素材 Abundant Shine 様
興味なくして… どちらかというと完全に不釣合いだと思う 頭が良くて、テニス部の部長で、無口なタイプ どれをとっても私と正反対だ ずっと同じクラスだったのにほとんど会話をしたことがなく 彼の中に私という人間は存在していないのだろうと思っていた あれは体育祭の時だった 何の因果か二人三脚で彼と組む事になってしまった 当然の如く、彼に同情の声が集まる だが、彼は「気にするな」と私の肩を軽く叩いた 別段気になどしていなかったが、彼の言動が可笑しくて 思わず「絶対勝とうね」なんて口走っていた すると彼は「あぁ、当然だ」と指先で眼鏡の位置を正した 瞬間、何故だか私は彼の事が『いいヤツ』だと思った スタートを切った私たちの走りは完璧に近いほど順調だった 真面目に「1、2、1,2」と掛け声を掛けながら走る彼と 「私たちの息ピッタリ合ってるじゃん」なんて軽いノリの私。 このまま1位になるのも時間の問題?などと余裕を持っていた しかし悲劇はゴール前で起きた ゴール目前、急に足がもつれそのまま転倒 あーぁ、こんなもんだよなぁ 現実の厳しさを感じながら勝利を諦めかけた時、いきなり腕を掴まれた 「まだ終わっていない」 「は?」 彼は呆然としている私を抱えるように引き摺ってなんとかゴールした 1位にはなれなかったが、私たちは2位で無事ゴールする事ができた テニスで全国区プレーヤーの彼にとって体育祭などお遊びに過ぎないだろうと そう思っていたのに真剣に体育祭に取り組む彼の姿勢を見て 私の中で彼が『いいヤツ』から『気になる存在』にレベルアップしていた 「おい、大丈夫か?」 「え?」 彼に指摘され、初めて自分が怪我している事に気が付いた 怪我といっても大した事はなく、擦り剥いてうっすらと血が滲んでいる程度だった 「あ、大丈夫だよ、こんなの唾でもつけとけば治る…って」と、 いつもの調子でここまで言って私は少し後悔した やっぱりここは「痛い」とか言ってうっすらと涙でも浮かべた方がよかったかな? う〜〜、それは絶対無理だわ こんな時自分の性格が恨めしいと思うけど、今更しょうがない その時ポーカーフェイスの彼が少し笑ったように見えたのは気の所為だったのかな? なんて、そんな事をボーっと考えていたら急に声を掛けられた 「保健室に行くぞ」 「えぇっ」 彼は有無を言わさず、やや強引に私の手を引いて保健室に直行した まさか彼がそんな行動に出るとは夢にも思わなかったから 気が付くと私は保健室の椅子にちゃっかり座らされていた 「先生はいないのか…仕方ないな、…足を見せてみろ」 えーーっ、何でこんな時に先生がいないのよ 密室に男子と二人きりなんて、いくら私でも緊張するってば〜 「えー、い、いいよ」 なんて、思いっきり否定をするものの、声は裏返ってるし、 彼は彼で「遠慮するな」とか言うけど、遠慮とかそういう問題じゃないから。 いくら膝とはいえ、男子に足をマジマジと見られるのは 私だって恥ずかしいんですけど… それでも平然と彼は私の足に消毒液を塗り始めた そんな様子を見ていたら恥ずかしいと思う私の方が不埒な人間のように思えた 「あ、ありがとう」 とりあえずお礼を言うと、彼は顔色一つ変えず「気にするな」とだけ言った だけど、手当てが済むと彼はフッと軽い溜息を洩らした 「…」 「な、なに?」 眼鏡の奥の瞳が急に真剣になって一瞬ドキリとした 再び頭の中に不埒な妄想が浮かび上がりそうになる しかし、彼の言葉は予想外のものだった 「無理をさせてしまったな、すまなかった」 「え!?何で手塚が謝るの?」 「どうやら俺は勝つために少しムキになってしまったようだ」 「そ、そうなの?私には冷静に見えたんですけど…」 「いや、俺の所為でお前に怪我をさせてしまった…改めて謝罪する」 謝罪って… 別に私は手塚に傷ものにされたわけじゃないし… 逆にこの程度の傷で申し訳ないみたいだよ でも、真剣に謝る手塚を見ていたら 想像通り、いやそれ以上に彼の真面目っぷりに私は可笑しくなった 「だったら私も謝る」 「何故お前が謝るんだ?」 「だって、私が転んだ所為で結局負けちゃったしさ… 逆に手塚のお陰で2位になれたんだからお礼を言わなくちゃね」 「…お前は…」 「ん?なあに?」 「いや…、変わっているヤツだな」 「えー、そうなの?」 確かに友達からも良く言われるけれど、至って自分では普通だと思ってるんだけどな 手塚にまで言われるくらいだから、やっぱり私って変わってるのかなぁ? 「そこがお前らしくていいと思う」 「それって褒めてる?」 「そのつもりだが」 「へへっ」 なんだろう、ちょっと嬉しいかも 今まで手塚とはあまり話したことがなかったから こんな何でもない会話さえ新鮮に思えたのかもしれない 「手塚…ありがとう」 傷の手当をしてくれた事やその他諸々でお礼を言ったら 手塚は「気にするな」と、少し視線を逸らして眼鏡の位置を正す。 もしかして照れてる? その姿が可愛く見えて、私は手塚の事が好きかもしれないなんて 自分の中で手塚への好感度が上がっていくのが分かった その後、「おはよう」とか「バイバイ」とか、挨拶程度はするようになったけど、 私たちの仲は特に進展するでもなく、元の日常に戻っていった ただ一つ違っていたのは、あの日から私の目は確実に手塚を追っていた 3年生になった時、何を血迷ったか私は手塚に告白しようと思ってしまった どうせ告白しても手塚の事だから、『テニスで忙しい』とか 『そんな暇はない』とか100%断られると思っていた 「俺と…?」 「う、うん」 「別に構わないが…」 「えぇっ!手塚、何言ってるの?頭平気?」 いや、頭が平気じゃないのは私の方だろう… だけど、手塚が私の申し出を受けてくれるとは思わなかったものだから 思わずとんでもない事をよもや口走ろうとは…トホホ 「何だ?冗談なのか?」 「あ…そんな…滅相もないでごんす」 うわわ…ごんすって言っちゃったよ これじゃお相撲さんだよ 手塚は手塚でさり気なく視線を逸らしているけど、 絶対あれは笑いを堪えているよね? どうせなら思いっきり笑い飛ばしてくれた方が救われるんだけどな ま、手塚には無理だろうなぁ 軽い気持ちとはいえ、手塚に告白してOKまでもらったのに何か複雑な気分 所詮、私のキャラならこの程度なんだろう… 幸せな気分なはずなのに、がっくりと肩を落としていると 頭の上に温かい手ざわりを感じた それは一瞬だったけど、手塚が私の頭を撫でていた うわ〜〜、超反則的行動なんですけどっ!!! どんな顔をすればよいのでしょうかっっ! 「帰るぞ」 「うははいぃっっ」 ダメだ、完全に日本語が喋れなくなっている気がする 半分パニック状態になっている私を見ながら、手塚はフッと小さく笑う お願いだから、健康に良くないから笑うなら思いっきり笑ってよ〜 それでも初めて二人だけで帰る路は穏やかな空気が流れているようだった まるで手塚が隣に居るのが不思議と自然な感じする 「ねぇ、手塚?」 「何だ?」 「何でOKしてくれたの?手塚は私の事なんて…興味ないと思ってた」 「そうか?興味なくして受けるわけもないだろう?」 「え?…それって少しは興味があったって事?」 「俺はお前の事をずっと見てきたつもりだが?」 「うそっ!?」 「気が付いてなかったのか?」 「うん」 「フッ…お前らしいな」 これって… 手塚にも告白されたってことだよね? サラッと凄い事言ってるの手塚は気付いていないのだろうか? 私が「それじゃ今後ともヨロシク」なんて軽く言うと 『お前の心の中なんてお見通しさ』みたいな顔をして小さく笑う ちょっと悔しいけど、それが嬉しかったりもするから不思議だ きっと、もっと手塚の事が好きになる予感がするよ BACK 2009/02/05 |