素材:clef様
本当は、ずっと、ずっと。 ……お前の事が、好きだったんだ。 ≪空色に誓う竜の夢 10≫ 〜誓約〜 幼い姫君は、大層政宗を気に入っているらしかった。 その所為か、縁談の話はとんとん拍子に進んでいった。 「……政宗様、本当に宜しいのですか…?」 「………もう、どうでもいいんだよ……」 やっと、解った。 自分はずっと、初めて出逢った日からが好きだったんだ。 けれど、は自分の事をそんな風に見ていない。 それなら、もう何もかもどうでもいい。 「政宗様ぁ…わたくし、嬉しゅうございますわ」 「そ、そうか……それは良かった」 小さな姫君は、うふふ、と可愛らしく笑いながら擦り寄ってくる。 政宗は愛想笑いをしながら、適当に受け流していた。 これで、自分は結婚する。 こうでもしないと、諦めきれない。 「………では、誓いの盃を……」 ぼんやりとしている内に、いつの間にか婚礼の儀は終盤に差し掛かっていた。 揃いの紅い盃に薄く酒が注がれ、誓いが結ばれるのを皆今か今かと待っている。 覚悟を決めろ、と言い聞かせ、強く目を瞑り一気に飲み干そうと盃に唇をつけた時だった。 ちょっと待てよ、俺の誓いはこんなものなのか? 違うだろ、独眼竜 政宗! お前が立てた誓いは……… 「……政宗様、如何なされました?」 「………悪ぃな、小十郎……此処で誓う訳にはいかねぇんだ」 静かに、盃を置いた。 姫君も、見守っていた皆も、驚愕の色で統一されている。 「すまねぇ、小さな姫君さん…俺にはもう、誓いを立てた奴がいたって忘れてたぜ」 焦げ茶色の髪をわしゃわしゃと撫でると、すまなそうに笑った。 「アンタ、絶対将来 別嬪になるぜ? だから、俺よりもっといい男と幸せになれよ Princess」 そう言い残すと、呆気に取られている家臣達を無視して、一目散に部屋から出て行った。 「……これでよかったの、ちちうえ?」 「ああ、よくやったな」 そう言って姫が見上げたのは、先程まで儀式を進めていた小十郎。 優しく抱き上げながら、小十郎は優しく姫君改め愛娘の頭を撫でてやった。 「さて、あとは……幸運を祈る、しかねぇな………ぐっどらっく、ってか?」 「っ!!」 声も掛けず障子を勢い良く開けると、は驚いた顔で振り向いた。 「政宗さま…? まだ婚礼の儀の途中では……」 「そんな事はどうでもいいんだよ」 息を整えながら忙しなく言うと、政宗はの手を引き庭に連れ出した。 政宗は桜の木に背を凭れると、ふう、と大きく息を吐いた。 「……酒、持って来てくれ。 盃、二つな」 「は…? わ、わかりました……」 は言われた通りに、酒と盃二つを用意する。 自分も飲めという事だろうか、と内心首を傾げながら、政宗に手渡した。 すると、盃は一つ返された。 持ってろ、と言われ大人しく持っていると、酒が少しだけ注がれる。 自分の持つ盃にも酒を注ぐと、政宗はその手を目の高さ程まで上げて、言った。 「………俺は昔、誓いを三つ立てた」 「三つ……?」 「そのいち、お前より大きくなること。 そのに、お前より強くなること」 笑いながら言う政宗に釣られて、も笑顔を見せた。 だが、そのさん、で政宗から笑顔は消える。 「そのさん、…お前を傷付けないこと、守ること」 「…それが、政宗さまの誓い、三つですか?」 「ああ、でも……もう一個、出来ちまった」 何ですか、とが尋ねる間も無く、それ飲め、と言われる。 不思議そうに政宗を見るが、いいから早く、と急かされるだけだった。 言われた通りにほんの少しだけ注がれた酒を飲み干すと、途端に政宗の口がにやりと笑う。 そして同じ様に、政宗も酒を一気に飲み干した。 「誓い、そのよん……確かに立てたぜ。 今からお前は、俺のもんだ」 「…はっ??!!」 「そのよんは、…夫婦の誓いだ。 これで俺の誓いは全て立てられたぜ」 まるで悪戯が成功した子供の様に笑った政宗から、不意に酒を奪う。 それをもう一度互いの盃に注ぐと、にっこりと笑った。 「……? 何すんだ?」 「もう一つ、誓いを立てて下さい」 逆の立場になった政宗に、早く飲んで下さい、と急かす。 困った様に、それでも何処か嬉しそうに微笑みながら、政宗はに言われた様に酒を飲む。 そしてまた同じ様にが酒を飲むと、は雲一つ無い青空の様に綺麗に微笑んで、言った。 「誓い、そのご……二人でいれば、絶対幸せっ」 盃が、落ちて割れる音がした。 そんな事は気に掛けていられない、衝動とはそんなものだ。 骨が軋むほど強く、愛しい身体を抱き締める。 「なあ、知ってるか? 異国ではこうして誓い合う時、kissをするんだぜ?」 「…き、す?」 「ああ、こんなのだ……」 抜ける様な雲一つ無い青空と、満開の桜が見守る中。 神なんかじゃない、五つの誓いをお前に立てる。 何度でも、想いを込めたkissと共に。 BACK TOP NEXT
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