素材 Abundant Shine 様
偶然街で見つけたペアのリング。 シンプルなシルバーのリングだけど雅治に似合いそう…そう思った 雅治は絶対面倒くさいとか言ってつけてくれないかもしれない でも似合うって思っちゃったからしょうがない 何といってもペアリングというところに心惹かれる と、いうことで雅治の誕生日プレゼントはこれに決定! こうなりゃ何が何でも手に入れるっきゃない そう決めると後先を考えずに行動してしまうは即決でバイトを決め シルバーリングをゲットするために来る日もバイトに精を出した バースデーリング 「もう授業は終わったぜよ」 机に突っ伏して心地良い寝息を立てていたが、 軽く頭を叩かれ目を擦りながら頭を持ち上げると目の前で雅治が苦笑していた 「んげっ……やべっ、私寝てた?」 「あぁ、すごい鼾だったぜよ」 「マジでかっ!?」 雅治は「冗談」とペロッと舌を出しての頭をくしゃくしゃっと大きな手で撫でた 彼はよくこうやって頭を撫でてくる それはそれで思わず顔の筋肉がくにゃくにゃに緩んでくるほど嬉しい行為で 再度夢の中に入っていきそうな感覚を振り切って気合を入れる 「いかん、バイトの時間じゃ」とは腕時計に目をやると早々に席を立った 「忙しいヤツじゃのう」 最近ゆっくりと話す時間もめっきり減ってしまった雅治は 少し不満顔で溜息交じりにの背中を見送った 「よし、今日も頑張るぞ」と気合を入れながら店のウィンドウを覗く よしよし、まだ売れていない 誇らしげに仲良く二つ並んでいるリングにホッと胸を撫で下ろしてはバイト先に直行した バイトの行き帰りにはこうやって店に飾られているリングを確認するのが日課になっていた 「ちゃん、お疲れ〜」 「お疲れ様でした〜」 今日もバイトが終わり店の裏口から表に出るとそこに背中を丸めて雅治が立っていた 「雅治…?こんな所で何やってるの?」 「お前さんを待っちょった…送っちゃるよ」 白い息を吐き出しながら寒そうに立っているその姿を見たら思わず頬が緩み 私ってば愛されてるぅ!?なんて前向きな性格が脳内を駆け巡ってその胸に顔を埋める 「何しとるんじゃ」 「へへへ、あったか〜い」 「気持ち悪いヤツじゃ」 気持ち悪いって…アンタ… でもま、いいや…そうやっていつもみたいに頭を撫でてくれるその手が 雅治流の『照れ』だって分かってるからね 様の広い心に感謝しろよ あくまで自分中心の思考回路の中、街はそろそろクリスマスの色に煌めいているのに気付いた でも、今の私の目の前で煌めいているのはクリスマスより雅治の誕生日という最大イベント。 繋いだ手の雅治の指を見ながらは例の指輪を頭の中で重ねてみた うん、似合うと自己満足の世界でフフッと小さく笑う 「やっぱり気持ち悪いぜよ」 何とでも言ってちょうだい、今の私は寛容なのさ 弾んだ心でお目当てのリングが売っている店の前まで来ると は雅治の袖口を軽く摘まんだ 「あ…ちょっと待ってて」 は繋いでいた手を離すと一目散に走ってある店の前で止まり 顔をピッタリとくっつけてウィンドウを覗きこんでいた 「何か欲しいもんでもあるんか?」と雅治が近付くと ウィンドウに映るの瞳は宝物を見つけた子供のようにキラキラしていた 「ずいぶん熱心に見とるな…欲しいんか?」 「え?…そんなんじゃないよ」 「そうか?」 「そうそう」 おっと、ヤバイ ヤバイ…顔に出てたかなぁ!? は見破られないように自分の顔をパンパンと叩いて誤魔化していたが 雅治は「分かり易いヤツじゃ」と笑いを堪えていた どれかは分からないが、多分はこの中のどれかが欲しいのだろうと直ぐに理解できたが 必死に隠そうとしているので、雅治はそれ以上追及せずに気づかないフリをしたのだった 翌日からもゆっくりと一緒に過ごせない分雅治はのバイトが終わるのを待っていた そんな日が何日も続きついに雅治の誕生日の前日となった 「今日はのんびりしとるのぅ」 「うん、今日と明日はバイト休みなんだ」 それならと雅治は遊びに誘ってくれた。きゃっほ〜と飛び上がりたいほど嬉しい だけど、今日はそれを断らなければならなかった なぜなら、今日は雅治の誕生日の前日なのだ ずっと前から目をつけていた例の指輪を買いに行かなければならない その為にバイトを頑張ったんだから… 「ごめん…今日はちょっと大事な用があって……でも明日は大丈夫だから」 泣く泣く雅治の誘いを断ったというのに…世の中は甘くないと改めて思った 帰ろうとした所を先生に呼び止められた 「、宿題のレポート提出してないぞ」 「え?期限って今日まででしたっけ?」 完全に忘れてました。だけど、一日くらい延びてもいいじゃない? 先生に頼みこんだが居残り決定となってしまった なんてこったい… 自分の席へ逆戻りしてがっくり肩を落としていると 雅治が「大事な用事ってこの事だったんか」と嫌味な笑いを見せた 「ち、ちが…う…」 「ははっ、冗談じゃ 頑張りんしゃい」 そう言ってまたいつものように頭を軽く撫でて雅治は帰って行った 必死になってレポートを仕上げて、が学校を出る時にはすっかり陽も落ちていた ハァっと溜息をつくが、今のには疲れたなどと言っている暇はない 誕生日のプレゼントを買いに行かなければならないという任務がある は自ら課したその任務を遂行するために店へ急いだ あれ?あれれ? あんなに誇らしげに輝いていたペアのリングがないんですけど… 慌てて店の人に訊くと、ほんの3時間ほど前に売れてしまったとか… あまりにガックリと肩を落とすに店の人は取り寄せてくれると言ったが 早くても1週間はかかると言う 有り難いんですけど…雅治の誕生日は明日なんです。1週間先じゃ遅いんです。 泣く泣く諦めて店を出ると空にはまるであの指輪の輝きのように星が瞬いていた おーい、バカヤロー!! あの指輪は私と雅治の為にあのウィンドウで輝いていたんだぞ〜〜!! と、空に向かい胸の中で叫ぶのだった どこまでも勝手な女だ どうしようか… 誕生日のプレゼントは絶対アレって決めてたから、他に何も思いつかない 昨日まではちゃんとあのウィンドウに飾ってあったから安心していた 今更後悔しても遅いけど、こんな事なら予約でもしておけば良かった はベッドで天井を仰ぎながら自己嫌悪に陥りながら頭を抱えた 結局いろいろ考えては明け方近くまで眠れなかった 目覚めの悪い朝を迎えると机の上の携帯が鳴り出し、着信画面には雅治の名前が映し出されている 朝から雅治の声を聞けるなんてラッキー!なんて今朝はそんな気分ではなかった 少しだけ憂鬱な気分で電話に出ると雅治にしては珍しく愛想のいい声を出していた 電話を切って家を出ると少し先で雅治が待っていた 「おはようさん」 「…おはよう」 何だか爽やかに晴れ上がって眩しくて、おまけに雅治の笑顔が恨めしく思えた 「珍しいね…雅治が迎えに来るなんて…」 が無愛想にそう言うと、雅治は「不機嫌そうじゃのぅ」といつもの調子で頭を軽く叩く それはにとっては嬉しい行為だが、今日は何故か苛立った 不機嫌そう? 誰の所為だと思ってんのよ アンタの誕生日の為にバイトを頑張ったのよ?それが結局プレゼントも変えなくて… 分かってる…雅治の所為じゃない だけど、思い通りにならなかった腹いせに勝手に怒っているだけだって… でも…、今日の私は心が狭いのよ 深い溜息を吐きながら横目で雅治を睨むと、大きな手が伸びてきて頭をくしゃっと撫でられた そして、いきなりの手を掴むと学校とは反対の方向へ歩き出した 「ちょっと、どこに行くのよ…学校は反対だけど?」 すると、雅治は「今日は天気もいいし、さぼるぜよ」とニヤッと笑った さぼるぜよって…何言っちゃってるんだ? そう思ったけど、気分も晴れなかったし気づいたら「いいけど」なんて答えていた 「で、どこに行くの?」 「そうじゃのぅ…、まずは腹ごしらえじゃ」 確かに… 朝ごはんも食べてないし、心なしかお腹が減っている 駅前のファーストフード店に入って朝●ックにかぶりついて一息入れると 突然雅治がプレゼント仕様の小さな箱を鞄の中から取り出しての目の前に置いた 「へ?なにコレ?」 「ここんところお前さん頑張っていたみたいじゃからな」 ハイ、頑張ってましたよ 雅治の誕生日にプレゼントを贈りたくて… でも、だからって雅治からプレゼントをもらう覚えはないんだけどなぁ まさか何か悪い事でも考えているのではと半分疑いの眼で見ていると プレゼントの包みを開けるように促されてはリボンを解いた そして、包みから現れた小箱の蓋を開けるとは目を大きく見開いた うぉーーっと! こ、これはっっ!! が驚くのも無理はなかった 何としても手に入れたかったあのシルバーのリングのカタワレが小箱の中で誇らしげに輝いていたのだ 「な、何で…これを雅治が?」 「これが欲しかったんじゃろ?」 「えーと…まぁ…そうだけど……だけど、どうして?」 「言うたじゃろ?お前さん頑張ってたからな…頑張ったで賞ってことか…な?」 いやん、どうしよう 超嬉しいんですけどっ!! なんて思わず顔がニヤけそうになった瞬間、はハッと我に返った 「雅治、これ…いつ買った?」 「昨日の夕方だったかのぅ…」 「…やっぱり」 やっぱりオマエだったのかーーーっ!! 必死でバイトして雅治にプレゼントするつもりだったのに…アンタが買ってどーすんのよ〜〜! 恨めしげに指輪と雅治の顔を交互に見つめると、 雅治は小箱から指輪を取り出しての右手の薬指にはめた 「いらんかったか?」 「うぅん……欲しかった」 そう、すごく欲しかったやつだよ…でも… 「あのさ…これってペアリングだよ、私一人がしても…」 意味がない…と、そう言おうとした時、雅治は「抜かりはないぜよ」とニヤッと笑い 首にかかっている細い鎖を胸元から出して、そこのトップについている飾りを指差した 鎖のトップについている指輪は紛れもなくが雅治の為にプレゼントしようとしていたものだった やっぱり雅治の指に似合う そう思ったけど何だか複雑だった 結果的には思い通りになったけど、自分が何の為にバイトをしたのか… 祝う者が祝われる者からプレゼントされるってどうよ? は大きく溜息を吐くと二つのリングを眺めた 「もっと喜んでくれると思ったんじゃがのぅ」 「だって……、この指輪…私が買おうと思ってたんだもん」 「どっちが買っても同じじゃろ?」 「同じじゃないよ」 この指輪は雅治の指に似合いそうだって思った事、そして、雅治の誕生日プレゼントにしたかった事、 だから、自分が買わなければ意味がないという事をが話すと雅治は笑いながらの頭を撫でた そして、「今日が俺の誕生日だったって事忘れてたぜよ」なんて白々しい嘘を吐いて、 「機嫌を直しんしゃい」ってまた髪をクシャッと撫でながら小さく笑った 「雅治…」 「なんじゃ?」 「……おめでと…プレゼント用意してないけど…」 「そんな顔しなさんな、プレゼントなら今から貰うぜよ」 「何か欲しいものあるの?」 「そうじゃのぅ…」 雅治は考えるフリをしながら「そろそろ行くか?」と席を立った 「ね、どこに行くの?」とが後ろから訊ねると、「俺の部屋」と今回の事が 雅治の計画的犯行だったのではと疑ってしまうほど憎らしい笑みを振り向きながら見せた 「いいよ、じゃあ雅治のベッド貸してね」 「お、大胆じゃのぅ」 「だって、誰かさんの所為で昨夜は眠れなかったから…もう眠くて」 「寝かすつもりはないんじゃが…」 「無理…爆睡しちゃうもん」 だから、その腕を貸してね は雅治の腕を掴みながらそう呟く 夢の中で何度も言うから おめでとうって。 ―― だから今はおやすみなさい BACK |