素材:アトリエ夏夢色様
『サンタクロースっていくつまで信じてた?』 クリスマスを目前に控えたある日、クラスメイトの一人がそう言った そんなの、せいぜい小学校の低学年までだよ 何をバカな事を聞くのだろうと思っていたら一際大きな声で叫んだヤツがいた 「何言ってるんだよ、サンタクロースはいるぜ」 切原赤也 15歳。 信じるものは救われる 一斉に注がれる冷たい視線。 それもその筈、年が明ければ高校生になるっていうのに 未だにサンタクロースを信じているヤツがいるなんて… 「バカじゃねぇの?いるわけねぇじゃん」 しかし、赤也はそれを真っ向から否定した 「いるんだよ」 「いねぇって」 「いる」 「いない」 いつもクリスマスの夜には知らないうちに枕元にプレゼントが置いてある。 それは、サンタクロースがいるっていう証拠だと赤也は自信満々に答え、 そしてそれは、親がこっそり置いているんだとクラスメイトが答える 去年欲しいものがあるって親に言ったら却下されたけど クリスマスにはその欲しいものが枕元に置いてあった だから親がサンタクロースである訳がないのだと赤也は信じて疑わない この年までサンタクロースの存在を信じられるなんて ある意味どうすれば赤也みたいな子に育つのだろうかと赤也の親に聞いてみたい そんな事を考えながらはクラスメイトと一緒に笑っていた 「で、去年はサンタさんに何をもらったの?」 「wii!!」 「へ、へぇ……よかったねぇ」 もしもし赤也くん、少しは冷静に考えてみなよ もし、世界中の子供たちが『wiiが欲しい』と願ったら… そしてそれら子供の夢を全て一人のサンタが叶えるとしたら… いったいどれだけのお金がかかるんだろう ここで夢も希望もないような現実感を覚えてしまう自分が可笑しくて は溜息交じりの笑みを零した 「あっ、…その顔は信じてねぇだろ?」 「いや…信じろって言う方が無理だと思うけど…」 「ちぇっ」 赤也は軽く舌打ちをするとラケットを抱えて教室を出て行った そんな赤也を目で追いながらクラスメイトは「恥ずかしいから逃げたんだぜ」と 言っていたが『恥ずかしい』なんて心理は赤也にはあると思えない まだ笑いが収まらない中、ふと視線を廊下に移すと赤也が手招きをしている どうやらを呼んでいるようだ しかも指先を口許で合図しているように立てている 内緒ってこと? はさり気なく席を立つと、赤也の呼ぶ廊下へと足を進めた 「なあに?」 わざわざ廊下に呼び出して何事かと思えば、 よく来てくれたとばかりにニッコリ笑って、いきなり肩を組んでくる コイツ…絶対私を女の子として意識してないんだろうなぁ 肩に置かれた手にドキドキしている私の気持ちなんて分かっていない そんなの思いなど知る由もない赤也は、内緒話でもするように の耳元に口を近づけて「お前だけには本当の事教えてやるよ」と呟いた 思いがけない至近距離に破裂寸前の鼓動を必死で抑えながらも冷静さを装う 「ほ、本当の事?」 「サンタクロースってさ、いい子でいないとプレゼントをもらえないだろ?」 赤也に言われて気がついた 確かにいい子にしていないとプレゼントはもらえない まだサンタクロースを信じていた頃、親によくそう言われたっけ… でもちょっと待って… 『赤也』と『いい子』なんてどう考えてもイコールでは結びつかない 小さい頃はともかくとして、今の赤也がいい子とは思えない それって… が疑問の色を顔に出すと、赤也は「よく聞けよ」とにやりと笑った サンタクロースはいい子にプレゼントをくれるのではなく サンタクロースを信じている者にプレゼントをくれる 「だから俺はサンタクロースを信じてるんだよね」 赤也は悪びれる風でもなくそう言って笑う コイツ… 【サンタクロース≠親】ではなくて 【サンタクロース=親】だってちゃんと分かっているんだ 確信犯め… 「これで今年も欲しいものが手に入るって訳っすよん♪」 「それで今年は何を手に入れるつもり?」 「それは秘密に決まってるっしょ」 赤也はそう言って高らかにVサインを掲げると 片手でラケットを回しながら「じゃあな」と走り去って行った 何よ、言いたいことだけ言っちゃって… でも、いい子でいるんじゃなくてサンタクロースの存在を信じる…か。 憎らしいけど、赤也らしい 欲しいものが手に入るなら私もサンタクロースの存在を信じてみようかな? そんな事を考えながらの顔に自然と笑みが零れていた そんな事があって迎えたクリスマス当日。 去年、結局間に合わなくてプレゼント出来なかったマフラーを徹夜で仕上げ 無造作に紙袋に突っ込んで学校に行った 赤也に似合いそうな真っ赤な毛糸で編んだマフラー。 プレゼント仕様にしなかったのは『いかにも』って感じで抵抗があったし やっぱり少し照れくさい気がしたから。 冬休みに入ったのに学校へ行くのは、赤也が部活をしているから。 白い息を吐きながらフェンス越しに練習風景を眺めていると ボールを追いかける赤也の姿に釘付けになる まったく…テニスをしている時はカッコイイんだから… すると、赤也が視線に気付いたのかラケットをブンブン振り回している 仕方がないのでが軽く手を振ると、物凄い勢いでこちらに向かって走ってきた まるでヒーローの如くフェンスを飛び越えての前に着地した そして、「寒い」を連呼しながら徐にに抱きつく 「何してんの?」 「いや、ほら…寒いし…」 「嘘つくな」 「へへっ」 「笑ってごまかすな」 今まで走り回って練習してたんだから寒いわけないじゃん。 赤也の身体…ぽかぽかしてるよ 恥ずかしくて、照れくさくて、 それでも何だか赤也の特別になったような気がして嬉しくて… 「…仔犬みたい」 はそう呟いて小さく笑った すると、赤也は抱きついたまま「へへっ」と照れ笑いをして それから耳元で「やっぱりサンタクロースはいたっしょ?」と呟いた 「え?」 「サンタクロースを信じていれば欲しいものが手に入るって言ったろ?」 「…うん」 が頷くと、赤也は少し考えるように間を開けてからぽつりと言った 「…お前が手に入ったもんね」 「え…えーと……それって…?」 「……」 無言の赤也の鼓動だけが伝わってきて胸がトクンと鳴った 「赤也って……私が欲しかったの?」 どうせ赤也の事だから欲しいものはゲームのソフトなのだろうと思っていただけに そう聞かずにはいられなくて、自意識過剰かと思ったが 今更出てしまった言葉は覆す事はできなかった しかし、赤也は頷く代わりにまた「寒い」を連呼しながら にしがみつくように抱きついた その手にはさっきより力が込められていた これってサンタクロースの贈り物? サンタクロースは私にも赤也をくれた? 今が赤也にマフラーをあげるチャンスかもしれない 「そんなに寒いならこれあげるよ」 はやっとの思いで編み上げたマフラーを紙袋から出すと赤也の首に巻いた すると赤也は一瞬驚いた顔をしたが、 それがの手編みだと分かると満面の笑顔を見せた 「嬉しい?」 「すっげぇ嬉しい!……けど」 「けど…?」 「こうするともっと嬉しいっしょ?」 そう言って赤也は自分の首に巻かれたマフラーをにも巻きつけた 「これならあったかいし、離れないし、いっせきにちょうっしょ?」 一石二鳥くらい漢字で言えよってツッコミたかったけど 赤也の温もりと思いが伝わってきたのでやめた。 翌日、仁王先輩からもらったという映画のチケット。 映画の内容なんて覚えていない ただ、赤也には面白くないみたい 私もマフラーを編むための労力を使い果たしたみたいでどこか夢見心地だった それは夢だったのかよく憶えていないけど 「もう離さねぇから」という赤也の言葉が何故か耳に残った ねぇ、赤也… 『信じる者は救われる』って言葉を信じる訳ではないけれど、 『サンタクロースを信じれば欲しいものは手に入る』は本当かもね いつしか夢の世界に入っている二人にスクリーンから洩れる光が当たっていた の編んだマフラーを二人で巻いて、その手も繋がれたままに… TOP 2008/11/20 |