素材 Abundant Shine








3月14日



俗に言う今日は『ホワイトデー』というやつで朝から女子は色めき立っている
1ヶ月前は男どもが騒いどったが俺はどこかで褪めていた気がする



毎年のことながら中元や歳暮のように年中行事のようなこの日が
少し面倒くさいと思いながら取りあえずチョコをくれた女子には半返し程度の礼は配る




だが、アイツにはどうしたもんかのぅ…










モノクローム










思えば1ヶ月前の2月14日、
部活が終わって忘れもんを取りに戻った教室での事


俺は少し期待していたのかもしれん
もしかしたらアイツが教室に残っていて、例え義理でもチョコをくれるのではないかと…


だが、暗く明かりの消えた教室には誰もいなくて色のない世界のようだった
俺は意外にも溜息を吐きながらアイツの席を見ながら自分の席まで辿り着いた


すると、俺の机の上に金色の紙に包まれた一粒のチョコレートが置いてあり
直感的にこれはアイツが置いたものだと思った


それはギフト用にラッピングされたいかにも的なものではなく
普通に箱から一個出しましたみたいに置かれていて、なぜか俺の机だけが彩色されたように見えた




ブラックチョコレート




俺は見覚えのあるそのチョコを手にとって口に放り込む




当たりじゃ










、それ美味そうじゃん」

「食べる?」

「マジ?やっぱお前っていいヤツだぜぃ」




は笑っちょったが、食いもんをくれるヤツはみんないいヤツ
なんて思う丸井の癖みたいなもんだということを知っちょるんじゃろうか


などと悶々としながら丸井との楽しそうなやりとりを横目で見ながら
視界から色が消えていくような気がしてフッと溜息を吐く


すると、突然目の前に一粒のチョコレートが差し出されて、
俺はチョコの乗っている小さな掌からゆっくりと目線を上げるとが笑っとる



一瞬、その部分だけが極彩色のネオンのように光り輝いて見えた




「仁王くんも食べる?」




内心ではガッツポーズをとるほど嬉しかったりする訳だけど、
そこはクールに「気が利くのぅ」と軽く切り返してみたりする


こんな時丸井の奴が少し羨ましいと思う自分がいたりして、哀しいもんじゃ




「うわっ、コレ苦くねぇ?」

「え?そう?」

「いやいや、美味いぜよ…丁度いい甘さじゃ」

「フフッ、仁王くんならそう言うと思った」




仁王くんなら…



思わず脳内で『なら』の文字に黄色のマーカーでアンダーラインを引き『勝者』の二文字に酔いしれる

が、この思い描く構造が映像化されると俺のイメージが壊れる危険性があるから
何でもないフリをしとくぜよ


そうして俺はまた色づいた感情を抑えるように気持ちをモノクロの世界に閉じ込めた








そんな事があってからの1ヶ月、俺は俺なりにいろいろ考えていた



当日、チョコをくれた女子たちにそれなりのお返しを配る

キャンディやらクッキーやら、その辺は適当というかなんちゅうか…な
今の地位が危うくならん程度に気を配ったつもりじゃ


だが正直、には何をしたらいいのか分からんかった




そもそも、俺の机の上に置いてあったチョコはが置いた事に間違いはない
しかし、その意味をどうとっていいのか…



本命なのか義理なのか…
もしかしたら単なる友チョコなのかもしれん




俺的には本命を希望しとるんじゃがの




そんな事を考えながら無気力に部活に勤しんでいると、俺の存在にまったく気付かんように
素知らぬ顔で歩いているが目に入り、俺は咄嗟に声を掛けていた




「おい、どこに行くんじゃ?」




は初めて俺に気付きフェンスの所まで駆け寄ってきて少し不思議そうな顔を見せた
一瞬俺は変な事を口走ったのかと思い、もう一度同じ事を訊いた




「どこって?……帰るんだけど?」




に言われて納得。
そういえば下校の時間じゃ、が家に帰るのは普通に当たり前のことだと気付く


我ながらアホな事を訊いたと少し視線を逸らすと
は笑いながら「頑張ってね」と言葉を残して軽く手を振った



あっさりと帰っていくに俺はまた慌てて呼び止める




「待ちんしゃい」




は歩きかけた足を止めて振り返り、そのまま俺のところに戻って来た




「なに?どうしたの?」

「急ぐんか?」




はフェンス越しに俺を見上げながら、『急いでいない』と言うように笑った


好都合なの表情に俺は気を良くして
「だったら部活が終わるまで待っときんしゃい」と少し強引にを引き止めた


するとは「何で?」と俺の顔を不思議そうに見つめた




何で?…あれ?何でじゃろ?



俺は何でそこまでして引き止めておきたいんじゃろう




はてさてと思いめぐらせながらようやく出た言葉が「何となくじゃ」だった




「何となく?」とは暫くきょとんとした顔をしていたが
直ぐに「仁王くんらしい」と声を出して笑った




俺はアイツの「仁王くんらしい」の「らしい」に、またアンダーラインを引いた


今度はピンクのマーカーじゃ






そうして、俺は気付く



の口にする「仁王くんなら」とか「仁王くんらしい」という言葉は
俺にとって特別な意味を持つ言葉なんだと…










部活が終わると俺は他の奴らに気付かれんうちに足早に部室を後にして
が待っている校門へと足を急がせた




「待たせたな、すまんの」




は俺に気付くと「お疲れ様」と、いつものチョコを一粒俺の掌に乗せた
俺はそれを口に放り込むと、「美味いぜよ、丁度いい甘さじゃの」とあの日と同じ言葉を口にした




「家まで送っちゃるよ」

「大丈夫だよ、遅い時間じゃないから」




困った顔を見せるお前に、もう少し一緒に居たいという言葉を隠しながら
「チョコの礼じゃ」と呟くように言って背中を向け歩き出す


すると、お前は俺の後を早足で追ってくる



その足音が心地良くて暫くその状態を続けた後、不意に立ち止まり振り返ると
その差を縮めようと必死なお前の姿が妙に可笑しくなった




「ほれ」と手を差し出すと、は立ち止まって俺の手と顔を交互に見比べ
その頭上には明らかに『?』マークが浮かび上がっていた




「手、貸しんしゃい」

「えっ!?えぇええっ!?……い、いいよ」




こういう展開は予想してなかったんじゃろうか、は真っ赤な顔をして後退りをしちょる
それがまた俺の心に色を付け始める




半ば強引にお前の手を掴んで歩き出す




「ちょ、ちょっと仁王くん……こういうのって…マズイんじゃ…」

「今日はホワイトデーじゃろ? 1ヶ月前のチョコの礼じゃ」




はその言葉に観念したのか、黙ったまま俯いた




俺の想いとの想いが結ばれた手の部分で繋がった気がした








さあて、1ヶ月前の机の上のチョコの意味を聞くとしようかの






俺のモノクロの世界に色を付けたんじゃ 責任をとりんしゃい















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できたてホヤホヤのお話をお届けします。