素材:アトリエ夏夢色様
「姐〜、お腹空いたアル」 「またかよ」 万事屋のニューフェイスのさん。 さんは僕の姉上と同じお店で働いていました。 姉上曰く「ちゃんはこんな所で働くような子じゃないのよ」と 僕にさんのことを押し付け…いや、頼んできたのです。 子供ってヤツは夕暮れ時にまとわりつくもんだ 姉上に頼まれたものの、いくら僕が万事屋の代表取締役だとしても… 「おーい新八、誰が代表取締役だって? 万事屋銀さんの社長はこの銀さんでしょーがっ」 「ちっ、給金もくれないくせに何が社長ですか」 「あっれぇ、何言っちゃってるの?何言っちゃってるのかなぁ ちゃんと万事屋銀さんって名前が入ってるでしょーが」 「いつからですかっ?いつから銀さんの名前が入っているんですか?」 「たった今からですっ!」 今に始まった事ではないけど、相変わらず銀さんは大人気ない人だと 新八はハーッと大きな溜息をつく 「あー!?何言ってんだオメェは… ここはたった今から万事屋神楽になったんだよ」 「ちょっと神楽ちゃん、酢コンブしゃぶりながら何を凄んでるんだよ」 「うるせぇんだよ、メガネオタクは黙ってな 間違ってもテメェの名前がつくことはないんだよ」 「何それ、何それー!?メガネオタクって関係ないでしょっ!…今は…」 そりゃあ、僕はメガネを掛けてるし、オタクだって自他共に認めてるよ だからって、間違って『万事屋新さん』にならないとは限らないし… 「「ならねぇよっ!!」」 「いたたたた、なんでこういう時ばかり気が合うんですかっ!?」 銀さんと神楽ちゃんに頭を殴られて僕は考えを改めました。 絶対『万事屋新さん』にしてやると… 話が思いっきり横道に逸れちゃったけど、 姉上からさんの事を押し付け…もとい、頼まれてしまったので どうせ断られると思って軽い気持ちで銀さんに相談したんだ 「オイお前、ご飯作れるアルか?」 「作れますよ」 「おぉ!素晴らしいアル、合格アルね」 ちょっと神楽ちゃん、何の権限があって答えちゃってるわけ? いくら神楽ちゃんが合格を出したって銀さんがNOって言ったらダメなんだよ 銀さんが一応代表取締役なんだからね…今のところは。 僕は絶対反対されると思ったんだ だって銀さんは面倒くさい事は大キライだからね 「いいんじゃないの〜」 「え〜〜っ、いいの?マジ?そんなあっさりOKしちゃっていいの!?」 「なんだよ、困ってるんだろ?」 「そうですけど…居候が増えちゃうんですよ、いいんですか?」 「ならお前が出て行くか?」 「どうしてそうなるんですかっ!?」 「そりゃあお前… メガネオタクよりカワイコちゃんの方がいいに決まってるでしょーがっ!!」 あぁ…そうだよ、そうだったよ アンタって人はそういうヤツだったよ なんかスッキリはしないけど、とりあえず銀さんがOKしてくれたので これで姉上には顔が立つし、まずはホッとしたよ 「さん、良かったですね」 「何が?」 「何って…銀さんがここにいてもいいって言ってくれたんですよ」 「ふぅん」 なに?その感動のなさは… 「困ってたんじゃないんですか?」 「別に」 「え?そうなの?そうなんですかぁ?」 「お妙ちゃんから何を聞いたか知らないけど、住み込みで働いてた訳だし 特に困った事はないわよ」 どうやら僕はさんて不憫な人なんだと勝手に思い込んでいたらしい 姉上に抗議すると、あっけらかんと「新ちゃんのためよ」と笑った さんが料理上手なのをいいことに万事屋に送り込んだと言うのだ それがなぜ僕のためなのか解らなくて姉上に訊くと 「万事屋にいたら新ちゃん栄養失調になっちゃうでしょ?新ちゃんは育ち盛りなんだから ちゃんとしたものを食べなくちゃね」とVサインを掲げてニッコリ笑う これって姉上の親心なんだろう… それなら姉上が美味しいものを食べさせてくれればいいのに…と言いたかったけど、 それは姉上には期待できないので僕は黙っている事にした 兎にも角にもその日からさんは万事屋で暮らす事になった 最近では神楽ちゃんがさんにベッタリとくっついている 特にご飯時になると離れない 「姐、今日のご飯は何アルか?」 「さん、僕も何かお手伝いします」 「新八くん、男の子はデンと構えてご飯が出来るのを待っていればいいのよ」 す、素晴らしい! 最近の女の子に聞かせたいセリフだよ これこそ『女の鑑』っていうやつ? 僕は拍手を送りたいほど感動したんだよね 「ねぇねぇ、今日のご飯は〜?」 「今日は茶碗蒸しよ」 「すごいアル!!…で、どんな虫が入ってるアルか?」 まったく神楽ちゃんってば、いくら『ムシ』がついているからって 『虫』が入っている訳ないのに… やっぱり神楽ちゃんはまだまだ子供だなぁ 「うふふ、ゲジゲジよ」 「えぇえええーーーっ!!そうなの?そうなんですか? ちゃわんむしって本当に虫が入ってるんですかっ!?」 「なんだ新八くんは知らなかったんですかー? ちゃわんむしって言ったらゲジゲジが定番でしょーが」 そ…そうだったのか… 神楽ちゃんの事を子供だなんて笑えません 姉上、僕はまた一つ大人になったような気がします。 「姐……ゲジゲジって…定春23号のことアルか…?」 「定春23号は神楽ちゃんの大切なゲジゲジでしょ? そんな大切なゲジゲジを料理したりしないわよ」 「それじゃ…このゲジゲジは?」 「これはね……、新八3号よ」 「良かったアル、新八3号なら躊躇う事なくグチャグチャに潰せるアルよ」 「躊躇えよっ、躊躇って下さいっっ!! っていうか、新八3号ってなに?なんなんですかっ!?誰か教えてっっっ!!」 まぁ、これはさんの冗談だってことは後で解ったんだけど、 台所で仲良く料理を作るさんと神楽ちゃんが微笑ましくて 万事屋には似つかわしくない光景に思わず和んでしまう 「神楽ちゃんはさんにベッタリですね さんの邪魔にならないといいんですけどね」 「何を言ってるんだ新八くん… ガキっていうのはな夕暮れ時になると母親にまとわりつくもんなんだよ」 「どうして夕暮れ時なんですか?」 「母親ってぇのは、夕暮れ時から飯の支度や何やらで忙しくなるんだよ」 「そうか、なるほど… 忙しくなると子供の相手はしている暇がなくなりますもんね」 「ガキはかまって欲しくて母親にまとわりつくんだよ 新八、お前もにまとわりつきたいんじゃないんですかー?」 「な、な、な、何を言ってるんですか!?ぼ、ぼ、僕は…」 「とか何とか言っての手伝いをイソイソとしているみてぇだし」 「そんなこと言って、銀さんだって食器を並べているじゃないですかっ!?」 「これはだな…コホン…一家団欒のファミリーの場面なんだし 俺は優しい夫と優しい父親を演じているんですぅ」 誰が夫なんですか?誰が父親だっていうんですか? でも、こんな光景を憧れているのは神楽ちゃんや僕だけではなく もしかしたら銀さんも憧れているんじゃないかなぁとちょっぴり思った 時にはこんな一家団欒のファミリーを演じてみるのも悪くないよね BACK 2007/07/26 |