素材 Abundant Shine














さあ、今日も部活は終わった



でも、私達の特訓はこれからだよ




準備はいい?










秘密の特訓










部活が終わるとマネージャーのは、不敵な笑みを浮かべ弦一郎に視線を送る




「うっ…」

「どうした?弦一郎…顔色が悪いようだが」




いつも部活が終わると様子のおかしくなる真田が気になり柳蓮二が声をかけた

「き、気にするな…心配はいらん」と答える真田の様子に多少なりとも不信感を抱いたが、
あまり深入りする事もないかと「そうか…」とだけ答える




「そういえば…最近真田副部長は部活が終わってからも残ってるッスよね」

「だよなぁ、も残ってるしなぁ…何かあやしいぜ」

「むむっ…」




こんな時、妙に勘のいい赤也とブン太に真田は焦りを感じる

しかも、幸村までがまるで全てを知っているかのようにクスッと笑い
さんと何をしているんだい?」と訊いてくる始末。


いい知れぬプレッシャーをかけられているようで、真田の額に一筋の汗が流れる




「な、何もしておらん」

「否定するところがますます怪しいッスよ」

「何を言うかっ」

「真田副部長が答えてくれないなら先輩に訊くからいいッス」




これ以上真田を追求しても、答えてはくれないだろう…
どうせ怒鳴られるか殴られるだけだ

そこで赤也はの傍に駆け寄ると、
「真田副部長といつも何をやってるんすか?」と単刀直入に訊いた




いかん!言うな!!


真田はカッと大きく目を見開いてアイコンタクトでを威圧した
しかし、どんなに真田が威圧してもには通じない






「うふふ、それはねぇ…」

「そ、それはっ?」

「秘密の特訓だからみんなには内緒だよ〜」




の口から出た言葉『秘密の特訓』にみんなは一斉に反応する
各々の脳裏に様々な妄想が広がっていく




「なんか意味深だぜぃ」

「そうなのか?」

「ええのぅ、ワシもに秘密の特訓をしてもらいたいもんじゃ」

「部活の後も特訓とは…さすが真田君ですね」

「やっぱり怪しいッス」




なんとな〜く、感づいているヤツやそうでないヤツ
真田は内心ヒヤヒヤものだった




さん、特訓は上手くいっているのかい?」

「もちろん」

「成果はあがりそうかい?」

「少しずつね」




幸村の笑顔が更にプレッシャーになってくる

再び額に流れてくる汗をタオルで拭きながら真田は肩で大きく息をした




「どんな特訓か教えてほしいッスよ」

「やめとけ赤也、これは真田とにしか出来んことじゃ」

「へぇ、そうなんすか?んじゃまぁ、成果に期待してるッス」




テニスの特訓だと、思ったより素直に納得する赤也に少しホッとしながらも
真田はさっさとみんな帰ってくれと心から祈っていた




「弦一郎、あまり無理はするなよ」

「あ、あぁ…」

「疲れは残すなよ」

「わ、わかっている」




柳がそれをどういう意味で言ったのかは分からないが、真田は複雑な思いでみんなを見送った



そして、みんなが帰ってしまったのを確認すると真田とは部室に入って行った










「弦ちゃん、そろそろ秘密の特訓を始めましょうか」

「…う、うむ」




いつも怒鳴りまくっている真田だが、の見せる笑顔に
さすがの真田にも恐怖という文字が頭の中に浮かんだのだった




「うふっ、じゃあ今日は復習からね」

「ふ、復習をするのか!?」

「もちろん!昨日の事を忘れないうちにちゃんと復習しなくちゃね」

「…っ……




はうんうんと頷きながら真田の次の言葉を待っているが、
当の真田はそれ以上言葉が続かない


は「しょうがないなぁ」と、
ゆっくり真田に近付き硬直状態の彼の手をそっととった




「弦ちゃん、私の事好き?」

「好きだぞ」

「ブッブー、そんな言い方じゃダメ」

「ちゃんと言ったではないか」

「言えばいいってもんじゃないんだからね」

「好きかと問うから好きだと答えたぞ」

「…、それじゃ、私の事愛してる?」

「あっ…あいっっっ!?……そんな事は言えんっ!!」

「……」

「……」

「弦ちゃんは私の事好きじゃないんだ……くすん」




こ、これはたまらん、反則というものだ



が泣き真似をしているとも知らず、真田は本気で焦る


の事は本気で好きなのだが、男子たるものそう簡単に言葉にできるものではない

まして、『愛している』なんて言葉が真田の口から飛び出すなんて
本人のみならず誰も信じられないことだろう



肩を震わせながら背中を向けてしまったにどうすればいいのか分からず、
真田は「すまん」との背中に向かって頭を下げたのだった

すると、は呆れたように大きく溜息をついた




「こういう時は後ろから優しく抱きしめるんだってば〜」

「そ、そうだった…な」

「まったく弦ちゃんはテニス以外には疎いんだから」

「すまん」




いつもの威厳はどこへやら


耳まで真っ赤になって、身動きも出来ずただその場に立ち竦んでいる
まるで、大きな身体の真田が小さく見えるほどだ


そんな真田が可愛く思えては思わず笑ってしまう






「うふっ、それじゃ今日は別の特訓をしましょうか?」

「べ、別の特訓!?」




テニス以外の事には疎い真田だが、『別の特訓』の意味に
不安と期待が入り混じり思わず声が裏返る




「別の特訓とは?」




真田が恐る恐る訊ねると、はまたもや不敵な笑みを浮かべる



「ちょっと耳を貸して」とは人差し指で真田を手招きする
真田は、その指に誘われるように「ん?」とに近付いていく


そして、の背丈に合わせるように少しだけ膝を曲げての口許に耳を近づけた




「次の特訓はねぇ…」と、内緒話でもするかのように耳元で囁くように話す




かかる息がくすぐったくて思わず「うっ」と声が漏れてしまう
だが、はそんな事はお構いなしで話を続けていく




「次の特訓は…キ・ス…だよ」

「う…キ、キ、キ、キスだとーーーっっ!?」

「なによ、そんなに驚く事?」

「ば、ばかもん!女子がその様な事を言うものではないっ!」

「やれやれ、また始まった…弦ちゃんってお堅いんだから」

「堅いってお前…」

「そんな事言ってたら私達一生キスなんてできないじゃない」

「そ、そんなことは…コホン…ないと…思うぞ」






まったく人の気も知らんで…
俺だって決してしたくない訳ではないのだ


ただ、そういう事は言われてするものではないだろう?


それを「それなら今してもいいじゃない」などと…
頼むからそんなに簡単に言ってくれるな




「私はいつでもOKだよ」

「や、やめんか」

「ぶー、どうしてよ」

「こんな密室で出来るわけがないだろう?」

「密室だからいいんじゃない、弦ちゃんがみんなの前でしたいなら別だけど…」

「ば、ば、ばかも〜ん!」

「もう…そんなに照れなくても…」

「て、照れてなどおらん」

「はいはい」

「むっ…もう特訓は終りだ……帰るぞ」




まったく、都合が悪くなるといつもこうなんだから…
マジで私たちは永遠にキスができないのではないかとは本気で思った



だが、この時部室の外で笑いを必死で堪えている数人の人影があった事を
と真田は気付いていなかった










翌日の部活終了後、仁王がに話しかけてきた




も苦労するのぅ」

「えっ?何が?」

「真田のことじゃ」

「あ〜、もしかして…」

「へへっ、見たッスよ」

「切原くんまで?」

「いや、幸村とブン太もおったぜよ」

「が〜〜ん」




一番知られたくない奴らに知られた事で多少のショックはあったが
これは立海のテニス部ではいつもの展開なので諦めるしかなかった




さん、苦労をかける」

「あは…はは……しょうがないですよ」

「俺が協力しちゃる」

「それ、いいな…俺も協力するぜぃ」




協力って…


ありがたい様なありがたくない様な…
は笑って誤魔化すしかなかった


すると、突然仁王がの肩を抱き耳元で何かを囁き始めた
はそれに反応するようにクスクス笑っている


それを目撃してしまった真田は心中穏やかではない



そこに幸村が追い打ちをかける




「弦一郎…いいのかい?」

「何がだ?」




真田は努めて冷静を装っているが、苛立っているのが分かる




「仁王にさんを盗られるんじゃないかい?」

「そんなわけはないっ!」

「そうかな?」

「幸村、何が言いたい?」

「別に…ただ俺にはさんが弦一郎といる時より楽しそうに見えるよ」

「……」




確かに幸村の言う通り心なしか楽しそうに見える

いやいやそんな事はないと頭では否定をしてみるものの
幸村の「仁王は女の子には優しいからね」が決定打になって頭の中が悶々としてくる




必要以上にに密着する仁王。



真田は思わず「、帰るぞ」と大声を出してしまった
まるでそれが合図だったように仁王はわざとらしくを抱きしめる


すると、切原やブン太まで「ヒューヒュー」とからかうように声を出した




「ちょ、ちょっと仁王くん…」

「ええから、お前さんはじっとしときんしゃい」




じっとしてろと言われても…
これってちょっとヤバクない?




すると、真田はみんなの思惑通り怒りを露わにして
仁王とのところにツカツカと駆け寄ってきた



そして、いきなりの手を掴むと「帰るぞ」とだけ言って
引きずるように仁王からを離した




「げ、弦ちゃん」

「……」




ヤバイなぁ…やりすぎちゃったかな?
なんか本気で怒っているみたいだし…




真田は無言でを引っ張って部室に押し込むように入れた




真田は何も言わず背中を向けたままロッカーに向かい帰り支度を始めた
辺りは冷ややかな空気が流れ、重くなっていった




「弦ちゃん…?」




の呼びかけにも応えず、その背中には微かな怒りが表れていた



重い空気の中の小さな溜息に似た息が漏れると、
いきなり真田が彼女の名前を呼んだ




「え?」

「お前は…仁王が好きなのか?」

「違うよ」

「お前は好きでもないのにあんな事ができるのか?」

「やだなぁ、あんなの冗談に決まっているじゃない」

「冗談だと?」




げげっ、ヤバイ…


真面目で厳格な弦ちゃんにとんでもない事言っちゃったよ



やっぱりやりすぎちゃったかなとががっくりと肩を落とした瞬間、
あっという間に真田の大きな身体に包み込まれていた




「え?」

「冗談でもあんな事はするな」

「へ?」

「冗談でもあんな事をするなら相手は俺にしておけと言っているのだ」

「弦ちゃん…」

「これからは俺以外のヤツに触れる事は許さんぞ」

「うん」






ふふふ、恋愛に疎いと思っていたけど、
弦ちゃんもなかなかやるじゃない?




「合格か?」

「え?」

「ひ、秘密の特訓は合格かと聞いているのだ」

「うん、もう秘密の特訓は卒業だね、免許皆伝!!」

「そ、そうか」

「だから…もう一回して!」

「よ、よかろう」




は真田の背中に回した一方の手でこっそりVサインを掲げる






そのサインは部室の窓から覗いていた者達へのサインでもあった















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相変わらずの駄文、
しかもムダに長くてごめんなさい。m(_ _)m