素材 Abundant Shine 様











これでもバレンタインにはチョコレートをけっこう貰っているんだぜ


多分にほとんどは『義理チョコ』っていうやつかもしれねぇけど…



それでも俺は期待する



今年は『本命』があるんじゃないかってな




これってやっぱりかなりお前を意識してる証拠だよな…










be conscious












「どっこいっしょ」と、
若者らしからぬ声をあげながらは机に大きな紙袋を投げ、椅子に座り込んだ




明らかにその袋には多量のチョコが入っているのが見てとれる




「節操のねぇ女」

「お黙りっ！」

「欲かかねぇで俺だけにしとけって」

「は？あんたバカ？」

「なんでだよ、お前みたいな女は俺しか相手できないっつーの」

「そりゃあどうも」




そりゃあには『好き』だと告ったこともねぇし、
コイツから告られたこともない


でも俺なりに愛情表現っていうやつ？
それはずっとしている…つもりなんだけどなぁ…






「そんなにいっぱい誰にあげるんだっつーの」

「テニス部の皆にあげるんだよ、いつもお世話になっているからね」

「お世話って…お前テニス部の誰に世話になってるって言うんだよっ」

「へ？」




幸村先輩？…ありうるかもしれない

真田副部長…？ぶるる…ぜってぇありえない…よな？

ジャッカル先輩は問題外だし、柳先輩や柳生先輩はまぁ紳士的だという事を信じるとして
問題は仁王先輩とマル先輩だよな…


女に節操のない仁王先輩と食い物を与えると直ぐに好きになっちゃうマル先輩



ヤバイじゃん



を危険に晒す事はできねぇよ
コイツの貞操は俺が守ってやる！！






「オイッ…お前……いてっ」




人が心配で忠告してやろうと思っているのに、なんで突然デコピンなんか…




「赤也、またアホな事でも考えていたでしょ？」

「アホな事ってなんだよ…俺は心配して…だな」

「はい？」




はこれ見よがしに「何の心配だか」と大きくため息をついて見せた




「何でため息つくんだよ」

「赤也がそんなんだからちゃんと挨拶しなくちゃね」

「どういう意味だよ」

「いつも赤也がお世話になってますってね」

「お前は保護者かよっ」

「保護者みたいなもんだよ」

「ちぇっ」




言うにことかいて保護者ってなんだよ
そこは彼女だからとか恋人だからとか言うところじゃねぇ？


ま、確かに恋人でも彼女でもねぇけど…
せめて友達以上とか…よぉ…言ってくれてもいいんじゃねぇの？




しかし、俺はある物が目に入っちゃったんだよなぁ…


袋の中に入っているチョコレートの山
その中に丸文字で『ワカメ用』って書いてある物を…



これって明らかに俺用だよな？




「なぁ…これって俺のだろ？」




俺は『ワカメ用』って書いてあるチョコだと思われる箱を取り上げた




「何で？」

「だってワカメ用って書いてあるじゃん」

「……」

「何だよ違うのかよ」

「ぷぷーーっ…赤也ってさぁ自分がワカメだって自覚してるんだ」

「い゛っ…そ、それはだな…」




とにもかくにもからチョコをゲットした俺は
いそいそとラッピングされた包装紙を徐に破く


しかし、目の前に出現したチョコに愕然としたのだった




「…このチョコはいったい…？」

「なに？何か文句でも？」

「っていうかさ…普通バレンタインのチョコといったらハート型のとか…」

「は？いいじゃない別に…チョコなんだから」

「だからって…なんで三日月型なんだよ」

「あぁ…それはねちゃんと意味があるんだよ」




の『意味がある』という言葉に俺は期待しちゃったわけよ



普通するだろ？
惚れた女からチョコをもらって『意味がある』なんて言われたらさ



それなのにコイツは…






「本当はブーメラン型のを作りたかったんだよね」




俺の期待をよそにため息混じりに呟く




「なんでブーメラン型なんだよ」

「えっとね、ブーメランにして赤也に投げつけて…」

「なんで投げつけるんだよ」

「それでね、それが赤也の後頭部に激突して…」

「後ろからかよっ！卑怯者めっ！！」

「うひょひょ、それで私のところに戻ってくるって言うわけよ」

「意味わかんねー」

「そう？一石二鳥じゃん」

「だから意味がわかんねーって…」




は呆れた顔で俺を見たけど、俺の方が呆れるっつーの
何がどうしてブーメラン型のチョコを投げつけられなくちゃいけないんだか…




「なにが一石二鳥なんだよ」

「え？うふふ」

「うふふじゃねぇよ」

「だってぇ、赤也に痛い思いをさせられるうえにチョコが自分で食べられるんだよ
　一石二鳥のなにものでもないじゃん」

「それじゃ俺はチョコを投げつけられたうえに食う事もできねぇのかよ」




反論するとは『ふぅん』と感心するように笑い、
「気付いたんだ？バカじゃなかったんだねぇ」とぬかしやがった



チクショーと思ったが、それでもがくれたチョコには恨みはなくて嬉しい…
口に放り込むと苦さと甘さが口中に広がって、自然に頬が緩んできたりする



こんな俺ってやっぱりバカなんだと思う




「おいしい？」

「すっげぇ美味ぇ」

「ふふふ、何たって特別だからね」

「と、特別！？」






ヤベッ…俺、絶対今ニヤけてる
もうどうなってもいい気分だぜ




「それね手作りなんだからね」

「手作りって…そ、それ全部…？」

「うぅん、赤也のだけだよ」




溶けた…俺は完全に溶けている
湯せんにかけられたチョコのように溶けちまっているに違いない



だってそうだろう？
『特別』だの『赤也だけ』なんて言われたら絶対溶けちまうって




「なぁなぁ、それってさ…そういう意味にとっていいんだろ？」

「は？」

「またまた〜、とぼけんなって」

「なんのこと？」

「俺の事好きなら好きって早く言えばいいじゃん」




嬉しさのあまり俺はつい調子に乗る


でもさ、これは明らかに照れも入っていて、
こんな風に茶化してねぇと自分を保てなかったんだ




そんな俺の態度はにはお見通しだったんだよな




はいきなり俺のネクタイを掴んだかと思うと
グイッと自分の方に俺を引き寄せた


こんなに近くにの顔があるなんて…
ドキドキして眩暈がして、こんな緊張は初めて感じたかもしれない



もしかしてキスまで期待しちゃっていいのかよなんて
やっぱり目は瞑った方がいいのか？とか
脳内をいろんな思いが駆け巡っていく




すると、はニッコリ笑って俺の名を呼ぶ



そして、その柔らかそうな唇がゆっくり開かれて、俺の耳に飛び込んできた言葉は
『3月14日は期待してるからね』だった






「お、おぅ…期待してろって」

「うん」








珍しく素直に返事をするに
俺は男心に火がついたっていうか…無性にコイツが欲しいと思ったんだよな




「なんなら今でもいいけどな」

「今…？」

「そう、今」




ネクタイを掴んでいたの手が一瞬緩んだのに気付いた俺は
そのまま顔を近づけていってその唇に触れたんだ




柔らかそうだと思っていたの唇が本当に柔らかいのだと初めて知った












俺はいつからかが好きだった


それは触れたいとかキスをしたいとかそういうのではなくただ単に友達でよかった



男同士とも違う女友達、意識しなくてもすむ存在


そう思った時点で俺は既にの事を意識してたんだよな






だって俺…他の女じゃダメだしな










お前に触れたい、キスがしたい、欲しいって
体中でお前を意識して止められなくなっちまった






お前もそんな風に俺を意識して欲しいから






だから










1ヵ月後のホワイトデーにはたっぷりと意識させてやるからな




















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