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「ぬぉおおーーっ!俺の畑の案山子に顔を書いたのは誰だ、前へ出ろっ!前だっ!!」 「ひっ、ひ〜〜、小十郎様がキレた〜〜」 伊達藩、片倉小十郎が丹精込めて作っている野菜 今朝もいつものように畑を耕しておりますと、なんと案山子にお顔が書いてあったのでございます。 お忍び道中記 「Ha、やるじゃねぇか」 と、筆頭伊達政宗は笑っておられましたが、田畑をこよなく愛する小十郎は それを許すことができず、キレかかっていたのでございました そこで、政宗は小十郎のため 案山子に顔を書いた『犯人探し』を家臣たちに命じたのでございます その頃、お忍びで遊びに来ていた豊臣秀吉 「半兵衛、がおらぬぞ」 「ああ、殿ならその辺を見てくると…」 「なぜ止めぬのだ半兵衛、に万が一のことがあれば…」 「やれやれ、秀吉は殿には甘いな」 「何を申す!は我にとって大事な娘、すなわち半兵衛、そなたはの母も同然っ!」 秀吉は自分の言ってることが分かっているのだろうか? 確かに殿の母君亡き後、僕は面倒を見てきたつもりだ 僕が母も同然と言うことは…少し照れるが秀吉と僕は夫婦(めおと)ということになる 殿が見当たらなくて熱くなっている秀吉は気づいていないかもしれないが 僕はそれでもいいと思っているよ 知らずの内とは言え、半兵衛もどこか少しおかしくなっていたのでございます 「皆の者、を探して参れ!」 「秀吉、そんなに大げさにしないほうがいいと思うよ 君はお忍びでここに来てるんだから」 「だが、余は心配なのじゃ」 「大丈夫、僕が探して来るから…だって僕は母も同然だからね」 「うむ、では頼んだぞ半兵衛」 「おぉおおーーっ!半兵衛殿が母の顔になっておりますぞ」 すっかりその気の半兵衛は、さっそく様を探すことにしたのでございます。 「さて、どこを探せばよいだろう?殿の足だ、そんなには遠くに行ってはいないだろう」 とりあえず、半兵衛は近場から探すことにしたのでございました その頃、豊臣の娘様は畑の中にいたのでございます そこが伊達藩・片倉小十郎の畑とも知らずに… 「まあ、この案山子もお顔がないわ」 どこにそんなものを隠し持っていたのかという詮索は抜きにして、 様は筆を取り出すとさっそく案山子に顔を書き始めたのでございます 「うふふ、なんて凛々しいお顔になったのかしら」 それから様はあちらこちらにある田畑の案山子を見つけては お顔を書いていったのでございます 「ここは本当に案山子が多いですわ はとても楽しゅうございます」 様は幼き子供のように次々と案山子にお顔を書いていたのですが、 さすがに数ある案山子のお顔を書いているうちにお疲れになったのでございました が、その時… 「おいっ、そこの女 そこで何をしてやがる」 気がつくと様は槍やら刀を持ったリーゼント軍団に取り囲まれていたのでございます。 「何をしていると聞いてるんだ!」 「何って…案山子にお顔を書いてたら疲れちゃったの」 「何をほざいてやがる」 「ちょっと待て、案山子に顔をと申したな?」 「はい、が書きましたの 凛々しくなりましたでしょう?」 「こ、こいつが犯人だったんだな おい、小十郎様にお知らせしろ!」 「おい女、逃げるなよ そこで大人しくしていろ」 「無礼なっ、わたくしは豊臣の娘です 逃げも隠れも致しません」 様はお忍びでここへ来たことなどすっかり忘れ、豊臣の名を出してしまったのでございます 「な、なに…と、豊臣の娘だと?…筆頭に知らせろ」 「政宗様ぁああああーーーっ!!」 え?政宗様? 「まあ、それではここは伊達藩の領地でございましたの?」 「い、いかにも」 天真爛漫、天然ボケの様でも『政宗様』の名を聞いて ここが伊達藩だということを知ったのでございました ですが、様はそれでも一向に動じず逆に下級兵士たちに興味を持ったのでございました 「その素敵な御髪は何と申しますの?もやってみたいですわ」 「こ、これは、りぃぜんとというものでござる」 「まあ、なんて洒落た名前なんでしょう も是非やってみて下さいませ」 「あ、いや…おれは女子には無理かと…」 「まあ、つまらないですわ」 様と兵士たちはいつの間にかすっかり和気藹々、和んでいたのでございます。 「テメェら、なに和んでやがる」 「こ、小十郎様っ!」 「おい、女…お前か案山子に顔を書いたのは」 「ま、そんな怖い顔をすると素敵なお顔が台無しですわ」 いきなり片倉小十郎にメンチをきられた様でございましたが、 様がにっこりと微笑まれると、なぜか拍子抜けしてしまった小十郎だったのです 「コホン…な、なぜ、案山子に顔を書いたのだ?」 「あら、案山子は田畑を守るものでございましょ?顔がなければ脅しにはなりませんわ」 「う…そ、それはそうだが…」 思いがけぬ様の突っ込みに小十郎は言葉を失ってしまったのです すると、突然背後より笑い声が聞こえてきたのでございます。 「HaHaHa…小十郎、お前の負けだな」 「政宗様っ」 「おいお前、豊臣の娘のと言ったな?なかなか面白いじゃねぇか、気に入ったぜ」 「まあ、あなたが政宗様ですの?」 モロ好み!ぶっちゃけ理想!そう思った様は一目で政宗にお心を奪われたのでございます 「YES,俺が奥州筆頭伊達政宗だ」 「まあ素敵な殿方ですわ も気に入りました」 「小十郎様…案山子の件はどうするんで?」 「そのことならにお任せくださいませ」 なぜ彼女に任せなければならないのかと小十郎は思ったが、 なにせ政宗様が気に入ったお方と無碍にも出来ず任せることにしたのでございます。 すると… 案山子の右目に眼帯を書き「ふふふ、これが政宗様案山子〜♪」 もう一つの案山子には吊り上げ眉を書き込んで「この凛々しいお顔は小十郎様〜♪」 さらに、案山子の頭を黒く塗り「これが、りぃぜんとですわ」 と、次々に案山子に細工をしていったのでございます。 「これで小十郎様の大切な田畑も守ってくれますわ」 様のお言葉に小十郎も「敵わぬ」と苦笑したのでございます。 「よーし、それじゃこれからパーリィだ」 「おーーっ!」 「政宗様、『ぱーりぃ』ってなんですの?」 「あ?…それはな宴のことだ」 「まあそれは南蛮の言葉ですか?さすが政宗様洒落た言葉を知っていらっしゃるのね」 「おう、にもいろいろ教えてやるぜ」 「それは嬉しゅうございます」 それから、様は荒くれで知られる伊達藩の連中と『パーリィ』を楽しんだのでございます そして、政宗からはいろいろな南蛮渡来の言葉を習ったのでございました さらに、「おいまだ食うのかよ」と政宗を呆れさすほど小十郎の手がけた野菜を 食べつくした様はついに小十郎にも気に入られてしまったのでございます 「殿、こんなところに…捜しましたぞ」 「あ、マミー!」 「マ、マミー!?」 「マミーとは母上のことだそうですわ、政宗様に習いましたの うふっ」 ようやく捜し駆けつけた半兵衛は『マミー』と呼ばれ、少々嬉しさを隠し切れぬご様子でした 「お前は竹中半兵衛…ぶっ…お前がのマミー?」 「だ、黙れ伊達政宗…殿に呼ばれるのは嬉しいが、貴様になど呼ばれたくないわっ!」 「いいのかい?そんなことを言って…将来は俺の義理のマミーになるかもしれないんだぜ」 「な、なんだと…き、貴様に殿を嫁にやれるかっ!」 「Han、まあ覇王のおっさん…いや、パピーによろしくな」 「き、貴様ぁああああーーーっ!」 様は爆発寸前のマミーこと半兵衛をなんとか抑え、 小十郎からお土産の野菜をしこたま戴き伊達藩を後にすることにしたのでございます 「あ、政宗様、政宗様の案山子の横にの案山子も置いて下さいましね」 「おう、任せなハニー」 「まあダーリンったら…」 頬を染める様と高笑いをする政宗… 見るからにバカップル誕生の図を目の当たりにしたマミー半兵衛は 慌てて二人を引き剥がすように様の手を引かれ早々に立ち去ったのでございました 今日のことは絶対秀吉には言えない もし、この事を知ってしまったら秀吉はきっと半狂乱になってしまうに違いない 「殿、今日のことは秀吉には内緒にするように…」 「え〜〜!?どうしてパピーに話しちゃダメなの?」 「パ、パピィ!?…あ、秀吉は殿の事を心から愛しておられるからです」 「やだぁ、パピーにはマミーがいるからいいじゃない」 な、なんという嬉しいことを… 半兵衛は「イャッホ〜♪」と叫びたい気持ちをグッと抑え様に申し上げたのです 「コホン…、そ、それでは……このマミーと二人の秘密ということに」 「うん」 こうして様と半兵衛は指切りをして二人の秘密という事にしたのでございます その頃… 「ぬおぉおおおおーーっ!はどうしたぁああーっ!! 半兵衛はまだ戻らぬのかぁあああーーーっ!!」 パピー秀吉はひとり虚しく叫んでいたのでございました Back |