素材:アトリエ夏夢色様
今年も赤也の誕生日がやって来た できるだけ心のこもった物をプレゼントしたい そう思ってもお小遣いには限度というものがある あーぁ、どうしようかなぁ… Masquerade 「あれ?元気ないじゃん」 登校早々、机に突っ伏して溜息つくに赤也が声を掛ける 「オレの誕生日プレゼントで悩んでるんだろ?」と の溜息の理由まで分かっている はそんな赤也を恨めしげにチラッとみて更に深い溜息が口をつくのだった すると、赤也は前の席に後ろ向きに座っての頭を軽く叩いた 「そんなに悩むなって…オレはこれでいいし…」 がそっと顔をあげると、口を尖らせている赤也の顔が目に飛び込んできた うっ……、そ、それって… 尖らせた口は明らかにキスを意味している 「今ここでしてもいいんだけど」 「な、何それ……タコ…?」 「何を惚けてるんだよ、キスに決まってるじゃん」 ぎゃー、何をハッキリ言っちゃってるのよ しかもそんな大声で、ここは教室だっていうのに… 赤也の声にクラスメイトの視線が一斉に注がれる は咄嗟に机の上にあったノートで赤也の顔面を叩いていた 「バッカじゃないの!少しはその空っぽの頭で考えなさいよっ!」 しかし、そんなの言葉も赤也にはどこ吹く風で この日は一日の後を追いかけ、その度に「、キスしようぜ」とか 「プレゼントはキスな」などと言ってくる始末だ まったく本気なのか冗談なのか… 別に赤也とキスしたくない訳じゃない どちらかというとしてもいいかな?なんて思ったりすることもある だけど…何ていうか、雰囲気っていうのも大事だと思うのよね それなのに赤也ったら女の子の気持ちを分かってない そんな事を考えながらほんの少しだけ憂鬱な気分で放課後を迎え はテニス部の部室へ急いだ テニス部のマネージャーでもあるは誰よりも先に行って 練習の準備をする必要があるからだ 「う〜、汗くさっ」と、 部室に入るなりガタガタと大きな音を立てて窓を開けていく その時、背後から「遅っせぇ」と聞き慣れた声が聞こえてきた 「げっ…」 「げっ…って何だよ」 「何で赤也がいるのよ」 「オレ、一応テニス部なんですけどね」 「いつも一番遅いくせに、何で今日に限って早いのよ」 「そんなの決まってるっしょ」 言うが早いか赤也はを壁際に追いつめる 慌てて逃げようとするが、赤也の両腕でしっかりと逃げ場を塞がれ その機会をも失われてしまった 「ちょ、ちょっと…な、なにするのよ」 「へへっ、これなら逃げられないっしょ?っていうか逃がさないもんね」 逃がさないって… マジでするつもりですかーー!? 「や、やだ…」 「やだって言ってもダーメ!」 うわぁ… 次第に近づいてくる赤也の顔には思わずギュッと目を瞑ってしまう その時、まさに天の助けとでも言うべきかお邪魔虫と言った方がいいのか すぐ後ろから「何しとるんじゃ赤也」と言う声と共に 赤也の頭を叩く音が聞こえてきた 「うひっ…に、仁王先輩っ!」 「部室で女の子を襲うとはやるもんじゃのう」 「そうそう、真田がいたら100年早いわって言われるぜぃ」 「って言うか…その前に殺されると俺は思うぜ」 いつの間にか先輩たちに囲まれていて さすがの赤也も「う〜」としどろもどろになってしまう 「ということで、赤也は校庭50週してきんしゃい」 「うげっ、なんでオレだけ…」 「ほぅ、真田に言ってもいいんだな?」 「い、行ってきます」 何よりも、誰よりも真田が怖い赤也は渋々部室を飛び出して行った 「、お前さんも大変じゃのぅ」 赤也が部室から出て行くと、今度はが先輩たちに囲まれる 何か妙な威圧感には少しだけ赤也の気持ちが分かったような気がした 「え、えーと…」 「どうせ赤也の事だから誕生日プレゼントはキスがいいとか言ったんだろぃ?」 「ど、どうしてそれを…!?」 「今日一日中お前を追いかけていたしな」 いや、もう流石と言うか何と言うか… 先輩たちには赤也の事が何でも分かるんだと感心してしまう がまた違った意味で溜息をつくと 「なんだよ、お前は赤也とキスしたくねぇの?」と丸井が意味ありげに訊く 「え、えーと…」 そんな事を訊かれてもどう答えたらいいんですかー!? 赤也とキスをしたくないって言ったら嘘になっちゃうし、 だからといってしたいなんて… そんな事を言ったらこの先輩たちはとんでもない事を言うに決まっている 「だけどなぁ、オレ様より先に赤也がキスするなんてのは許せないぜぃ」と、 困惑するにブン太が本音を洩らすと「問題はそこかよっ」と、 すかさずジャッカルのツッコミが入る いつもの事ながら「ナイス」と二人のコンビネーションに拍手を贈りたいけれど 状況が状況だけに笑えない自分が悲しい… 「当たり前だろぃ、赤也には100年早い!…ま、ジャッカルも無理だろうけどな」 「なんだと」 100年早いって言われたら私はどうすればいいの? マジ、本当の意味でキレイなまま星の藻屑となるわけ? 視点がずれてきている気もするが、そんなくだらない事を脳内で考えながら の溜息がさらに深くなる すると、そんなの気持ちを見抜いたのか、 仁王が突然突拍子もない事を提案したのだった 「おっ、いいじゃんソレ」 「じゃろう?」 「やってみる価値はあるかもな」 「どうじゃ?お前さんものりんしゃい」 のりんしゃいって…何を勝手な事を…… いいじゃんとか価値とか… いったい何の価値があるっていうのよー! なんて心の中で叫んでも先輩たちは勝手に話を進めている 「でな、お前さんが…」 「いや…それは無理なんじゃ…」 「心配しなさんなって」 「でも…私と仁王先輩じゃ体格も違うし…直ぐにバレるんじゃ…」 「大丈夫だって、赤也はバカだからな」 「は…はは…ははっ……はぁ」 なんか複雑な気分… 勝手に決められ、進められていく仁王先輩の提案。 明日の赤也の誕生日はいったいどうなってしまうんだろう 「、明日は赤也がその気になるように誘うんだぜぃ」 丸井の結びの言葉には渋々ながらも頷くしかなかった 翌日、逃げていても朝はやって来て赤也の誕生日を迎えてしまった 何を期待しているのか朝から赤也は上機嫌だ 「っ、いよいよだな〜」と、 語尾に音符やハートマークがつく勢いで駆け寄ってくる 無邪気な赤也の笑顔は少しだけ罪の意識を感じさせる 「今からすっか?」 「しないわよっ」 と言ってから、ふとブン太の言葉を思い出す。 『赤也がその気になるように誘うんだぜぃ』 その気と言われても、私が言ってその気になるのか疑問… 戸惑いながらもが「ほ、放課後ね」と口にすると、 みるみる赤也の頬が染まっていく 「え!?」 「マジ?…うひょ〜放課後が楽しみだぜ」 あれ?あれれ?その気になっちゃった…の? 多少良心は痛んだが、こうなったら開き直るしかないとは覚悟を決めた 放課後、部活が終わったら教室で待っていると告げると それはもう満面の笑みを浮かべていた 部活中もいつも以上に元気で真田から怒鳴られてもへらへら笑っていた そんな様子を見ながら不敵に笑う仁王たちにも気付かずに… 部活が終わるとたちは教室へと急ぐ そして、赤也も少し遅れて教室に入ってきた それはまるで教室のドアが壊れてしまうかと思うほどの勢いで… 薄暗くなった教室の中、俯いたまま私は赤也を待っている 赤也の額に光る汗が期待を表していた 「っ」 走ってきて乱れた息を整えながら私の名前を呼ぶ そして、机を挟んで私の前に座った 私はタオルを取り出して額の汗を拭こうとすると、 その手を掴まれ一瞬時間が止まったようだった 「赤也…誕生日おめでとう」 そこに居るのは私であって私ではない まるで映画のワンシーンを観ているような気さえしてくる 次第に近づいてくる赤也の顔。 その唇が触れるまであと数センチ… その時、 「プリッ」 「プ…プリ…?」 「ピヨ」 「ピヨ…!?」 赤也は嫌な予感を肌で感じながら、を確かめるようにその顔を覗き込むと そこにはきらりと光る瞳が浮かび上がった 「マ、マ、マ、マスカレードォォオオオーーーッ!?」 赤也の悲痛な叫びと一斉に笑い出す先輩たちの声が たった今まで静寂だった教室に響き渡った 「見てみんしゃい、赤也のあの顔」 「やっぱり引っ掛かっただろぃ?」 「ったく、たわけがっ!」 驚きで3メートルは後ろに飛んだ赤也は腰が抜けたように呆然としている そんな赤也の頭を先輩たちが一人ずつ言葉を残しながら叩いていく そして、最後に「後はに任せたぜよ」と まるで責任転嫁をするように教室を出て行ってしまった そんな無責任な… 言い出したのは先輩たちなのに… は呆然としている赤也に恐る恐る声を掛けた 「赤也…?」 「う……」 「えっと…あれって先輩達流の赤也への誕生日プレゼントだから……たぶん」 「……」 「ご、ごめんね」 拗ねたように膝を抱えて座っている赤也を宥めるように、 はその前に座り込んで叩かれた頭をそっと撫でる すると赤也は少しだけ顔を持ち上げ、上目遣いでを見ると 不貞腐れたように「お前はないのかよ?」とぽつりと呟いた 「…お前はプレゼントねぇの?」 「…あるよ」 「じゃあ、くれよ……くれなきゃ帰んねぇからな」 これって赤也の策略? そうは思ったけど、今日は特別な日だから私もその策略に乗るよ は「いいよ」と小さく頷き、耳元で「誕生日おめでとう」と、 そして、大好きだよの言葉を添えて赤也の唇にそっと触れた 思い切った事をしてしまった自分が恥ずかしくて、が慌てて離れようとすると 赤也は、その身体が離れてしまわないように自分の方に引き寄せる 「逃がさねぇって言ったっしょ?」 まるで本物のかどうか確かめるように、その頬に唇に触れていく 触れた唇はが本物だと物語ってはいるが、騙された心が僅かな疑惑を残す 「お前……だよな?」 今度はがそれに反応するかのようにフフッと小さく笑い、 その唇をゆっくりと動かした 「プリッ」 「い゛っ!!!!!」 騙し騙され、探り合いの赤也の誕生日 どうする?もしかしたら私は仁王先輩かもしれないよ 真実を知るためにもう一度確かめてみる?…ピヨッ その後しばらく赤也が『マスカレード恐怖症』に悩まされたのは言うまでもない END BACK めちゃくちゃ遅くなっちゃったけど、 赤也、誕生日おめでとう!!大好きだよ〜♪ |