち、ち、血―――っ!!」 『だって、案山子の首が取れて血が出てる』とは言いたかった だが、上下の歯が上手く噛み合わず言葉にならなかったのだ しかも、何故だか身体が揺れていて喋ろうとすると舌を噛む始末 「あだだだ…」 「おい、馬の上で喋ってると舌噛むぞ」 おせーよ、もう噛んじゃったよ〜 …っていうか、今馬の上って言った? 言われてみれば身体は不規則に揺れているし、お尻は皮が剥けそうに痛いし… そうか、私は馬に乗っていたのか… なんて分析している場合じゃないっつーの 背後で聞こえる息遣い もしや、私はこの背後に居る人に助けられた…とか? じゃあ何?この人は白馬の王子様的存在なの?やだ、ちょっとヒロインっぽいじゃん が淡い期待をしながらそっと振り向くと、 兜を被っていて顔は見えないが、そこに煌めく金色の三日月が目に入った あれ?この兜、どこかで見たような気がする ―― あぁ、そうだ 幼い頃、五月の節句の時に家に飾ってあった武者兜だ え? んじゃ、この人は武者なの? なんなの?この展開は?一難去ってまた一難…ってか? ざけんじゃねーーーーっ!! あだだだ、また舌噛んじゃった TOP NEXT タイトルの『婆娑羅』はそのものズバリ! 常識外れの振る舞いという意味でつけました。By管理人 |